【完結】聖女を引退したいので、後継者を探しに行きます

野々宮なつの

文字の大きさ
14 / 26

・私の物(2)

しおりを挟む
 カーラは昨日よりも回復したようで、すっかり元気を取り戻していた。
 
 漁村に行った日は青い顔でガタガタと振るえていて、私も怖くてたまらなかったから回復して私もとても安心した。
 今はベッドの上が暇なのか、手紙を書いているようだった。
 
 実は教会には私とカーラの身分は明かしてある。
 その方が、待遇が良くなるかと思ったからだ。実際、他の人には申し訳ないれど気にかけて貰えているようだった。

「カーラ、元気そうだったわね」
「ああ。あれならもうすぐ出られるな」

 太陽が高い位置にあり、私は体温を逃したくてフード首元を引っ張った。
 べたつくケープが首元から離れて少しだけ涼しくなったような気がする。
 
 石造りの高い建物が並ぶ大通り。
 段々と喧噪に近づくにつれて、ポツポツとあった露店から道の両端にびっちりとテントが並ぶ通りに出た。
 
「わ、凄いわね!」
「人がたくさんいる。はぐれるなよ」

 ジュストが人波から私を守るように少し前を歩き出す。
 はぐれたら合流するのは難しそう。私はジュストの騎士服の裾をちょこっと握った。
 この人混みなら誰にも見とがめられないでしょ。

「いろんなものがあるわ」

 野菜や果物がツヤツヤと光を反射する店の隣には、鍋や匙がぶら下がる金物屋がある。その隣には白っぽい色のついた石の塊のようなものを売っている店がある。

「あれは?」
「岩塩だ」
「塩なの?」
「ああ、この辺りは海が近いから塩には困らないだろうが、珍しい岩塩が欲しい人もいるのかもしれないな……」

 なんとなく冷やかし気分で見た値段が高くて驚いた。店主のおじさんがジィッと見てくるので慌てて店から離れる。
 
 移動した先には綺麗な布を売る店があった。

「これは異国の布ね」
「ああ。あの、占い師の女が着ていた布に似ているな」
「そうね」

 店主の女性は髪の毛を布で覆い隠しているし、服装も占い師の女性とほぼ同じような恰好をしていた。
 行商をしながら移動して暮らしているのだろう。
 
「旅の路銀の為に市場で自分たちの民芸品を売っているのね」
「多分な」

 もしかして、あの占い師も街から街を移動して歩く旅をして暮らす移動民族の人だったのだろうか。
 
 店主の女性がにこりと微笑み、片言で商品の説明をしてくる。
 ジュストがそれに手を振って断ると、女性はすぐに他の人達へ声をかけ始めた。
 
 私は、隣の露店にあるキラキラと光る石たちが気になって商品を覗き込んだ。
 店主は布を売っている女性と同じ移動民族の老婆だった。
 
「不思議な色合いの石だわ」

 鮮やかなブルーグリーンの石は空の青と草原の緑を混ぜ合わせたような色合い。
 大粒の石が連なっている3連の長いネックレスを見つめていると、おばあさんが口を開いた。

「この石、旅のお守りだよ」

 先ほどの女性よりも言葉が滑らかだ。

「お守り?」
「アタシたちも荷馬車につけてるよ。邪気を払いアンタを守ってくれる」
「へぇ」
「アンタ神に仕えるなら邪気払うの必要よ」
「えぇっと」

 私は首を振った。
 期待させて申し訳ないけれど、買う予定はないのだ。
 
 修道女は修道院へ入る時に自分の物を持たないで入る。
 一切自分のものは何も持たない。
 強いて言うなら聖女の証の首飾りは私の物だけれど、それくらい。
 皆何も持っていないのに、私が何かを買う訳にはいかないのだ。
 少し悲しいけれど、これも聖女を引退するまでの我慢だと思っている。
 
 首を振ったのを商品が気に入らなかったと捉えたのか、おばあさんは長い紐に小さな石が付いた髪紐を見せてきた。

「これなら小さいね」
「そういうことじゃないの」

 するとやり取りを見ていたジュストがおばあさんから髪紐を受け取った。

「これなら髪に編むから見つからないだろ」
「え、駄目よ」
「普段からフードを被っていて外すのは風呂か寝る時くらいだろ。石も小さいからわからない。婆さん、これを頼む」

 私は慌ててジュストの腕を引っ張った。

「ジュスト、規律を知らないわけじゃないでしょう?」

 ジュストは私を見下ろすと、ブルーの瞳を優し気に細めた。
 私の大好きは瞳の色。
 そういえば、この髪紐についている石はジュストの瞳の色に少しだけ似ているかもしれない。
 そう思うとこの髪紐がとても愛おしい物のような気がしてきた。

「アリーチェは引退だのなんだの言うけれど、きちんと与えられた役目をこなして決まりも守るよな。誰よりも模範であろうとしている。そういうところ偉いと思ってるよ」
「私だけじゃないわ」

 ジュストは店主から髪紐を受け取ると、私の手のひらに乗せる。

「どうかな? アリーチェは知らなくても良いことなんだろうな」
「何を?」
「そのうち話してやるよ。さ、行くぞ。そろそろ孤児院に送る」

 私はジュストに背を押されて人混みから抜けると孤児院へ向かった。
 
 この時の私は規律の厳しい大聖堂の修道院しか知らなくて。世の中には祈りの時間をサボったり、ワインを飲み過ぎて二日酔いになる修道女もいたり。極めつけに修道院を騎士との出会いの場だと勘違いしているような修道女がいるなんてことは知らなかったのだ。
 
 これを知るのはもっとずっと後。
 知っていたら髪紐の1本くらい、気にしなかったと思う。
 でも知らなくて本当に良かったと思っている。
 だって知っていたら、堕落した人達をうらやましいと思っちゃうかもしれなかったじゃない?
 ワイン、大好きなんだもの! 二日酔いになるくらい飲んでみたい!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

ここに聖女はいない

こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。 勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。 どうしてこんな奴がここにいる? かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

神龍の巫女 ~聖女としてがんばってた私が突然、追放されました~ 嫌がらせでリストラ → でも隣国でステキな王子様と出会ったんだ

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
恋愛
聖女『神龍の巫女』として神龍国家シェンロンで頑張っていたクレアは、しかしある日突然、公爵令嬢バーバラの嫌がらせでリストラされてしまう。 さらに国まで追放されたクレアは、失意の中、隣国ブリスタニア王国へと旅立った。 旅の途中で魔獣キングウルフに襲われたクレアは、助けに入った第3王子ライオネル・ブリスタニアと運命的な出会いを果たす。 「ふぇぇ!? わたしこれからどうなっちゃうの!?」

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

処理中です...