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第六章「一角馬の角」
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その日は雨が降っていた。
左右を有力貴族たちが囲み、正面に国王であるカルロス二世が座している。その隣には二人の女性が侍っていた。
赤みがかった黒髪に淡いすみれ色の瞳が苛烈に煌めく王妃アデーリア。隣にはアデーリアとよく似た顔立ちに、カルロスと同じ亜麻色の髪と銀の瞳の王太子・レオナルドが緊張した面持ちで座っている。
その反対側には艶やかな銀髪に榛色の瞳の儚げな女性が座っている。名をサラスティア、側室の妃だ。同じように隣に第一王女のエステルが座っていた。サラスティアの銀髪にカルロスの銀の瞳。噂に名高き真珠姫が薄く笑みを浮かべている。
視線は全て眼下の男に向けられていた。
「これより、カイン・レグルス侯爵の査問会を始める」
宰相の男が項目を読み上げていく。
一つ、かの段階ではまだ王太子の婚約者であったスカーレット・レグルスの不当な追放。
一つ、度重なる職務怠慢及び浪費。
一つ、前レグルス侯爵家夫人、エヴァ・レグルスの殺人。
我々はその詳細を全て明らかにすることを望む、そうまとめて宰相が書状を下ろした。
全てを静かに聞いていたカインは顔を上げた。夕焼け色の瞳に罪悪感は微塵も無い。
「一つずつ弁明をさせて頂きます」
持参していた書類を広げ、カインは唇を三日月に歪める。
「まず、スカーレットを我が家より追放した件ですが」
言葉は丁寧で慇懃なものだが、その態度は斜に構えているようだった。
「兼ねてより殿下からスカーレットへの不満は聞き及んでおりました」
レオナルドが唇を噛み締める。
王太子と侯爵家の若き当主、まして義兄弟となる身であれば、自然話すことも多い。その中でレオナルドは会う度にいかにスカーレットが高飛車で可愛げのない婚約者であるかをカインに愚痴っていた。ユリアと出会ってからはそこに彼女がいかに可憐で優しい娘かという惚気が追加された訳だが。
そしてカイン自身もスカーレットが気に入らなかった。両親が褒めそやかすのはずっと妹の方だった。自分が何をしても、母は困ったように笑い、父は眉間の皺を深くするばかりで激しく叱責されたことも褒められたこともなかった。
だからチャンスだと思ったのだ。彼女のプライドを引き裂き、顔も二度と目にすることがなくなる、と。
「よって、スカーレットの追放は正しかったと今でも思っております」
望まれない人間は要らない。要らない人間なら捨てられても仕方がない。
言外にそう語るカインの瞳には昏い光が宿っていた。
「次に私の侯爵家当主としての態度、とやらですが」
職務怠慢、浪費。
確かにカインの身なりは全て王室すら御用達にするような店のもので固められていた。そのことは問題では無い。家の威信をかけた査問会であれば身なりを整えるのは当然。だが、それだけでは飽き足らず、親しい友人たちを呼んでのパーティ三昧。夜毎明け暮れ、常に酒気を帯びた状態で出歩く始末。更にメイドや執事たちに給金も払わないといった証言が出ている。
「全くもって意味がわかりません」
嘲笑を浮かべ、カインは肩を竦めた。
贅の限りを尽くし、享楽に耽る。それは庶民では到底手が届かない、貴族に許された特権だ。その特権を行使して何が悪い。
「よって、問いただされる程のことでは無いはずです」
その場にいた全員が息を飲んだ。感嘆ではなく、カインの妄言への不快感にだ。
左右を有力貴族たちが囲み、正面に国王であるカルロス二世が座している。その隣には二人の女性が侍っていた。
赤みがかった黒髪に淡いすみれ色の瞳が苛烈に煌めく王妃アデーリア。隣にはアデーリアとよく似た顔立ちに、カルロスと同じ亜麻色の髪と銀の瞳の王太子・レオナルドが緊張した面持ちで座っている。
その反対側には艶やかな銀髪に榛色の瞳の儚げな女性が座っている。名をサラスティア、側室の妃だ。同じように隣に第一王女のエステルが座っていた。サラスティアの銀髪にカルロスの銀の瞳。噂に名高き真珠姫が薄く笑みを浮かべている。
視線は全て眼下の男に向けられていた。
「これより、カイン・レグルス侯爵の査問会を始める」
宰相の男が項目を読み上げていく。
一つ、かの段階ではまだ王太子の婚約者であったスカーレット・レグルスの不当な追放。
一つ、度重なる職務怠慢及び浪費。
一つ、前レグルス侯爵家夫人、エヴァ・レグルスの殺人。
我々はその詳細を全て明らかにすることを望む、そうまとめて宰相が書状を下ろした。
全てを静かに聞いていたカインは顔を上げた。夕焼け色の瞳に罪悪感は微塵も無い。
「一つずつ弁明をさせて頂きます」
持参していた書類を広げ、カインは唇を三日月に歪める。
「まず、スカーレットを我が家より追放した件ですが」
言葉は丁寧で慇懃なものだが、その態度は斜に構えているようだった。
「兼ねてより殿下からスカーレットへの不満は聞き及んでおりました」
レオナルドが唇を噛み締める。
王太子と侯爵家の若き当主、まして義兄弟となる身であれば、自然話すことも多い。その中でレオナルドは会う度にいかにスカーレットが高飛車で可愛げのない婚約者であるかをカインに愚痴っていた。ユリアと出会ってからはそこに彼女がいかに可憐で優しい娘かという惚気が追加された訳だが。
そしてカイン自身もスカーレットが気に入らなかった。両親が褒めそやかすのはずっと妹の方だった。自分が何をしても、母は困ったように笑い、父は眉間の皺を深くするばかりで激しく叱責されたことも褒められたこともなかった。
だからチャンスだと思ったのだ。彼女のプライドを引き裂き、顔も二度と目にすることがなくなる、と。
「よって、スカーレットの追放は正しかったと今でも思っております」
望まれない人間は要らない。要らない人間なら捨てられても仕方がない。
言外にそう語るカインの瞳には昏い光が宿っていた。
「次に私の侯爵家当主としての態度、とやらですが」
職務怠慢、浪費。
確かにカインの身なりは全て王室すら御用達にするような店のもので固められていた。そのことは問題では無い。家の威信をかけた査問会であれば身なりを整えるのは当然。だが、それだけでは飽き足らず、親しい友人たちを呼んでのパーティ三昧。夜毎明け暮れ、常に酒気を帯びた状態で出歩く始末。更にメイドや執事たちに給金も払わないといった証言が出ている。
「全くもって意味がわかりません」
嘲笑を浮かべ、カインは肩を竦めた。
贅の限りを尽くし、享楽に耽る。それは庶民では到底手が届かない、貴族に許された特権だ。その特権を行使して何が悪い。
「よって、問いただされる程のことでは無いはずです」
その場にいた全員が息を飲んだ。感嘆ではなく、カインの妄言への不快感にだ。
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