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第3章 北ロマリア戦役
パドゥアの戦い 04
しおりを挟む「ロイク少将の発言通り、残念ながら我が艦隊はロマリア侵攻艦隊に比べ兵力は劣勢です」
ヨハンセンはまず自軍の現状から説明を始める。
「だが、敵艦隊は補給が欠乏して戦闘物資も少なく、我らと戦う頃には士気はかなり低下しており、短期戦ならまだしも長期戦となれば継戦能力で勝る我軍が有利である。兵数が多少劣勢でも問題ないのではないか?」
フランはヨハンセンの戦術眼がどれくらいか知りたくて、敢えてそう反論してみる。
「確かに、そうかも知れません。ですが、少なくとも食料は航路上の惑星から略奪して得ることが出来ます。その略奪した量によっては、我々の予想より士気は低下しないかも知れません。何より数で勝る敵に突進による突破を選択されれば、それを防ぐのは至難となるでしょう」
「突破なら自然と短期決戦となり、継戦能力は関係なくなる…か」
ロイクは意見を述べて、一応話し合いに参加しておく。
物資も乏しく士気も低い状態で、まともに戦えば大損害を受ける状況で、被害を減らす一番の手は戦闘を回避する事であるが、ガリアルム艦隊によって航路を読まれて待ち構えられている以上それもできない。
次に被害が出ない手は降参することであるが、そのような選択をする指揮官はそうはいないであろう。
そうなれば、前述の通りある程度の被害を覚悟して、突進による突破という短期決戦を仕掛ける事が、艦隊の被害を抑えることができる可能性の高い手であろう。
何故なら、兵力で劣る軍が鶴翼の陣なりの包囲陣で突進してくる敵を迎撃しても、玉葱の皮を剥くように外側に配置された敵艦を破壊している間に、陣形を拡げて薄くなった箇所の突破を許してしまうからである。
迎撃側も陣形を縦に厚くすれば、突破は防げるかもしれないが、被害は甚大なものとなり本末転倒である。
以上のヨハンセンの説明を聞いたフランは、彼の状況分析の鋭さに内心驚嘆し、改めてその軍事的才能を認める。
「では、貴官の考えた作戦を聞かせてもらおうか」
「はい。まず前回までの戦いで、我軍が拿捕した敵の艦を運用して、兵力の劣勢を無くします」
「確か1700隻だったな、クレール?」
「はい。正確には1713隻です」
フランの側で控えていたクレールが、確認のための質問に正確な数で答える。
(艦数を正確に把握している…。やはり、殿下もこの作戦を考えていたのか…)
ヨハンセンは二人のやり取りを聞いて、すぐさまそう推察するがここで作戦の説明を止めても仕方がないので、彼は続けることにしたがフランから疑問を投げかけられる。
「だが、拿捕した艦の操艦技術を乗組員が習熟するには、それなりの時間が掛かる。少なくとも、次の戦いには間に合わないと思うが?」
フランはまたもや敢えて彼を試すためにこのような質問をする。
「はい、敵もそう考えるでしょう。ですが、それこそが敵をこちらの作戦に引き込む要因となるのです。それに、拿捕した艦は戦う必要はありません。何故なら― 」
「『斜線陣』を用いるのだな?」
ヨハンセンの解決策を聞く前にフランがそう答えると、彼はこの言葉を持って自分の策の答えとする。
「やはり、殿下も同じ作戦をお考えでしたか…」
その言葉を聞いたフランは、ヨハンセンが事前に自分が同じ作戦を考えていた事を看破した事を察すると、余計な誤解を持たれる前に、今回の作戦会議の真意を答えることにした。
「貴官の推測通り、次の戦いに用いる作戦は、実は私の中では既に決まっていた。だが、貴官達二人の意見を聞いたのは、私の考えた作戦よりも優れたモノなら採用するつもりだったからだ」
フランはまだ若く実戦経験も少ない為に、敵が果たして自分の頭の中の計算通りに斜線陣に乗ってくるかどうか少し不安であった。
今までの作戦が計算通り上手く成功してきたからといって、今回もそうなるとは限らないし、そう考えることは楽観的と言えるであろう。
特に今回は今迄と違って、実質的な戦力では劣勢であり、敵が斜線陣に乗ってこなければ、補給不足による士気低下と物資の足りない敵艦隊に負けることは無いと思うが、大打撃を与えられずに戦場を離脱されるかも知れない。
そうなれば、ドナウリア帝国に戦力の余裕ができて、こちらの有利な講和条約を飲まず、ガリアルムに次の戦いに向けた戦力増強の充分な時間は与えられないであろう。
「だが、私の考えた作戦と戦史を研究した貴官が考えた作戦が同じなら、自信を持って遂行する事ができるな」
こうして、ヨハンセンと同じ作戦であると解り自身を持ったフランは、ヨハンセン、ロイクと共に作戦を詰めなおす。
作戦会議が終わった後、会議室に残るフランが厳しい顔でいることに気付いたクレールは、彼女の気持ちを推察してこのような質問をしてくる。
「ヨハンセン提督のことが気になっているのですか? あの方が優秀すぎる部下であることに」
「彼の忠誠心が私に向かなくなった時、どうなるかと考えればな…」
若すぎる総司令官に、クレールは安心材料になればと、自分の意見を進言する。
「私はその点は、心配しなくてもいいと思っています。あの方がそのような気質の持ち主ならば、戦史研究室から広報部に移動した時にキグルミを着て満足していないと思います。それに私の私見ですが、あの方には私心が無いと思われます」
「そうだな…。私が信頼せねば、彼の信頼を得ることはできんな…」
フランは自分の人を見る目には多少自信があり、ヨハンセンに私心が無いことは解っているが、万が一の事を考えると彼の戦術能力がもし自分よりも優れているとなると反旗を翻された時、それを倒すことが自分にできるのかと不安になってしまう。
だが、次の瞬間、彼女の恋愛脳に稲妻が走りこのような考えが浮かぶ!
(そうだ、私にはルイがいるではないか! 私とルイが力を合わせれば大丈夫だ! きっと、大丈夫!)
こう考えたフランは、今は次の作戦に集中することにした。
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