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〖第63話〗
しおりを挟む「恋人だもの、解るわよ。悔しかったんでしょ? 私も真波に釣り合ってないと思われるのが切なかった。でも、もういいよ。泣かないで。もう怒ってないから。私が辛かったのは、真波がお母さんに囚わたまま、私をお母さんに重ね合わせ続けているんじゃないかって思えたことよ。私は、真波のお母さんを映す歪んだ鏡にすぎないのかって。でも、誤解が解けたから、いいのよ。この話はおしまい、ね」
真波と残りの今年をどうしようか。私は真波の手を握りながら思った。触れてるところから、熱や湿度だけじゃなくて感情も伝われば良いのに。手が、震える。
「美雨、さん?」
「──クリスマスはシャンパンとシードルを、真波と一緒に飲みたいの。ご馳走を一緒に作って食べよう? チキンは月並みだけど白い髭のおじさんの店にもう予約してあるの。私の毎年の恒例なの。雪予報は夜半過ぎだから、お酒を飲んで雪を待とう? 仕事が休みに入るから、手が込んだご馳走も作ろうね。シメジとベーコンとブロッコリーのパスタと、トマトのマリネと、茄子のグラタンと、野菜のコンソメスープに、玉子サンドと、ツナサンド。シャンパン、シードル。だいふくとおはぎに、チキンの骨は危ないから、すぐ専用袋にいれるように専用袋を作っておかなきゃ。ケーキは、どうしようか。近くの小さなケーキ屋さんに予約するの。いつもはチョコレート・ケーキなの。美味しいのよ。とっても、とっても美味しいのよ」
声まで震えた。涙は出ない。悲しみでもない。怒りでもない。ただ、感情が昂ったといえばいいのか、一番適した言葉を考えた。何故か浮かんだのは理科の授業で教師の言った『飽和』だった。
「美雨、さん?」
「感情が溢れたのよ。つらかった。駄目だね。全然クールな大人の振る舞い方なんて出来ない。私以外見ないで。私はよそ見なんてしたことない。何が『この話はおしまい、ね』よ。年上ぶって。私、本当は喚き散らしたかった。あなたに枕を投げて、こんな女知らないわよって怒鳴りちらしたかった。そのくらい傷ついた。真波、あなたの描いた絵を沢山見た。破る前のキャンバスに描かれてたお母さんが、全ての女性の絵のモチーフに描かれてる。今、私の絵が二つ。真波、これからのあなたは何を描く?」
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