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幼いアレクの悲しみ〖第44話〗
しおりを挟む深山が寂しい顔をする理由、それは自分自身にそっくりな、でもどこか違う、絵の『綺麗なひと』だと少年は解っている。
夜、ご飯の後アトリエをそっと覗いたとき、聞いた言葉。
「『アレク』君に会いたい。会いたい」
縋るように絵の『綺麗なひと』を撫で、深山は、泣いていないのにこれ以上ないくらい悲しそうに見えた。
少年は何も言えなかった。その夜、誰にも聞こえない声で言った。
『ぼくも、アレクなのに…同じ顔なのに。……ねえ、ふかやまさん、ふかやまさんにとって、ぼくは、何ですか?………』
小さく呟くように言った言葉に、余計に少年は余計に辛くなる。惨めだと、思えた。少年は夜、深山に背を向けて泣いた。
少年は深山のふとした視線が悲しい。深山は少年を寂しそうに、そして懐かしそうに見つめる。少年はつらくなり、画集を広げ、深山に気づかれたくなくて下を向く。
あの瞳。深山が幼い少年に、『絵のひと』を探している視線。それは少年にはあまりにもつらかった。そして、そんな深山を見ることが、少年にとって、悲しくて、切ない。
それでも、苦しくなることは解っているのに少年は深山の傍に居たかった。少年の碧い瞳からポロリと涙が出た。
少しだけ、と少年は深山の肩を借りて目を瞑る。頭をどけなさいと少年は怒られることは解っていた。けれど深山の温もりが欲しくて、温かさだけでいいから慰めが欲しくて、少年は肩にわざと甘えるように寄りかかる。
暫くして深山は少年の髪を撫で、少年が泣いていることを知らずに、穏やかに話し始めた。
「アレク。今度天気が良い日に海に行こう。支度をしないとな。服は前に買ったものがある。君のサイズに合うだろう」
彼には、海を見せてやれなかった。一緒に服も買ったのに。喜ばせてやりたかった。喉まで出かった独り言を飲み込む。言って何になる?深山は自分に問いかける。ただの自己満足だ。
「どうした、仔狸。準備をしなくて良いのか?服は沢山ある。一緒に選ぼう………嬉しく、なかったか。晩秋の海は淋しいだけか」
少年は一生懸命首を振る。
『ふかやまさん。ありがとう。嬉しいです。でも目を瞑っていれば………』
ふかやまさんの寂しそうに笑う顔を、見なくて済むんです。
少年はそう言ってしまいたい気持ちを押さえる。
「いれば、なんだ?」
『何でもないです』
「どうした?目が痛いのか?」
深山の手がそっと頬に添えられた。ゆっくり少年は涙に濡れた目を開く。
そこには深山の心配そうに見つめる瞳があった。深山は少年を見つめていた。ただ、眼鏡の奥の切なそうに細められた瞳が見つめるものは、『彼』だと幼い少年でもすぐに解った。
『大丈夫です。ご、ゴミが入ったんです。ふかやまさんが気にすることではないです』
涙を流しながら幼い少年は笑った。少年には解っていた。
深山に心配をかけたくなくて、涙をこらえたぎこちない笑顔も、深山にとっては気に留めるものですらない。
心配をかけたくないと、一生懸命取り繕うこの言葉でさえも、深山には必要ないもの、意味もないもの。
深山が心を許すものは、『少年─アレク─か』『そうじゃないか』なのだから。
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