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君ハ龍ノ運命のヒト【第1章】

ミズチとの『サヨナラ』⑫

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「あのさ、私、ミズチが好きかもしれない。でも、貴方が明日もし、ここを出て独りで旅立つとしても、私はとめないよ。貴方には貴方の人生を納得の行くように送って欲しいの。その時は、いつか何処かで会えたらいいね──夜も、もう来ちゃダメだよ。さよなら、ミズチ………」

私は、逃げた。別れを真っ正面から受け止めたくなかった。振り返らなかった。振り返れなかった。真っ正面から、ミズチに想いを否定されたら、あまりにも辛すぎる。私の初めての『アイ』は、貴方のところに置いてきてしまった。だから、思い出だけは綺麗なまま残っている。

  ***

それ以来、屋敷でミズチの姿を見かけなくなった。夜の密やかな逢瀬もなくなった。
これで、良かったんだ。そう何回も自分に言い聞かせた。

恋の終わりが、不完全燃焼の別れが、こんなに辛いなんて思わなかった。

 ***

ある夜遅く、婆様から呼び出しがあった。あったのは、

「ミズチ様がプリンが食べたいと。美雨のプリンではなければ食べないとの仰せじゃ。プリンを持ってミズチ様の部屋へ」

どうして今なの?という言葉にならない、揺らぐやるせなさがあった。もう、終わらせた恋。同じ屋敷の中にもかかわらず、あれから遇わないということはお互いが避けてるということではないのか。
 
未練なんて持ちたくない。思い出だけではつらすぎる。過去の中で生きたくない。叶わない思いなら、いっそないほうがいい。

 こう、思えたら。強くあれたら。本当は私は毎日ミズチが恋しくて泣いてる。でも会って顔をあわせて『さよなら 』なんて言われたくない。本当の別れが、怖い。

未練なんて持ちたくない。思い出だけではつらすぎる。過去の中で生きたくない。叶わない思いなら、いっそないほうがいい。

  *** 

私は試験勉強に忙しいという理由をつけて、ミズチをぞんざいに、扱うことにした。もう、終わった恋を──無理矢理終わらせたように見せかけた恋を──未だに引き摺る、ニンゲンの小娘と思われたくなかった。

くだらないプライドに見えるかもしれない。でも、違う。いつものように言葉を交わしたら、堤防のように塞き止めていた感情の堰から、切なさが、未練が、溢れだして、崩れてしまいそうだった。

不様なニンゲンの娘に成り下がる。きっと、縋ってしまう。ミズチを困らせてしまう。

一呼吸おいて、マグカッププリンを作る。ミズチの前で泣きたくなかった。だから、今のうちに泣きながらマグカッププリンを作った。

───────────《続》
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