僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

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苦しむのは終わりにしましょう?〖第32話〗

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『ふかやまさんは素敵です。僕は、ふかやまさんの八年を知りません。知っているのは今と少し前のふかやまさんだけです。今はもちろん素敵です。でも、少し前のふかやまさんも、僕は好きだった。もう、充分じゃないですか。苦しむのは終わりにしましょう?思い出に変えて下さい。それでも辛くなる時は、独りでいないで下さい。寝て起きて悲しくなったら隣の僕を起こして下さい。それに、僕は、『いつの』ふかやまさんと会っても、僕はふかやまさんをきっと好きになっていました。ふかやまさんは優しいです。こんな優しいひと、僕の人生の中でいなかった!』

 少年の大きな瞳からポロポロ涙が落ちる。

「どうした?急に。泣き虫だな。おいで」

 しがみつく少年を、深山は抱き締める。背中を丸め髪に顔を埋める。甘い柔らかい匂いがする。

『ふかやまさん……』

 手を伸ばして深山は少年の目元をシャツの袖で拭き、頬を優しく撫でる。

「どうした?アレク。落ち着いたか?」

『はい。ごめんなさい………』

「謝らなくていい。もう泣かなくていいよ」

 それから、はっとし、ばつの悪そうな顔をして深山は少年の頬をそっと撫でていた手を下ろす。

「ア、アレク。今から非常に言いづらいことを言うから良く聞きなさい」

『はい』

「ここは店だから……これからは気を付けよう」

 少年が振り向くと瑠美子が顔を赤らめて所在なさげにしていた。深山と少年の、一抹の恥ずかしさと気まずさが残る帰り際、瑠美子は、

「美しいカップルは絵になるって本当ね。絵画的だったわ。また来て」

 と、笑ってそう言い、手を振った。

─────────── 

それから、深山と少年はチョコレートパフェを食べた。流石に二人で一つは食べなかった。少年は大きな一口でチョコアイスを食べる。

「美味しいです!これがチョコなんですね」

 そう少年が嬉しそうに口を動かしている姿を見るだけで、深山は満たされる。洋楽が楽しげに流れる店。周りを見渡してもカップルばかりだ。深山は嬉しそうに笑う。

「パフェが気に入ったか?アレク。口の端にチョコがついている」

 指先で深山は、少年の口許のチョコを拭い口に運ぶ。

『ふ、ふかやまさん………』

「誰も見ていないよ」

 少年は深山を見つめ、恥ずかしそうに笑い、またチョコレートパフェを口に運ぶ。

「ムースの部分は、美味しいですが、ふわふわして不思議な感じがします。美味しかったです」

 嬉しそうに笑う少年は『ココア』の存在を知らず、飲みたそうにしていたのでオーダーの時についでに頼んだ。

 パフェが思いの外大きく、その後のココアに胸焼けしないか心配になったが、一口飲んで、

「さっきの味とそっくり!」

 驚いた顔をしながら、美味しい、美味しいと言って笑いながら飲む様子に、少し安心した。

「味は記憶できました。飲みたくなったらいつでもお作りしますね」

 飲み終わったカップに名残惜しそうにそっと触れながら、少し得意気に少年は笑う。口づけをしたら、今ならチョコレートの味が広がるのだろうかと深山は思った。
 
 店を出て深山は、

「私につきあってくれないか」
 
 と、少年の大きな瞳を見つめた。澄んだその瞳に深山は何故か急に怖くなり、自然と指を繋いだ。随分と歩いて来たのは久々に来る市だった。出店も出ていた。少年に小さいサイズのりんご飴とたこ焼きを買ってあげた。赤いペンキの剥げたベンチに座っる。

『たこ焼き、頂きますね。……あふあふ。あふい。あふい』

 少年は涙目になりながらたこ焼きと格闘する。

「火傷をしてないか?大丈夫か?その様子だとかなり熱そうだな。大丈夫か?アレク」

 少年は必死に頷いた。何とか決着をつけた少年は、

『熱かったけど、いいものです。中がとろりとしているなんて、解らなかったから驚いてしまいました。たこ焼きって、とても美味しい。ふかやまさんも!熱いうちに』
 
とプラスチックの容器を差し出す。深山は笑いながら、

「私は猫舌だからね。熱いものは苦手だ。もう少し時間が経ってからもらう」

『猫舌?猫の舌なんですか?何か………可愛いですね。僕、もう一つ食べていいですか?』

「好きなだけ食べなさい」
 
じっと見つめる。少年はひどく恬淡として、大人びた所もあるが、今のような可愛らしい子供の様なところもある。孤独のせいか、不思議な石のせいか。今は満面の笑みを浮かべ丁度良い温度のたこ焼きを頬張っている。

健気で。可愛らしい。思わず目を細めてしまうほどだ。

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