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君ハ龍ノ運命のヒト【第1章】

ミズチとの『ベツリ』⑭

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「美雨………ごめんね。オレは美雨を傷つけていたんだね。もう、美雨の邪魔はしない。少しの間でも、思い出が欲しくて。天から青い紙も、もらった。シレンは終わったって。天へ帰る。もう地上には、美雨の前には現れない。ごめんね。美雨」


ミズチは右目から透明な涙をこぼした。部屋から──私の視界から──立ち去ろうとするミズチを、私は後ろから抱きしめた。


「 ………好きだよ、本当は、ミズチが好きなの。行かないで、行かないで、お願い。あと十二年後でも、二十四年後でもいいじゃない。ミズチは『龍』なんでしょ?一緒にいてよ。私の願いを一つくらい叶えてくれてもいいじゃない。あと、たかがプリンなんて言ってごめん。ミズチはマグカッププリン好きだもんね。いくらでも作ってあげる。グラタンも和風パスタも、カレーうどんも、スコーンも!毎日作ってあげる!何でも作ってあげるから!………だから行かないで、傍にいて。………頼まれてたプリン、食べよう?粗熱取れたね。ミズチが熱いものが苦手なのに、意地悪したね。ごめんね………」


夜はふける。プリンを食べさせあった。ミズチと月を見ながら抱きあった。透き通った霧雨が目に浮かぶ。清々しい香りがミズチからした。
 
 ***

 どんよりとした曇りの日だった。大晦日。辰の刻。


『美雨。美しい雨。いい名前。やっぱり美雨はオレの運命のヒト。美雨の名前のような雨を降らすよ。美しい、雨を』


 ミズチは青い紙を持っていた右手を空に掲げた。空が、曇り空が割れて光が差し込む。

『十二年、待っていて欲しい。もし、オレを愛していてくれるなら、だけど。オレは美雨を愛しているよ。美雨だけ、オレには美雨は運命の相手だ』 
 
 ***

その年の元日から一週間、金色の霧雨が降り続いた。毎年毎年、元旦の辰の刻に金色の霧雨がこの国に降る。奇跡の雨。専門家は『~~現象ですね』など偉ぶって言っていた。私はミズチとの最後の別れの後に倒れ、病院に搬送された。貧血だった。
私は──妊娠していた。誰にも言わなかった。ミズチにも言わなかった。婆様にも言わなかった。『堕ろせ』何て言われたらどうしようかと思ったからだ。私はお腹を撫でながら泣いた。

「この子を殺さないで」

 婆様はやさしく微笑んで、

「神様の子だ。そんなことはせん」

と言い、私に『神との別れ』はつらかろうに。そう言い婆様は、声を潤ませた。


────────────《続》
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