【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

文字の大きさ
13 / 26

7.私の物

しおりを挟む
 翌朝、宿の食堂でオーツ麦の粥をちびちびと食べていると、対面に座っていたジュストが言い出しにくそうな様子で口を開いた。
 麦粥をくるくるとかき混ぜている。
 服装はしばらく街にいることにしたからか、剣を身に着けた程度の軽装になっている。
 そろそろ暑くなってきたから、フードを取ることのできない私は羨ましい。

「なぁ、今日は大通りに市が出るらしい。カーラを見舞った後、一緒に見に行かないか?」
「市? 楽しそう!」

 私はパッと顔を上げた。美味しくない粥で下がっていたテンションが上がり、心臓が期待で早鐘を打つ。
 それってデート?
 
 教会で寝ているカーラに少しだけ罪悪感を感じるが、昨日見舞ったカーラも体調が快方に向かっているし。と自分にちょっとだけ言い訳をする。

「でも騎士団の方は大丈夫?」

 最初は着いてきていると知らなかったから、暗いからと理由をつけて手を握ったりしていたけれど騎士団がいるのなら話は別だ。
 
 市場なんて目立つ場所に行って、余計な噂にでもなったらお互いの立場が悪くなるだけ。
 特に、穏便に聖女代替わりを目指す身としては!
 間違っても聖女でありながら姦淫の罪で火あぶりなんてあってはならないのだ!

「しばらく街にいると言ったら、向こうも聖遺物探しを本格的にすることにしたらしい」
「へぇ」

 デートなんて騎士に見られたら困るんじゃない? って思って聞いたのに、意味が正しく伝わらなかったみたい。
 
「連絡役でカルロと他にも残ってるから、騎士団と連絡は取れてる」
「何か手伝って欲しいことがあっても大丈夫ね」
「そうだけど、何かあったのか?」

 眉を寄せて不安げな顔をするジュスト。身を乗り出して私の顔を見つめている。
 顔を見れば簡単に私の考えを知ることが出来ると思ってるのかもしれない。
 さては単純って思ってるわね。

「何もないわよ。あのね、孤児院が男爵夫人からたっぷりと寄付をいただいているそうよ。夫人も頻繁に孤児院で慈善活動されているみたいだからカルロ気になるかなぁ? って思っただけ」
「まさかリストにあった人か」
「そう。お住まいはこの街からもう少しだけ離れた、山の麓にあるお城ですって。近いからこの街によく来ているみたい」

 私はワインの入ったコップをゆらゆら揺らしながら言った。
 
「信仰心の厚い方らしくて、よく司教や修道女をご自宅に呼んでお話されるそうなの。私のことも院長がお話されるだろうから、もしかしたら呼ばれるかもしれないわ」
「へぇ。じゃあその時は俺とカルロも一緒に行くからな」
「お願いするわ」

 貴人が教区の教会の聖職者を呼んで食事をすることはよくあることだ。特に女性は旅行も滅多に行くことがないだろうから、きっと旅の話を聞きたいのだろう。
 
 早くもお食事で提供されるお酒が楽しみだ。
 年代物のワインが飲めるかもしれない!
 私はエールだけじゃなくてワインも大好きなのだ! もちろん、ワインの記録もつけている。
 
「そんなに活動的な人なら、もしかしたら何か聖女候補になりそうな人物にも心当たりがあるかもな」
「そうでしょ?」
「最初話を聞いたときは、絶対に行かないだろうなと思った噂だったのにな」
「どう転ぶかわからないものよね」

 ジュストも同意するように頷いている。

「……男爵夫人ね、噂通り物凄い美しい方らしいわ」

 私はジュストがどんな反応をするのか知りたくて、気が付かない振りをして澄ました顔をしながら言った。
 
「……へぇ」

 ジュストの視線が麦粥からワイン、私の顔に移り、そして麦粥に戻った。
 
「なんか今、目が泳いだわ」
「はぁ?」

 焦っているのか麦粥をくるくるとかき混ぜている。
 私はテーブルの下からジュストの足を蹴飛ばしたのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。

氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。 聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。 でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。 「婚約してほしい」 「いえ、責任を取らせるわけには」 守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。 元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。 小説家になろう様にも、投稿しています。

「偽聖女」と追放された令嬢は、冷酷な獣人王に溺愛されました~私を捨てた祖国が魔物で滅亡寸前?今更言われても、もう遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢フィーア・エメラインは、地味で効果が現れるのに時間がかかる「大地の浄化」の力を持っていたため、派手な治癒魔法を使う異母妹リシアンの嫉妬により、「偽聖女」として断罪され、魔物汚染が深刻な獣人族の国へ追放される。 絶望的な状況の中、フィーアは「冷酷な牙」と恐れられる最強の獣人王ガゼルと出会い、「国の安寧のために力を提供する」という愛のない契約結婚を結ぶ。

眠れる森の美女になりかけた王女は、辺境でスローライフを始めます。すでに結婚していますので、今さら王子さまからプロポーズされても困るのですが。

石河 翠
恋愛
義妹の代わりに呪いを受けた王女。ようやく目覚めたと思ったら、目の前にいたのは魔法使い。なんとここに来るはずの幼なじみの婚約者は義妹が横取りしてしまい、自分との婚約はすでに破棄されてしまったのだという。 しかも王女がいたのは辺境の小さな村。義妹が泣き叫んで手がつけられないからという理由で王城から追い出されたらしい。それならばこの土地でスローライフを始めると開き直る王女。 アフターフォローを申し出た魔法使いと一緒に田舎暮らしを始めることに。そこへ辺境の地の噂を聞きつけた王子さまがやってきて……。 仕事から離れて憧れの田舎暮らしを楽しむ図太いヒロインと、ヒロインをずっと追いかけてきたヒーロー、それを見守る義妹の恋物語。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5047928)をお借りしています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

破滅フラグから逃げたくて引きこもり聖女になったのに「たぶんこれも破滅ルートですよね?」

氷雨そら
恋愛
「どうしてよりによって、18歳で破滅する悪役令嬢に生まれてしまったのかしら」  こうなったら引きこもってフラグ回避に全力を尽くす!  そう決意したリアナは、聖女候補という肩書きを使って世界樹の塔に引きこもっていた。そしていつしか、聖女と呼ばれるように……。  うまくいっていると思っていたのに、呪いに倒れた聖騎士様を見過ごすことができなくて肩代わりしたのは「18歳までしか生きられない呪い」  これまさか、悪役令嬢の隠し破滅フラグ?!  18歳の破滅ルートに足を踏み入れてしまった悪役令嬢が聖騎士と攻略対象のはずの兄に溺愛されるところから物語は動き出す。 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。

雨宮羽那
恋愛
 聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。  というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。  そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。  残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?  レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。  相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。  しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?  これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。 ◇◇◇◇ お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます! モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪ ※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。 ※完結まで執筆済み ※表紙はAIイラストです ※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)

処理中です...