僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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光の中で佇む僕〖第19話〗

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 潤む声でそう言い放ち、逃げるように立ち去ろうとする少年の腕を深山は掴んだ。腕を強引に引き、抱きしめる。深山の胸に収まった少年は、『離して下さい!』と暴れ、訴え続けた。

 しかし、長身の深山の力は小柄な少年にとって、まるで、大人と子供の喧嘩のようだった。思いきり深山は少年を抱きしめた。暫くし、脱力したように深山に身を預ける少年を片手で抱きながら、金色の柔らかな髪を撫でた。

「アレク。少しは落ち着くか?」

『………』

「昔、私は泣き虫で、良く父に頭を撫でてもらった」

『………ふかやまさんは、泣き虫だったんですか?』

「ああ、今も。女々しくて、臆病で、怖がりだ」
 
 少年は深山の腕の中で言った。

『この部屋でふかやまさんは、婚約者の、ひとと……して、何回も朝を迎えて、この庭を眺めたんでしょう?そのひととの思い出の場所になんて、僕は居たくない。二人の思い出の庭なんて見たくないんです。………だから、ふかやまさん。もうこの手を離して』
 
 少年は何度も、無言で腕をほどこうと深山に抵抗した。口唇を噛み、血が滲んで普段から紅い口唇がさらに紅く染まる。それでも、深山は力を込め離さなかった。今離したら少年が消えていなくなってしまいそうだと思った。少年の瞳はまた、潤み始める。夏の湿度や、部屋に散らばったやるせない気持ちを全て集めたかのように、静かに大粒の涙を流しながら言葉を繋げた。

『何で、何でよりによって今日なんですか?今日の朝は、本当に、本当に、恥ずかしくて照れくさかったけれど、しあわせな気持ちでした。今はただ、悲しくて、苦しいだけです。
 
 ふかやまさん、どうせ僕はティーカップだから、人間じゃないから、細やかな感情なんてないと思ってましたか?僕だって、僕だって感情はあるんです。

 傷つきます。
 悲しみます。
 胸が痛くもなるし、
 自尊心もあります。

 ふかやまさんは優しいけど、残酷です。昨日の今日で僕をここに連れてきた。昔のひととの想い出の場所なんて、僕にはいらない!』

 泣き叫ぶように少年は言った。

「婚約者とはもう、切れた縁だ。つなごうとも思わない。今は好きでもなんともない。何も感じない。それに……」
 
 深山が言葉を繋ぐ前に、少年は言った。

『もう、いいです。きっと……僕のことも、すぐに忘れてしまいますよ。家事の下手な使用人なんて。今までのことだって、全部、夢みたいなことですから………』
 
 少年は両手で顔を覆いまるで、自嘲するように涙に濡れた顔を隠し、笑う。

『僕、馬鹿みたいです。本当に馬鹿みたい。勝手に熱をあげて、夢中になって、何にも見えなくなっていました……本当に、本当に、馬鹿みたいです………』

「………アレク。顔をあげてくれ。頼む」
 
 深山は、少年の顔をあげさせ、ポケットから薄い水色の大判のハンカチで少年の涙でくしゃくしゃに涙にまみれた少年の顔を丁寧に拭きながら言った。

「……いい年をして、君に恋をした。臆病になって、想いを伝えることすら出来ないほどの片想いをした。今、他の何も見えなくなるくらい夢中な君が、消えてしまったら、私はどうすればいい?君がいるから絵を描ける。もし君がいなくなってしまったら、私は誰のために描けばいいのか解らなくなる………君に見せたいもがあるんだ。アレク、少し手伝って欲しい」

『何ですか?』
 
 少年の声に力はなかった。深山はふっと息を吐き、少年を見つめて微笑む。

「カーテンを全部開けたい。あと、アレク。後でいいから、私に、庭とこの部屋について言い訳をさせて欲しい」

 少年は浅く一回だけ頷いた。

 すべての遮光カーテンを開けると、部屋が生き生きとしていく。控えめに差し込む夏の光がアトリエを夜から昼に変える。

「少し待っていなさい」
 
と言い、深山が奥の部屋から持ってきたのは、

「最後の仕上げの途中だ」

 と言ったキャンバスだった。レースの白いカーテンが揺れる窓際で、長い睫毛を軽く伏せ、憂いをたたえながらあのティーカップで紅茶を啜る、光にあふれる美しい少年の絵だった。

「この絵が出来たら君に進呈するよ。自然光の下の方が、綺麗に見えると思った。君だよ、アレク。中々上手に描けていると思う。……今日はこの絵を君に、見せたかった」
 
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