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〖第4話〗お姉ちゃんがかける魔法
しおりを挟む可愛らしいその箱を開けてみると整然と並ぶ化粧品。お洒落な、見ただけで高い化粧品だと解った。
「すごいね。お姉ちゃん、お洒落さんだね!」
「全部トモにあげるよ。私のお下がりで悪いけど。でも、トモの肌の色とか唇の色とか見繕って持ってきたから。私とトモは違うでしょ?みんな違ってみんな良いんだよ。私に合う化粧とトモに合う化粧は違うの。トモの切れ長二重の目なんて、すごくクールだよ。知的で格好いいよ。学校には、無地の黒Tにデニム合わせて、お洒落なサンダルかスニーカーでもいいよ。服は私の箪笥から好きなの着て良いし、靴も好きなの穿いていいからね。さて……」
「何?」
お姉ちゃんは笑って言った。
「まずはメイクだよ。次はヘアメイク。後は、お城へ舞踏会。ファミレス行くってお母さんに言ってあるの」
「言ってあるってことは、他に何処行くの?」
「バー、行ってみよ?お酒、飲んでみたいでしょ?友達がバーテンダーやってるお店があるの。静かな店だよ。あからさまな未成年とか、酔っぱらいとかお行儀の悪いお客さんは『満席です』って断る店。他人に言わない、テストみたいにみんなに解る数字が出ない、そんな優越感もオツなものじゃない?」
私は目を瞑る。お姉ちゃんが魔法をかけていく。とけなければ良い魔法。するすると、肌を滑るファンデーションのスポンジ、ハケ、チップ、目の際を走る解らない冷たい液体、緊張するマスカラ。何か気持ちいい。
次はヘアメイク。何かがシュウシュウいう。
「目、開けてみて」
知らない人がそこにいた。シンデレラなんてもんじゃない。誰だこれ、私なの?こんな風にお洒落は、自分を変えてくれるの?
「学校には、この感じだと、普段はファンデーションと眉と口紅だけで良さそうだね。お出かけの日とかに、今みたいに気張れば良いし。最初巻くように作るのは難しいから、ストレートにして軽くバームぬったり、髪も、アップにしちゃえばクールだよ。後から教えてあげるし、それからアレンジの縛り方とか、ヘアアクセのネット見て勉強してもいいよ」
毎日、勉強する。綺麗は《なれる》んだ。私も綺麗になれるんだ!私を馬鹿にした人達、見返してやる!一樹も。
真奈美を庇ったのも、一方的に私を責めたのも、噂が、本当だからだと思った。真奈美が好きだから、つきあってるから。今、真奈美と一樹はクラスの中でのもっぱらの噂だ。いつも外のランニングのとき真奈美を見てるって。たまに、二人で帰ってる姿を見かける。
そして、部活中のグラウンド。一樹はいつも、2年の女子をいつも見ている。
認めたくないけど真奈美は可愛い。私は明るいふりをしてるただの優等生だ。でも、変わる。これからは。今の鏡の中の私は卑屈にならなくて済む容姿をしている。
「明日、私、休みだから、特訓しよう。服とかのコーディネートとか、メイク雑誌買いに行ったりしても良いし。ファッションは自分に合う雑誌。トモの悪い点は、年頃の遊びをしないことかな。馬鹿みたいに補導されるようなことをしろって言うんじゃなくて、帰宅部でも友達と、うーん図書館行った帰りカフェに行くとか、軽くファストフードのお店で恋バナとか、格好いい男の子の話するとか、趣味のはなしとか、ないでしょ?まあ、そんなとこ。青春なんて一度しかない。クソみたいな奴に煩わされる部活、卒業記念。切なかっただろうけどね。トモは走るの速かったから。大切にして努力してきたものが理不尽に奪われるのは辛い。多分、トモはひどい貧血なんじゃないかって思う。日焼けしてない所の肌、蒼白いよ。唇も、爪も状態悪い。速いうち、お母さんと病院行ってきな。ま、とにかく今夜は楽しもう!明日は、お洒落勉強会。多分月曜日の学校までにはトモのことだから、12時の鐘は鳴らないまま学校に行けるよ」
未来が、開けていく。私の扉は一つしかなかった。今お姉ちゃんは『可能性』の扉を示した。みんな、見たことがない、キラキラ光っている扉。『勉強もするんだよ?法学部狙ってるんでしょ?』
お姉ちゃんは、扉の前に私をつれていく。開けるのは私。
『あらぁ!綺麗ね!モデルさんみたいよ、智美!』
様子を伺ってたお母さんが顔を出した。私は、夕ご飯のことをお母さんに謝りたかった。
「あの、お母さん、夕ご飯美味しかったよ!あのね、あの……」
「いいよ。いいのよ。智美、お素麺昔から好きだもんね」
「お母さんが作ったお素麺だから美味しいの。また、作ってくれる?」
いくらでも作ってあげるよと、お母さんは微笑む。
「3人で智美お洒落記念日記念。写メ取ろ」
「お母さん、化粧、今日ろくにしてないけど」
大丈夫。お母さんはいつも綺麗。お姉ちゃんと私にそう言われて、お母さんは少し嬉しそうだ。
カシャッとお姉ちゃんはスマートフォンの連写機能で3人を撮った。撮り終わった後、色々いじっている。
──『我が家の宝石 3つ』
お母さんがオパール、お姉ちゃんがルビー、私がサファイア、そう書いてある。それぞれの誕生石だ。私一人の写真も撮ってくれた。我が家の電子機器担当はお姉ちゃんだ。あまりに普段の自分とかけ離れた、この姿。ずっとこのままでいたい。『後でみんなに転送するね』送られてきた、変身したその一瞬を切り取った写メ。ロックして絶対消せないようにした。
「仕上げが肝心かな?トモ、手首裏返しに出して?」
シュッとつけられた大人っぽい香り。甘い、酔いそうなバニラの匂いも思わせる。
私は香水のつけ方を今知った。お姉ちゃんのジェスチャーを真似する。自分からいい匂いがするのは何て気持ちがいいんだろう。でも、私のイメージとは、ちょっと違う気がする。
「お姉ちゃん、私、こんなイメージ?」
「クールなイメージのトモからこの香りがしたら、男の子はドキっとするんじゃない?」
「えぇ?」
「ヒプノティック・プワゾン。ディオールの廃盤よ~大事に使ってね」
甘い毒っていう意味よ。絡んできたクラスメイトの男の子の話も訊きたいしね。さて、行こうか。トモ。これ、履ける?
玄関に置かれた黒のお洒落なヒール。普通ヒールなんて、歩きにくいって思ってた。マメやタコなんてできたら、走りにくくなる。何て、前は思っていた。でも、今は微塵も思わない。何かを終わらせるって新しい何かを始めるきっかけにもなるんだ。新しい、はじまりの日だ。
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