僕を貴方の傍において~ティーカップの妖精の恋~〖完結〗

カシューナッツ

文字の大きさ
45 / 51

カップを割ってよ!〖第45話〗

しおりを挟む


「痛くはないのか?目を擦るな。赤くなったら大変だ。身体を大事にしてくれ」

    深山が心配するのは、幼い少年ではない。深山は『絵のひと』以外必要ない。興味もない「海に行こう」言ったのも、目を心配したのも、少年の中に『絵のひと』がいるからだ。

 幼い少年が『絵のひと』に似ていなかったら、きっと深山は、幼い少年に見向きもしない。幼い少年が一生懸命見ないふりをしてきたものが姿を表す。

    だったらいっそ、少年は深山の半端な気遣いや優しさなんて要らなかった。深山の秋のコート。暖かくて、嬉しかった。けれど、深山にとってはあくまでどうでもいいことだ。幼い少年がどんなに嬉しかったかなど、深山は解らない。

    こんな、『アレク』の代わりなんてもう嫌だ。でも、深山が少年を見るのは、少年に『アレク』を探すからだと幼い少年は解っていた。それでもいいとは、思えない。納得なんて出来ない。どうして自分を見てくれない?

悲しい、

切ない、

悔しい。

 やるせない気持ちで少年は限界だった。どんどん涙は溢れて睫毛にたまってポロポロ落ちる。

『うわああああん!』

 幼い少年は欅の落ち葉をつかんで深山に投げつけた。

 何度も泣きながら落ち葉をつかんでは深山に投げつけた。暫くし、息をきらせながら涙でグシャグシャになった顔で、大声で言った。

『どうして?どうして、ぼくじゃないの?ぼくじゃだめなの?ぼくも、『アレク』なのに、ふかやまさんは、ぼくなんて、どうでもいいんだ!絵のひとに似てなかったらぼくなんて、どうでもいいんだ!もうやだよ!ふかやまさんの、ばか!』

 走り去る影を深山は見ていた。深山は幼い少年の悲しみが解らない。解るのは、傷つけたということだ。
 
 少年はアトリエに戻り、外靴を脱ぎ棄ててスリッパもはかず寝室に籠り、ブランケットを頭からかぶり丸まって泣き続けていた。嫌われても、もういい。カップに住めばいいことだ。

 もう姿は見せない。暫く後、深山のたてるノックの音が寝室に響いた。ブランケットを頭からかぶり丸まって震えながら泣く幼い少年に、手のかかる子供をあやすように、ベッドの端に腰かけ、話す。

「アレク………どうした?何が悲しい?何に怒っている?」

 深山の声に身を起こし、少年は大粒の涙をこぼしながら、深山を睨んだ。けれど、心配そうに少年を見つめる深山を見ると、少年の怒りは溶けて悲しみばかりがひろがっていく。少年は、震える声で言い放った。

『ぼくは、ぼくだもん!ふかやまさんが名前をくれたんでしょ?この前ちゃんとふかやまさんは『アレク』だって言った!なのに、なんでふかやまさんは、違うものをいつもぼくに探すの?ちゃんとぼくを見てよ。ぼくも悲しかったり、苦しかったりするもん!切ない気持ちもあるもん!どうして、ぼくを無視するの?もういやだよ。もう、ふかやまさんと一緒にいるの、いやだ!ぼくは、いらない子なんでしょ?『アレク』じゃなかったら、いらないんでしょ?見向きもしなかったんでしょ?ふかやまさんの、優しさは、ざんこくだよ!………もう苦しいよ。疲れたよ。もう、割ってよ。カップを割ってよ!』
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

サラリーマン二人、酔いどれ同伴

BL
久しぶりの飲み会! 楽しむ佐万里(さまり)は後輩の迅蛇(じんだ)と翌朝ベッドの上で出会う。 「……え、やった?」 「やりましたね」 「あれ、俺は受け?攻め?」 「受けでしたね」 絶望する佐万里! しかし今週末も仕事終わりには飲み会だ! こうして佐万里は同じ過ちを繰り返すのだった……。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう
BL
俺ウェスは幼少期に魔王様に拾われた下級悪魔だ。 生まれてすぐ人との戦いに巻き込まれ、死を待つばかりだった自分を魔王様ーーディニス様が助けてくれた。 本当なら魔王様と話すことも叶わなかった卑しい俺を、ディニス様はとても可愛がってくれた。 だがそんなディニス様も俺が成長するにつれて距離を取り冷たくなっていく。自分の醜悪な見た目が原因か、あるいは知能の低さゆえか… どうにかしてディニス様の愛情を取り戻そうとするが上手くいかず、周りの魔族たちからも蔑まれる日々。 大好きなディニス様に冷たくされることが耐えきれず、せめて最後にもう一度微笑みかけてほしい…そう思った俺は彼のために勇者一行に挑むが…

処理中です...