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君ハ龍ノ運命のヒト【第1章】

ミズチとの近づく『ベツリ』⑪

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『………美雨、好き。ずっと、好きだよ。オレのアイは美雨だった。いつか、オレは美雨を置いていく。美雨を傷つけて、天へ帰る。永遠にオレを想って、なんて言わない。ゴウマンだもの。ただ、カケラくらいでいい。オレのことを憶えていて──変な白ヘビがいたなって』

『永遠にミズチを忘れない。誓うわ』

『何に誓う?』

『あなたに』

 私がそう言った瞬間、風が舞い上がった。布団と毛布が宙を舞う。ミズチは白の肌襦袢を来た若い凛々しい男の人になる。いつもの人型より成長し、大人の見目麗しい人型のミズチになった。長い黒髪から甘い匂いがする。

『美雨が好きだ。永遠に、美雨だけだ』

 抱き締める腕がいとしくて、切れ長の瞳にただ見惚れた。
 月は中天を周り、気怠い朝日を連れてくる。朝なんて来なければいい。そう、初めて思った。
  
***

 毎日、ミズチとたくさん話したくて、会いたくて急いで走って、学校から帰って大友さんのコロッケを買って帰る日々。雨の日はミズチは少し寂しそうだ。
縁側でミズチはあの日から成長した、美丈夫の着物姿の人型で枯山水の結界を見ていた。

「お父さんが心配?」

「ちょっと心配。悲しい心がいっぱいだと、お父さんいっぱい泣くからね。人間の世界も、たくさん雨降る、洪水が心配だな」

ミズチは決まり悪く眉を下げ、私は少し冷ましたプリンを差し出す。

私はミズチが好きだ。白ヘビちゃんのミズチも好きだ。少年のミズチも。私はあの時、長い匂い立つような美しさの少年のミズチに、多分一目惚れした。

だから一度は逃げた。
恋の泥濘に入っていくのが怖かった。
 

今、千切れるようなベツリが待っているのは薄々気づいている。

これはシレンの一環なんだろう。神様に恋した。私が悪い。神様と恋愛なんて、罰当たりな、世間知らずだ。

好きになる相手が悪かった。叶わないのに。本当に、待っているのは千切れるような別れだ。早く忘れなくてはならないことは解っている。でも、無理だ。心にも身体にもミズチがいる。
思いが話す言葉に詰まり、手元のマグカップを見る。不器用に涙をこらえて、笑いながら、私は話をする。

「私のお気に入りのマグカップだよ。可愛いでしょ。昔、婆様に旅行先で買って貰ったの。水神様の可愛い龍がいるの。瞳の印象がミズチににてるから、ミズチにあげる。私のこと忘れないように」

マグカップには可愛らしい龍のイラスト。子供だましかもしれないけど、私のものが何かミズチのものになる。それだけで、いつか終わると解っているこの恋も、何処か報われる気がした。

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