122 / 154
第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)
予期せぬ要件 その1
しおりを挟む入院してから約1週間が経ち、ルイは容態がかなり回復し暇を持て余し始める。
そこで以前より、暇がなく中断していた小説の執筆を再開させようと思い、暇な時間はベッドに設置されたスライド式の食事を摂る為の机の上に、自分用の携帯端末を置きコンソールを叩いていた。
端末と向き合いながら、彼はある事を考えていると病室の外から、こちらに駆け足で近づいてくる足音が聞こえてくる。
「フラン様か… 今日こそ話をしよう」
ルイは打ち込んでいた文章をセーブすると、端末の電源をスリープにして、机と共にベッドの外にスライドさせると、フランがノックもせず病室だというのに扉を勢いよく開け、入室してくる。
「フラン様、そんなに慌ててどうしました?」
彼の言う通り、入室したフランは彼女にしては珍しく冷静な表情ではなく、慌てて来たのか肩で息をしており、余程重要かつ緊急な要件で来たに違いない。
ルイは一体どんな要件のかと固唾を飲むと、フランから語られた訪問の内容はこのようなものであった。
「ルイ!! オマエ、ガチムチに転んだりしないよな!?」
「突然何を言い出すんですか!?」
全く以て要領の得ないその質問に、流石に優秀なルイも困惑する。
フランは取り敢えず落ち着くようにと、ルイにベッドの近くにあるフラン専用の椅子に座るように促され、その座り心地のよい椅子に座る。
ルイの病室には、医療従事者以外には基本面会者はフランだけであり、そのため彼女専用の椅子が用意されている。
彼不在の艦隊運営を任されている、アナクレト・シャルトー准将とナルシス・クラヴェル代将が稀に来るが、ルイに負担を掛けてはいけないと5~10分くらいしか面会できないため、主にモニター越しで指示を仰ぎこれも10分ぐらいである。
因みにフランとの面会は負担になるはずがないので、特別に10分以上面会しても良いことになっている…
フランからクレールとのやり取りを聞かされたルイは、少し呆れながらこう答える。
「安心してください! 僕は女の子のほうが大好きですから!」
そうキリッと答えたルイであったが、すぐさま言葉足らずであった事を後悔する。
「おい、ルイ… 『僕は女の子のほうが大好きです』とは、どういう事だ? オマエ、女の子はみんな好きとかいう軽薄な事を、私に公言しているのか?」
フランは例の怖いヤンデレ目で、ルイを問い質す。
その怖い目が、ルイの負担になるであろうことを想像もせずに…
「そこは、『女の子のほう』では無く… その… あの… 『フラン様が好き』だろうが… ゴニョ ゴニョ……」
そして、フランは椅子に座りながら、胸の前辺りで両手の人差し指の先端を合わせ、ルイから視線を逸しモジモジしながらそう言葉を発するが、<その… あの…>のあたりから、恥ずかしさで声が極端に小さくなって、ルイには全く聞き取れない。
そのあと、いつものように他愛もない会話を20分程おこなう。
といっても、主に会話するのはフランであり、会話のキャッチボールというよりフランが一方的に10個程ボールを投げつけてきて、ルイが1~2個返球している間に、更に10個程投げつけられるという図式である。
散々喋って満足したフランが休憩していると、意を決したルイは遂に彼女が入室する前に話そうとしていた事を話し出す。
「フラン様…… お話があります… 」
「どうした?」
神妙な面持ちで話し始めたルイの表情を見て、聡明なフランはその内容が重要なものであると直ぐに察して、表情からは先程までの笑顔は消え自然と緊張した表情になってしまう。
「フラン様…… 僕は帰国したら、軍を除隊しようと思っています」
「?!」
突然のルイの告白は、フランにとってはまさに青天の霹靂であり、鋭敏な頭脳を持つ彼女ではあったが、その言葉の意味を理解しきれずに言葉を返す事もできずにいる。
彼はそんなフランを尻目に話を続ける。
「以前から考えていた事だったのですが、入院中に考え続け今回の負傷を期に除隊することを決意しました」
「はあ?! オマエ… 何を言っているんだ…? 」
ルイはフランを置き去りにして話を進める。
「三年間の兵役義務のうち僕は後1年ありますが、今回の戦傷で傷痍除隊できるでしょう。これなら、ノブレス・オブリージュによる義務も問題ないでしょう」
戦傷からの心的外傷後ストレス障害(PTSD)による人権問題もあって、戦況が優位な間は戦傷による傷痍除隊の規制は緩く、ルイの傷痍除隊も許されるであろう。
「軍を辞めた後は領地に戻って、公務員になった後にフラン様も御存知のとおり、小説家を目指そうと思っています」
彼の今後の予定の内、小説家になれるかは未知数であるが、公務員は恐らく優秀なルイなら、フランの妨害が無ければなれるであろう。
「待て! 勝手に話を進めるな!!」
フランは少し発狂気味に、そう言い放ってルイの話を制止する。
まだ混乱して、事態を整理しきれていない頭から発せられたその言葉は、いつも冷静なフランからは想像もできない論理も何も無いもので、彼女がルイの発言を受け止めきれていないことがわかる。
ルイもそれが解ったので、フランが落ち着くのを待つことにした。
この件は、冷静な彼女と話し合わなければならないからだ。
だが、この予想さえしていなかったのか、落ち着くのに時間を要してしまう。
そのため、彼女はまだ冷静さを欠いた頭脳で、取り敢えず思いついた言葉で、ルイに真意を問い質しはじめる。
「どっ どうして、急に辞めるなんて、言い出すんだ? 今回の負傷で戦場が怖くなったのなら、後方勤務に異動すればいい。別に辞める必要はないぞ?」
彼女の言葉どおり、ルイのような階級の高い高級軍人は、その地位から大抵はこの程度の戦傷で、除隊することはなく、例え前線での職務が困難な戦傷であっても、後方勤務への異動となるため軍を辞める者は少ない。
それ故に、軍を除隊するということが、フランを混乱させている一因である。
フランの質問に、ルイはこう答える。
「僕が小説家を志しているのは、ご存知ですね? その目標に邁進したいのです」
「軍人を続けながらでも、小説家は目指せるではないか!?」
彼女の言葉のとおり、軍人を続けながらでも、時間はかかるが小説家は目指せる。
現にルイは、保険として公務員になるつもりで、先程もそう発言しており、冷静なフランならそこを突けたであろう。
0
あなたにおすすめの小説
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる