僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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育っていく少年の切なさ〖第20話〗

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『僕はこんな綺麗じゃありません………』

「私には、こう見える。君は美しいよ、アレク。空のティーカップを持って来て欲しいと言ったのはポーズの確認とティーカップの柄をよく見るためだ。ティーカップの件は誤解させたね。謝るよ。色彩が少し私の作品にしては明るくなりすぎたが君には似合っていると思う。ちなみに誰かの肖像画のような絵を描いたのは君が初めてだよ。あの頃……いつも朝食の後、逃げるようにアトリエに籠っていた頃、君のスケッチを描いていた。誰かに対してこんな気持ちになったのは初めてだったから動揺していた。君の記憶だけを頼りに、絵を描いていた。向こうの部屋を見るかい?」

 深山は暗がりの次の間のカーテンを開ける。棚の引き出しを開けるとそこにあったのはたくさんの少年のスケッチだった。

 笑っている顔、はにかむ顔、すましている顔、困っている顔、泣いている顔……少年はそれ以来、何も喋らなくなった。

 ただ、深山の言う通りポーズをとり椅子に座った。そして、まだ何も伝えていない少年にとって見たくもないだろう庭を見つめさせた。少年は無言で従い、いつものコロコロ変わる愛らしい表情はなく、ただ佇み、庭を見ていた。ものの二十分程で作業は終わった。

「アレク。ミルクティーをくれないか?」

『………はい「マスター」』

 そう無機質な声で言い、少年はティーカップに手をかざす。ふわりと少年の手が光りミルクティーが出来上がる。深山は、

「『マスター』、か………」

 深山は切なそうに笑い、目を伏せミルクティーを啜る。その様子を斜向いで、少年は深山をじっと見つめていた。深山は、カップを置き、テーブルに添えられた少年の片手に自分の手を重ね言った。少年の手は冷たかった。

「言い訳に聴こえるかもしれないが、聞いて欲しい。最初に、言うべきことだったと思う。八年前の火事ですべて焼けてしまって、庭も新しくしたんだ。庭師をいれて一から全部。だからこの庭を他人に見せるのは君が初めてだ。あの火事で、私は火傷を負って、君に聞かせる話か迷うが、長く付き合っていた恋人に婚約を解消された。彼女はあからさまに私の火傷を嫌悪していた……。鏡を見る度に、硝子に映る自分を見る度に、爛れた顔を見て醜いと思ったよ。髪を伸ばして、顔を隠した。そんな自分が一番自分に、嫌悪感を抱いていた。目も弱くなって、まともにカーテンを開けたことすらなかった。それから新しくした家で、ずっと独りで絵を描いていた。何も考えなくて済むからね。けれど、君が変えた。毎日が楽しい。今日、君と一緒に新しい庭を見られて良かった。このベッドは父が生前使っていた仮眠用の物だよ。たまに私も寝るが狭い。無駄に身長があるから足が出る。『そういう』物じゃない。『そういう』物も含む私の持ち物は画材以外ここをアトリエにする時に全て処分した。私はね、アレク。君と新しい庭を見て『これから』を考えたよ。君と沢山の時間を共に過ごしたいとね。今日、昔の婚約者と私のことを考えさせたのならすまない………私を嫌うかどう思うかは君の自由だ。けれど、新しい庭を一緒に見たことと、こんな冴えない私だが、君を想っていることは……忘れないでくれ」

 少年は泣きながら笑う。まるで、このまま消えてしまうのではないかと思えるような透明な泣き声だった。

『マスターは、優しい。悲しくなるほど優しいです。でも、記憶も、想いも風化します。いいですよね『ひと』は。全てに都合良くできてる。『忘れる』ことができるんですから。今度はこんなティーカップじゃなくて、ちゃんとした『ひと』で、家事の上手な人と恋をしてください。こんな家事の下手な使用人じゃなくて………』

「私は君の事を『家事の下手な使用人』なんて、思っていない!思ったことなんて無い!それに私は君を『恋人』だと言った!恋人だと、そう君に、言ったじゃないか………!」

 深山は、目を伏せ頭を抱えた。

「……君を愛しているんだよアレク……こんな、醜い私が、美しさを集めたような君がいとおしいんだ」

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