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〖第27話〗
しおりを挟む「あのときと同じ、あのときと同じですね」
あの場所、憶えている。深い山の中。高原の光が強い、綺麗な場所。緑の空気。澄んだ真上から差す光。自分の近くにはない非現実的現実。リアルすぎる見渡す景色の既視感。
これは、夢じゃない。いつの間にか叔父さんの家に着いた。私は庭の山梔子が植わっていた場所に一目散に駆ける。一歩一歩足取りが軽くなる。
時間が、還っていく。
──────────
あの夏が、戻ってくる。あの時、君との別れのとき、現実の世界に帰る時間が近づくにしたがって、悲しくて、悲しくて、仕方無かった。君が僕の心の中からいなくなることがつらかった。段々と君が記憶の中から消えていく感覚が、切なかった。
今、君に会いに還ってきた。鞄も、杖も投げ出す。身体が軽くなる。身体の中の造りさえも時間が巻き戻されていくように若返っていく。あの夏に戻っていく。
あの夏、記憶から消えてしまう、君への行き場のない僕の君への思いや、この夏の僕さえも置き去りにして過ぎ去っていく時間があまりにも悲しかった。
屈託もなく、すべてを解っている君が笑うたびに、手を離す僕だけが悲しいのではなくて、掴んだ手を離さなければならない君も苦しかったんだと解っていたよ。
君は優しいから、人一倍傷ついていることが解っていたよ。その上で、全てを笑顔に隠していた君のやるせなさを若い僕は全てを解ってはあげられなかった。
あの頃いつでも泣きたかった。でも、もうちゃんともう笑える。終わりに怯えることもない。
「山梔子!」
そう叫ぶと、山梔子は驚いたように振り返り、微笑んだ。僕は、飛びつくように山梔子を抱きしめた。
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