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君ハ龍ノ運命のヒト【第1章】

ミズチの『ミレン』⑬

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思い出だけではつらすぎる。過去の中で生きたくない。叶わない思いなら、いっそないほうがいい。

こう、思えたら。強くあれたら。本当は私は毎日ミズチが恋しくて泣いてる。でも会って顔をあわせて『さよなら 』なんて言われたくない。本当の別れが、怖い。
 
 ***  

熱いもの、苦手だったな、そう思いに耽る。

「この『おでん』というものは美味しいけれど少し熱いな」
「この巾着には気を付けてね」
「中に何か入っているのか?」
饂飩うどんが入っているよ。とっても熱いけど、美味しいの」
「それじゃあ」

ミズチは一口食べて、「あ、あ、あつっ!」と言葉を最後に立派な美丈夫から、白ヘビちゃんになってしまった。

『美雨、熱いよぅ』
「甘えん坊な神様ね。ふーふーしたよ。熱くないから食べてみて?美味しい?」
『うん!味が染々で美味しい!』


幸せな思い出を思い出しながらミズチを解っていながら、嫌味じみた熱々のマグカッププリンを作る。ミズチが好きな木のスプーンと私があげた、龍のマグカップ。私は他人行儀に声かけをしてミズチの部屋に入った。

 目の前のテーブルにプリンを音を立てて置いて、

「こんな下らない用で呼ばないでよ!たかがプリンなんかで。私は明日テストで忙しいの!」
「美雨、怒らないで欲しい。夜中にごめん。月を一緒に見たかった。月が綺麗だから。空からの月を見せたくて」
「ミズチに構ってる時間ないの!」
「待って」
   
 手首を捕まれる。

 冬の月明かりの風景が頭を過った。綺麗な青。高い山と視線が同じ。まるで鳥か神仙が見た世界──見惚れながらも私は振りほどいてしまった。頭の中の風景が消える。冬の肺が凍りそうな月明かりも。

「だから!私は明日テストなの!邪魔しないで!」

 立ち去ろうとした、私にの背中に、ミズチの声が投げ掛けられる。

「美雨………オレのこと、嫌いなの………?」
 
私は振り返って言った。

「そういうとこ。自分勝手で、相手に拒否権がないことを知らずに押し付けて。汚いよ。私は神様に逆らえない」

 ミズチは震えている。悲しくて、つらくて。ごめんね。でも、叶わないなら、粉々に、破片も残らないくらいにしないと。お互い次に進めないよ。だって私は確かに貴方が好きだった。きっと死ぬまで貴方のことを憶えてる。忘れられない大切な思い出の箱にいれて大切にするよ。だって、ミズチだもん。私が初めて『コイ』した人だから。初めて『アイ』したひとだから。
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