追憶の匂い

貴美月カムイ

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追憶の匂い2

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「シャワーは浴びるな」との言いつけに従う。「でも」などと言っても彼には通じない。汗ばんだ私の体を貪るのが好きなのだ。
 また、彼に抱かれる。
 脱がされ、舌を這わせられ、脇の下も綺麗に舐められ、首筋からへそ、太股から乾く間もなかった花びらへと舌は這いずり回る。
 彼を感じ、思うままに鳴いてみる。今夜だけと思いながら今夜も、彼という鳥かごの中の鳥になる。
 歌い、感じ、叫び、濡らし、吸われ、舐められ、汁で濡れたピンク色の突起も綺麗に舐め回され、私がだんだんと耐えられなくなったところで彼の肉に陵辱されていく。
 待っていたわけでもなく、期待していたわけでもなく、でも、欲しい。入れて、奥まで、裂くような、太い彼のものを、体が欲する。
 そんな私の体を知っていて、ただれた女の肉の奥へ侵入しようとする彼。
「貫いてやる」とあてがわれる。
 入ってくる瞬間、いつも妙な気持ちになる。入れて欲しい期待と、楽観的な拒否。断っても私の体が納得しない。断っても彼の性欲が気持ちが納得しない。だから、入れて楽しみたい。だから、切れてしまいそうな彼が愛しくなる。腰を突き入れ、図太い彼の先端が、今入って私の体が信号機のようにパッと変わる。
 すんなりと埋まっていく感触がする。花びらの奥が圧迫されて気持ちいいのが走ってくる。彼の肉を拒むことなく奥まで受け入れるのがわかる。私は本当は彼のことが好きなんじゃないかと本気で思う瞬間ですらある。
 こすられ、突かれ、自然と口にする言葉は「いい! いい! ああっ!」と喜びの声。
 彼の言った通りの「牝」に成り下がる。牝として喘ぐ自分に嬉しさすら感じる。ゆっくりと抜き差しされる彼の肉の形を感じたくても、早く動く激しいこすれに混乱して我を失う。
 彼が中で暴れ回っている。体中に鳥肌が、快楽が広がって波打つ。
「うああ!」
 まるで叫び声。
 でも、叫んでいるのではなく自分では声が漏れた程度だと思っている。それだけ自分がわからなくなってジュブジュブとあそこから漏らしている。彼の肉で、彼に貫かれて、彼を受け入れている。体中が嬉しがってキスをせがんで「もっと突いて。メチャクチャにして」と叫びながら。
 彼の感触が伝わってくる。征服、支配、陵辱、私の心臓と魂を、その手で掴み取ったと思い込んだ満ちた感情で私へと解き放ってくるのを。欲望の汁を吐き出されるのを。
「出して。出して。ああ、いくいく。私も、い、くぅぅ!」
 互いに果てて、彼の重さと熱さを感じる。私の体は彼に飼いならされたように反応してブチュブチュと漏らす。
 密室の想い、密室の行為、密室の秘密。
 近いはずなのに、背中に美しく輝く遠い記憶。

「どうしたの?急に黙って」
 バーのカウンターで久しぶりに二人で飲みにきた旦那に聞かれる。
「え? うん。ちょっと昔を思い出した」と誤魔化す。
 不思議と思い出すときがある。でも、もう忘れたい。大事にしていたはずなのに、汚されてしまった。
 偶然、久しぶりにあの人に出会い近況を聞かれ「結婚しました」と伝えると「そうか。お前のこと愛していたよ」と伝えられた。何年も経っているのに急に。バカらしくて呆れるほどに彼が小さく見えた。
 思い出は思い出のままが美しい。
 言ってほしかったような、今はもう気持ちすらも遠くに埋もれてしまいわからなく、言われた言葉は虚しさをともなって、季節の風に軽々と吹かれて消えた。
 今は隣に座っている大切な旦那様との久しぶりの、短くトキメク時間を大事にしようと彼の太股を掴み、驚く彼の顔を見ながら股間へと指を滑らせ、さすりながら言った。
「ねえ、この後あなたの匂いを嗅がせてよ」

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