【完結】少女が羽化するとき~あなたに見つけてもらえたから~

カシューナッツ

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〖第5話〗甘いカクテルと滲む思い

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 私はそろそろとハイヒールを穿く。法事の時に履いたヒールは痛くて、足に合わなくて豆ができたのに。なのに、このヒール、足が痛くない。むしろほどよくフィットして履きやすい。その事をお姉ちゃんに伝えると、
「クッションのテープ貼ってあるの。昔100均で買っておいたのよ。合ったんなら良かった。あ、豆ができる場所が決まってるなら、最初に絆創膏をつけるといいよ。行こうか。駅の路地すぐだから、歩こうか」

 お洒落なジャズがかかったバー。初めて足を踏み入れた世界。格好いい背の高いお姉ちゃんの友達の男の人が作ってくれた、お姉ちゃんお勧めの、初めて飲むキールとベリーニというカクテルは、とても香りがよくて美味しくて、お通しにくれたナッツ、サービスのソルダム、ホットサンドも、みんな美味しかった。
 こんなに楽しい時間は初めてだった。指先に、あっという間に塗られたネイルが暗い照明に映えたことも、揺れるイヤリングも。ずっと好きだった一樹の話も。カクテルを含むごとに、甘いカクテルは不思議に働いて、色々なことを話させた。
 目が偶々たまたまあって、にっこり笑いかけてくれた姿良くマティーニ(というカクテルだよ、とお姉ちゃんが教えてくれた)を飲む老紳士も、ああ、ここに安らぎを求めてくるんだなぁと思った。静かな夢のような時は過ぎていく。ああ、帰りたくない。家に着きたくない。化粧を落として、着替えたら、魔法がとけてしまう。
「元に戻りたくないな……」 
 ポソッと帰り道呟いた言葉に、
「だから明日、自分で綺麗になれるように特訓するんでしょ?」
 ハッとする。そうだ、忘れてた。魔法は訓練すれば自分でもかけれる。だからお姉ちゃんは、たくさんプレゼントをくれたのに、私は何を弱気になって甘えてるんだろう。
「お姉ちゃん、私頑張るよ。綺麗になるのも、勉強も頑張るよ」
「お、えらい!今日は楽しかった?」
「うん、小説の世界みたいだった」
「明日は、メイクの特訓と買い出しだ!」
「うん!」

 帰り道、お姉ちゃんは、真面目な顔で言った。
「……突然だけどさ、お店でも話してくれたけどトモは、一樹くんは許せない?」
「え?私そんな話、したっけ!?」
「地味にクダ巻いてたよ。私は、一樹くんが好きなのはトモだと思ったけど。今日はあの厚塗り化粧の女に、うまくハメられただけじゃないかな。トモも売り言葉に買い言葉だったみたいだし。……好きだったんだね。だから、トモのこころを切り刻んだね。好きだったり、信頼してる人じゃなきゃ、こころは傷つかないから。もし、謝ってくれて、全部の誤解が解けたら、ゆるしてあげたら?大喧嘩だった、みたいに」
「真奈美が好きだって、つきあってるって、クラスの噂。別にもういいよ。あの時、あの瞬間に期待していたの。一樹なら上手く庇ってくれるか、後で理由を訊いてくれると思ってた。でも、迷わず悪者は私、被害者は真奈美だった。あの瞬間……未練たらしく一樹を好きな気持ちはもう辞めようと思ったの。おしまい。長い片思いだった。でも、終わり。見ているだけは、疲れちゃったの。なんてさ、本当は見ているだけでも良かったの。でも、グラウンドで、一樹を見つめても、真奈美が黄色い声を出して手を振るだけ。私と視線が合うときは、なかった。あと、もう、クラスメイトに媚び売るみたいに明るく振る舞うのやめようって思う。無理してたんだなぁって。ぼんやり、初めてのカクテル飲みながら思ったの」
 無理に笑って、貧乏くじ引かされて、卑屈になって、でもグループには入れない。同じ話題に入れてくれない。私をハブる。影で私の悪口言って楽しんでいるのも聞いた。
───────────────
『明るく振る舞ってはいるけどさ~ホントはただの陰キャのガリ勉じゃない?』
『てか、メガネ無しの、のび太じゃね?』
『マジウケるんですけど!』
『キャハハハハハ』
───────────────
 こんなの『友達』じゃない。そんなのいらない。だったら独りと同じ。独りより悪い。独りでいい。ううん、独りがいい。
「明日は買い物とメイクの特訓!どうしたの?暗い顔して。トモ、笑ってみて?トモは可愛い。トモはおりこうさん。私の大事な妹なの。でも笑うのは、本当に楽しいときだけ。じゃないと、後で切ないから。解った?」
「うん。うん……お姉ちゃん、ありがとう。ありがとうね」
「お母さんにも、だよ?ファミレスなんて、嘘だって、とうに解ってるよ。それでも初の夜遊びさせてくれたんだから。コンビニ寄って、緑茶買おうか。酔いざましにいいから」
 私は油断してた。ここ、一樹がバイトしてるコンビニだ。会いたくない。せっかくのお姉ちゃんとの楽しいお出かけが、水の泡になってしまう。
『バイト中に来て、息が酒臭かった』
 なんてクラス中に言われたら学校自体行けなくなる。彼女の真奈美にも言うだろう。
『あいつ、レギュラー逃してやけ酒したみたいだ』
 とか、二人で私を笑うのかな。小学生からの幼馴染み。真っ直ぐな奴だと解ってる。きっと、好きな相手にも、きっと真っ直ぐなんだろう。私は手先が震えた。お姉ちゃんは勘がいい。
「あのレジの子でしょ?あれが一樹くんだね。違う?今なら言えるよ。言いたいこと。さっき、タブレットあげたでしょ。うん、お酒臭くなんかないよ。行っておいで」
 お姉ちゃんに背中を押された私は、おそるおそる、自動ドアの前に立った。これは、何の扉なんだろう。煌々と光る店内のLEDが眩しい。
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