82 / 114
第六章「一角馬の角」
1-2
しおりを挟む
「次に私が両親を死に追いやった、との疑惑ですが」
あえて気付かないふりでもしているのか、カインは芝居じみた大仰な仕草でカルロスに問いかけた。
「証拠はあるのでしょうか」
「無論である」
宰相に目配せをするとカインの前に置かれた机に資料が並べられていく。
エヴァの事故の際、本来ならレグルス家の御者が馬車を扱う予定だった。その御者を外すためにカインはわざと長時間の用事を作り仕事を外させた。そして腕の悪い流しの御者を雇い、彼に悪路を走行するよう指示した。その道順を示した地図。
さらに、件の流しの御者は事故後逃亡しており、数年後郊外のスラムで宿無しになっている所を捕縛された。金髪の身なりのいい少年に金を積まれてやったと力無く白状した。その調書。
そして事故後検分された馬車の調査結果。その偽装される前の原本。
内容を見ると、もともと壊れやすい細工が施された形跡が確認できたらしい。
だがその調査結果をカインは役人を買収して偽装させた。ものぐさな役人は偽装するために使用した元の書類を机にしまったまま放置しており、彼の移動後掃除しようとした部署の者が偶然見つけたものだ。
そして、最後がエヴァの手記。亡くなる二年ほど前からカインの暗く静かな殺意を感じると記述があった。日記の最後になるとほとんどカインに怯える旨が記されていた。その中に気になる箇所が書き写されている。
〝あの子は自分を虐待した母親と私を混同している。妹と私は似ているとよく言われていたから無理もない。けれど私がこのことを口にしてしまえば逆上してしまうかもしれない。何をしでかすか分からない。その矛先がスカーレットに向くことが私はいちばん恐ろしい〟
エヴァの手記を見て以降、カインの表情が明らかに変わった。
「この資料は誰が用意したものですか?」
「グランツが信頼の置けるものに託したのだ」
その者は「スカーレットの身をカインが脅かすような事があれば陛下に渡してくれ」とグランツからこれらの証拠を渡されたのだ。
「陛下」
取り繕うとはしているのだろうか。だが、言葉の端々に苛立ちが滲んでいる。
「どなたなのですか?」
具体的な名前を教えろ、とカインの目は語っていた。教えたが最後、その人物を地の果てまで追い詰め惨い仕打ちをするのだろう。エヴァの恐怖の一端だけでもそこに表れているようだった。
重々しい表情のカルロスが口を開く。
「我が国の第一王子だ」
瞬きの瞬間、カインから表情というものがごっそり抜け落ちた。絶望に染まった眼差しでレオナルドへと視線を滑らせる。当然ながらレオナルドは目を合わせようとすらしない。
俯き、何かに耐えるように肩を震わせる。絶えず何かを発しているようだが、内容に関しては容量を得ない。
その顔が不自然な勢いで持ち上がった。
「これは何かの間違いだ!」
叫ぶやいなや眼前の机に向かった。憤然とした面持ちで証拠資料たちを腕で払い落とし、引き裂き、踏みにじる。
我に返った衛兵がカインを取り抑えようと動いた。
「陰謀だ! 策略だ! 私は嵌められたんだ!」
カルロスにすら殴りかかりそうな剣幕は屈強な衛兵たちが制している。
「私ではなくスカーレットが妾腹ではないのですかァ!」
そうだ、きっとそうに違いない。自分の中でそう結論づけることにしたのだろう。カインが落ち着きをみせた。
乱れた髪を撫で付け、激しく肩を上下させながら役者の仮面を被る。
「血縁関係の証明は出来ないのが残念ですよ」
「そうだな」
確かに、その証明をすることは難しい。だがそれはあくまでも〝難しい〟だけで出来ないことも無い。
「では、証拠を示すとしよう」
カルロスはそう言うと自分の肩越しに影を振り返った。
「魔道士」
ややあって靴音と共に闇色のローブの人影が姿を見せる。
「はい」
魔道士の腕の中には簡素なジュエリーボックスがあった。王の傍らで跪くと蓋を開けて前に出す。
「このペンダントは装着者の血縁関係を示すものだ」
指し示されたのは何の変哲もないシンプルなペンダントだ。手のひらに握ってしまえる大きさの銀の台座に透明な楕円状の石がはめ込まれている。
カルロスはまず、一つを自分の首にかけた。
「レオナルド」
「はっ」
機敏な動作でカルロスの前まで来ると、ボックスからペンダントを取り出し胸にかける。
ほんの数秒ほどで石の中心から色が滲み出てきた。冴え渡るような紅だ。
「これが親子の色、か」
魔道士に視線をやると首肯するように頭を垂れる。
「エステル」
「はい」
名を呼ばれたエステルは同じようにカルロスの眼前まで進み出た。
エステルがきたことを確認するとカルロスは自分が下げていたペンダントをエステルにつけてやる。
「魔道士よ、同じ親から生まれた子らであったなら色は何色となる」
「は、飴のごとき琥珀色でございます」
衆目へと体を向けたエステルの胸元を彩る色はやや黄みがかった琥珀色だった。どよめく周囲だったが、母親が違うため完全な琥珀色にはならないだろうとすかさず魔道士が補足する。
魔道具たるペンダントをレオナルドとエステルがそれぞれジュエリーボックスの中に戻した。
だが貴族たちのさざめくような声は止みそうもない。血縁関係を確認するための道具があることは分かった。だが、道具があった所で証明が出来る訳では無いのだ。
冷水をかけるべく、カルロスは息を吸い込む。
「入って参れ」
しんと静まり返った部屋の中で扉の開く音だけが響き渡った。ドレス姿の人物が立っていること以外は、雷鳴が逆行となり判然としない。
洗練された所作で陽の当たるところに進み出る。彼女が何者であるか、そう理解したもの達が中心となって驚嘆が広がった。
「お久しぶりでございます、皆々様」
板に付いた、流れるような所作。絹糸を束ねたかのような眩い金髪。そして、その血筋の正当さを見せつけるようなルビーの瞳。
あえて気付かないふりでもしているのか、カインは芝居じみた大仰な仕草でカルロスに問いかけた。
「証拠はあるのでしょうか」
「無論である」
宰相に目配せをするとカインの前に置かれた机に資料が並べられていく。
エヴァの事故の際、本来ならレグルス家の御者が馬車を扱う予定だった。その御者を外すためにカインはわざと長時間の用事を作り仕事を外させた。そして腕の悪い流しの御者を雇い、彼に悪路を走行するよう指示した。その道順を示した地図。
さらに、件の流しの御者は事故後逃亡しており、数年後郊外のスラムで宿無しになっている所を捕縛された。金髪の身なりのいい少年に金を積まれてやったと力無く白状した。その調書。
そして事故後検分された馬車の調査結果。その偽装される前の原本。
内容を見ると、もともと壊れやすい細工が施された形跡が確認できたらしい。
だがその調査結果をカインは役人を買収して偽装させた。ものぐさな役人は偽装するために使用した元の書類を机にしまったまま放置しており、彼の移動後掃除しようとした部署の者が偶然見つけたものだ。
そして、最後がエヴァの手記。亡くなる二年ほど前からカインの暗く静かな殺意を感じると記述があった。日記の最後になるとほとんどカインに怯える旨が記されていた。その中に気になる箇所が書き写されている。
〝あの子は自分を虐待した母親と私を混同している。妹と私は似ているとよく言われていたから無理もない。けれど私がこのことを口にしてしまえば逆上してしまうかもしれない。何をしでかすか分からない。その矛先がスカーレットに向くことが私はいちばん恐ろしい〟
エヴァの手記を見て以降、カインの表情が明らかに変わった。
「この資料は誰が用意したものですか?」
「グランツが信頼の置けるものに託したのだ」
その者は「スカーレットの身をカインが脅かすような事があれば陛下に渡してくれ」とグランツからこれらの証拠を渡されたのだ。
「陛下」
取り繕うとはしているのだろうか。だが、言葉の端々に苛立ちが滲んでいる。
「どなたなのですか?」
具体的な名前を教えろ、とカインの目は語っていた。教えたが最後、その人物を地の果てまで追い詰め惨い仕打ちをするのだろう。エヴァの恐怖の一端だけでもそこに表れているようだった。
重々しい表情のカルロスが口を開く。
「我が国の第一王子だ」
瞬きの瞬間、カインから表情というものがごっそり抜け落ちた。絶望に染まった眼差しでレオナルドへと視線を滑らせる。当然ながらレオナルドは目を合わせようとすらしない。
俯き、何かに耐えるように肩を震わせる。絶えず何かを発しているようだが、内容に関しては容量を得ない。
その顔が不自然な勢いで持ち上がった。
「これは何かの間違いだ!」
叫ぶやいなや眼前の机に向かった。憤然とした面持ちで証拠資料たちを腕で払い落とし、引き裂き、踏みにじる。
我に返った衛兵がカインを取り抑えようと動いた。
「陰謀だ! 策略だ! 私は嵌められたんだ!」
カルロスにすら殴りかかりそうな剣幕は屈強な衛兵たちが制している。
「私ではなくスカーレットが妾腹ではないのですかァ!」
そうだ、きっとそうに違いない。自分の中でそう結論づけることにしたのだろう。カインが落ち着きをみせた。
乱れた髪を撫で付け、激しく肩を上下させながら役者の仮面を被る。
「血縁関係の証明は出来ないのが残念ですよ」
「そうだな」
確かに、その証明をすることは難しい。だがそれはあくまでも〝難しい〟だけで出来ないことも無い。
「では、証拠を示すとしよう」
カルロスはそう言うと自分の肩越しに影を振り返った。
「魔道士」
ややあって靴音と共に闇色のローブの人影が姿を見せる。
「はい」
魔道士の腕の中には簡素なジュエリーボックスがあった。王の傍らで跪くと蓋を開けて前に出す。
「このペンダントは装着者の血縁関係を示すものだ」
指し示されたのは何の変哲もないシンプルなペンダントだ。手のひらに握ってしまえる大きさの銀の台座に透明な楕円状の石がはめ込まれている。
カルロスはまず、一つを自分の首にかけた。
「レオナルド」
「はっ」
機敏な動作でカルロスの前まで来ると、ボックスからペンダントを取り出し胸にかける。
ほんの数秒ほどで石の中心から色が滲み出てきた。冴え渡るような紅だ。
「これが親子の色、か」
魔道士に視線をやると首肯するように頭を垂れる。
「エステル」
「はい」
名を呼ばれたエステルは同じようにカルロスの眼前まで進み出た。
エステルがきたことを確認するとカルロスは自分が下げていたペンダントをエステルにつけてやる。
「魔道士よ、同じ親から生まれた子らであったなら色は何色となる」
「は、飴のごとき琥珀色でございます」
衆目へと体を向けたエステルの胸元を彩る色はやや黄みがかった琥珀色だった。どよめく周囲だったが、母親が違うため完全な琥珀色にはならないだろうとすかさず魔道士が補足する。
魔道具たるペンダントをレオナルドとエステルがそれぞれジュエリーボックスの中に戻した。
だが貴族たちのさざめくような声は止みそうもない。血縁関係を確認するための道具があることは分かった。だが、道具があった所で証明が出来る訳では無いのだ。
冷水をかけるべく、カルロスは息を吸い込む。
「入って参れ」
しんと静まり返った部屋の中で扉の開く音だけが響き渡った。ドレス姿の人物が立っていること以外は、雷鳴が逆行となり判然としない。
洗練された所作で陽の当たるところに進み出る。彼女が何者であるか、そう理解したもの達が中心となって驚嘆が広がった。
「お久しぶりでございます、皆々様」
板に付いた、流れるような所作。絹糸を束ねたかのような眩い金髪。そして、その血筋の正当さを見せつけるようなルビーの瞳。
0
あなたにおすすめの小説
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!
木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。
胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。
けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。
勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに……
『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。
子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。
逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。
時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。
これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
【完結】引きこもりが異世界でお飾りの妻になったら「愛する事はない」と言った夫が溺愛してきて鬱陶しい。
千紫万紅
恋愛
男爵令嬢アイリスは15歳の若さで冷徹公爵と噂される男のお飾りの妻になり公爵家の領地に軟禁同然の生活を強いられる事になった。
だがその3年後、冷徹公爵ラファエルに突然王都に呼び出されたアイリスは「女性として愛するつもりは無いと」言っていた冷徹公爵に、「君とはこれから愛し合う夫婦になりたいと」宣言されて。
いやでも、貴方……美人な平民の恋人いませんでしたっけ……?
と、お飾りの妻生活を謳歌していた 引きこもり はとても嫌そうな顔をした。
死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?
六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」
前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。
ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを!
その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。
「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」
「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」
(…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?)
自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。
あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか!
絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。
それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。
「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」
氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。
冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。
「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」
その日から私の運命は激変!
「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」
皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!?
その頃、王宮では――。
「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」
「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」
などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。
悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる