【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

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・治癒の占い師?(2)

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 教会に戻るとカーラ宛に手紙が来ていた。

「……手紙を確認します。それから、大司教様にもご報告の手紙も」

 手紙の宛名を蝋燭の光にかざしながら、カーラがどこか嬉しそうにしているのを見て私はジュストの腕をつかんだ。

「カーラ、私たち明日の買い出しに行ってくるわ!」
「え? もう暗いから明日皆で買いに行きましょう」
「騎士がいるから安全でしょ?」

 私はそう言うと、カーラの返事を聞く前にジュストの背を押して教会の外へ出た。

「アリーチェ、ほとんど店は開いてないと思うぞ」
「いいの。手紙を書く時に私がいたら落ち着いて書けないでしょ」
 
 ジュストも気が付いたようで、微笑んでくれた。

「じゃあ少し散歩でもするか」
「うん!」

 外は薄暗く、頼りになるのは月明かりとぽつぽつと零れる家からの光だけ。
 私たちは整備された石畳を静かに歩いた。
 薄暗くても、まだ人通りもあり危険な空気は感じない。
 多分、大通りを歩いているから。

「食料品店は開いてなさそうだけど、せっかくだからどこか店で女神に関係しそうな話でも集めるか」
「そうね。あ、あっちに人が流れてるわ。何かしら?」

 私は裏通りに通じる小道を男の人達が歩いていくのに気が付いた。
 あっちにもお店がたくさんあるのかもしれない。
 興味を引かれてそちらに行こうとした時、手を掴まれて控えめに引き寄せられた。
 
「あー……」

 ジュストが視線を逸らせて気まずそうな顔をしている。
 
「なぁに?」
「あっちはちょっと」
「え? 皆行ってるようだから、まだ開いているお店があるのかもしれないわよ」
「いや、多分、娼……」

 最後が小さすぎて聞こえなかった。
 私は首を傾げてジュストを見上げる。

「しょ?」
「いや、だから……」
「え?」
「あーっと、俺はお前と姉さんが無事にこの旅を終えて大聖堂に戻れるよう守るのが仕事だ。だから、裏道に行くことは許可できない」
 
 急にきりっとした顔つきでそう言われたので、私も反射的に頷いてしまった。

「わ、わかったわよ」

 私もしぶしぶだけれど聖女を拝命しているわけで、責任のある立場だ。
 自身を危険に晒すような真似をすべきではないのだ。
 頷くとジュストは明らかにほっとした顔をした。

「あ、あっちに酒場があるからあそこに行こう」
「いいわね! エールの記録も取っておきたいものね」

 誤魔化されたような気がしないでもなかったが、エールも飲みたい私は素直にジュストの案に乗ることにしたのだった。
 酒場は大勢の人で賑わっていた。
 蝋燭の灯りを頼りに空いている席を探す。賑わいから離れた静かな席を見つけると、ジュストは私を壁側の隅に座らせた。
 ワクワクしながら給仕に持って来てもらったエールに口をつける。
 一口飲んで、舌を出した。

「うぇ……酸っぱい」
「作って時間が経ったんだろ。仕方ないな」

 ジュストは平気そうな顔でぐびぐびと飲むと、辺りを見回した。
 私のために周囲を警戒しているのと、情報を聞き出す人を探しているのだ。
 私は唇をかみしめると、観念してもう一度口をつけた。
 今は手帳を持って来ていないので、後で手帳に書き込むのだ。しっかりと覚えておかなくちゃ。

「ちょっと聞いてくるから、お前は大人しくここにいろよ」
「わかった」
「フードを深くかぶっておくんだぞ」

 ジュストにフードと引っ張り上げられると、私の目線は手元くらいしか見えなくなった。
 様子が見えなくなって少し残念だったけれど、ジュストに怒られたくないので大人しく待つことにした。
 しばらくちびちびとエールを舐めるように飲んでいると、隣に気配を感じた。

「待たせたな」
「何か聞けた?」

 フードを少しだけ上げてジュストを見る。
 
「全然。それっぽいものはなかった」

 首を振るジュスト。
 あっけらかんとしているので、あまり期待していなかったのだろう。
 
 私はたくさん人もいるし、お酒も入っていて口も軽くなってるなら何かあるかも! と期待していたので少し残念に思ってしまった。
 そんなに簡単に情報なんて見つからないのが普通なのかもしれない。私は聖女セレスの予言の力を知っている分、大分簡単に考えてしまっていたようだった。
 ちょっと誰かに聞いたらすぐに見つかるような。そう思っていた。
 今思えばなんと浅はかなのか。
 
「それを飲んだらもう出よう。皆酒が回って盛り上がり始めてる」
「わかった」

 エール大好きな私にしては珍しく、残したまま店を出た。
 あまり美味しくなかったから。
 修道院のエールは毎日作り立てが飲めてたんだな。とその時に気が付いた。
 聖女特権で美味しいものが飲めていただけかもしれないけれど。
 
「もう暗いのに寒くないのね。気候が良いからかしら」
「南下してきたからな。助かったよ、聖女の予言が春にされて。冬だったら凍えながらの旅だった」

 ジュストがいたずらっぽく笑う。
 私もつられてクスリと笑った。
 
 ジュストは修道会の騎士団所属の騎士だ。
 騎士団は主に大聖堂や聖地の警備、巡礼者の保護と支援が仕事だ。今回のように聖女や大司教が巡礼や移動する時にも警護してくれたりもする。
 
 騎士団も同じ女神を信仰しているけれど、修道士・修道女のように独身を貫く必要はない。
 昔はもっと厳格だったようだけれど、時代の流れと共に変化していったようだ。今では給料も貰え、大聖堂勤務なら安全で職を失うこともなく、入団するのに身分も関係ないので庶民の男性にも比較的人気職業なんだとか。
 王国の騎士団だと主に貴族が中心だからね。
 
「女神様も予言の時期を配慮してくれたのかしらね?」
「そんな気が利いているような気はしないけどな」
 
 もしも熱心な信徒に聞かれたら眉をひそめられてしまうだろう。
 そんな罰当たりな言葉だったけれど、私は面白くてつい声を上げて笑ってしまった。
 
 ゆったりと歩いていたけれど、もう遠くに教会の屋根が見えてきてしまった。

「もう着いちゃう」
 
 私はふたりだけの時間が名残惜しくて、あたりを見回し誰もいないことを確認してから、ジュストのローブの裾をちょっとだけつまんだ。
 ジュストはそれに気が付くと、私の手をローブから外す。
 そして改めて優しく、手を繋いでくれた。
 私は飛び上がる心臓を左手でなだめながらジュストを見上げたけれど、ジュストはあさっての方向を向いてしまっていた。
 でもその耳はほんのり赤くなっていて、私は自分だけがはしゃいでいるんじゃないことが分かって嬉しくなったのだった。
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