氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ

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〖第85話〗

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 はにかんで笑う真波が可愛らしくて、精悍な大型犬が、私を見るときだけ穏和な微笑みをたたえるような感じがした。可愛い。

 しがみついて上を向いて、両頬に手を添えてキスしたい。抱きしめたら、コートに染みた私がいつも使ってる香水の甘い香りがするんだろうなと思ってしまった私は、若い子のグループより初詣の感覚が無いな思っていると、真波は私の額に手をあてて、

「熱、ある? 顔がちょっと紅い」

「夜目のせいだよ。大丈夫」

 参拝を済まし、童心に戻りイチゴ飴を食べながら帰る。片手には真波が買ってくれた、甘酒。私は真波を見る。外での真波の顔は、どちらかと言うと冷たい部類に入るみたいだ。私と目が合うと、表情がふにゃりとやわらかくなる。

「こんな穏やかな幸せがあるなんて知らなかった」

「いい年になるといいね」

「いい年にしよう、でしょ」

──────────
  
 朝早起きしてお餅をついた。我が家にはお正月に必ず登場する餅つき機がある。私は、お餅が好きなので、餅米を見かけるとお餅を作っている。
 とっても伸びて美味しい。普段からお雑煮には、なるべくこの、餅つき機でついたお餅を使う。

 手作りあんこも作ったので絡めて、餡ころ餅にしたり、きな粉を買ってきて砂糖を足して、絡めてきなこ餅にしたりするのはこの餅だ。きな粉が余ったら、低脂肪牛乳と割って飲む。

 さて、こづゆは昨日作った。奮発して鶏肉ではなく貝柱を入れた。他は、定番メニュー。作れなかった分は商店街で買ってきた。

──────────

「すごいね。圧巻!」

 そう言って貰えると嬉しい。私は二人分のこづゆとお雑煮をよそって、こづゆ椀とお雑煮をテーブルに置く。新しい年を迎えることがこんなに幸せなものなど知らなかった。

 小学生の頃、私がお雑煮とこづゆの作り方をおばあちゃんに教えてもらった。我が家の生命線は、おばあちゃんだけだった。母はお姫様だった。

 父は家で仕事をする人だった、らしい。私には興味がなかった。何故なら父は母しか興味がなかったからだ。だから父が家の仕事部屋に籠って何をしているかなんて知る由もなかった。絵を描いているという話を他人から聴いた。実際描いていたが、趣味だと思っていた。

 父は知り合いには建築士や、弁護士だと適当に言っていた。外に出かける日は母が車椅子で父を押して何処かへ出かけていった。『大学よ』と笑う母を私は可哀想なものを見る目で見た。虚構が全ての憐れな風景だと思った。

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