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〖第5話〗
しおりを挟む「イル?」
「美味しくないなら美味しくないと仰って下さい。もう、作りませんから!」
食べ終わった食器類をバスケットに手早く、乱雑に戻していきます。
「イル?言いたいことがあるなら言え。どうした、急に。お前らしくない」
ジルベルト様は私の手首を掴み、私を見つめました。私もジルベルト様を見つめます。私の右目から一筋涙が頬を伝いました。空いた左手で涙を拭いました。
何一つジルベルト様は解ってらっしゃらない。感情が溢れてきます。声が震えて、涙まで出そうになります。私は溢れそうになる涙を、必死でこらえました。
「らしくないのは、ジルベルト様です。私はこの蒼い薔薇の庭でジルベルト様に会うのが楽しみでした。毎日お菓子を作る時間は何より好きだったのに……手を離してください。何も言わないで下さい………お願いです」
──────────
『どうしてあんな風に抱きしめたりなさったんですか?』
──────────
その言葉を必死で飲み込みました。声が潤むのを必死で耐えます。ジルベルト様は、手を離してはくれません。
「イル。聴いてくれ……君の髪と瞳の色が……あの方と同じだった。あの方は『禁忌の人』だ。アップルパイ、シナモンがきいていて美味しかった。また、頼みたい」
私の頬を、唯々涙が伝います。すべてのキーが組合わさります。私は、その程度だったのです。蒼の国の旗印『聖女』や『勝利の女神』と称されるエリアラ様には私は遠く及ばない。当たり前です。比べること自体畏れ多い、貴い女性。私は、ただ髪の色と瞳の色が同じ、使用人の木偶。
ジルベルト様が見ていたもの。私の後ろにはエリアラ様の影。楽しみにしていた『私だから許された』禁忌の蒼い薔薇が咲く庭での秘密のティータイム。許された理由は、『私だから』じゃなかったのです。私じゃなくても良かったのです。紫の瞳と、金の髪をもつ年頃の女性であれば。
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