宇宙戦記:Art of War ~僕とヤンデレ陛下の場合~

土岡太郎

文字の大きさ
127 / 154
第5章 Vive L'Empereur(皇帝万歳)

戴冠 その3

しおりを挟む



 8月23日エゲレスティア連合王国首都星ロンデン―

 プルトゥガル王国の同盟離脱及び講和により、任地から帰国していたアーサリン・ウェルティ少将は、昇進は見送られたが今迄と今回の功績によって勲章を与えられることになり、バッティンガム宮殿のある首都に副官のクレア・スウィンフォード大佐を伴ってやって来ていた。

 今回勲章を授与されたのは、彼女以外にはネイデルラント方面で功績を上げたホレス・エリソン大将、その上官であり総司令官ジョニー・ジャイルズ元帥、アーサリンの上官サイラス・ウッド元帥などあと数人いる。

 アーサリンの赤い軍服に、バス勲章がキラリと光る。
 これより彼女は公の場では「サー・アーサリン・ウェルティ」と呼ばれるようになる。

 ―が、親しい者達からはあまりそう呼ばれず、本人も気にしなかった。

 授与式は無事に済み、その後宮殿では叙勲祝賀会と今回の戦役の戦勝式典を兼ねたパーティーが盛大に行われる。

 パーティーの主役は、新領土であるネイデルラントを勝ち取ったネイデルラント方面軍の面々で、特に人が集まっているのはその立役者であるエリソンであった。

 クレアはアーサリンと話をしようと会場を見渡すが、先程まで会場の壁際でつまらなさそうに立っていたアーサリンの姿は今もうそこには無く、会場からも消えていた。

「また、会場を勝手に抜け出したわね…」

 クレアは少し呆れた感じで、そう呟くと彼女を探しに自分も会場を後にする。

「今日はいい天気ね~ お陽様でポカポカだわ~」

 そのアーサリンは宮殿の中庭のベンチに座り、日向ぼっこを楽しんでいた。

 ※惑星ロンデンは、8月が春である。

「あっ あの… お隣よろしいでしょうか?」

 ベンチで日向ぼっこを呑気に楽しむアーサリンは、不意に声をかけられる。

 彼女が声のした左横を見ると、そこにはまるで小動物を連想させる茶色の髪の小柄な少女が立っていた。

 それは、礼服に身を包んだフラン唯一の同年代の親友メアリー・コールフィールドであった。

 彼女はフランの戴冠式まで帰るのを条件に、夏休み(ガリアルムでは季節は夏)として実家であるエゲレスティアに帰省しており、父親に連れられてこの式典に参加していた。

 だが、お酒が飲めない彼女は、会場に漂うアルコールだけで酔った感じになってしまい、その酔いを覚ますために、中庭に休憩に来たのであった。

 そして、そこで幸せそうに日光浴しているアーサリンを見て、自分も一緒にしてみようと思った。

 もし、メアリーが階級章や軍服に詳しくアーサリンが少将という高級士官だとわかっていれば、このような事は考えなかったが、日光浴している姿はどうみても優しそうなお姉さんだったので、思わず声を掛けてしまった。

「はい、どうぞ~」

 アーサリンはのんびりした口調で、予想通り優しい声でそう答える。

「失礼します」

 メアリーはアーサリンの横に腰を掛けると、二人は暫く無言で春の日差しを堪能する。

「あっ あの… お姉さんもパーティーの出席者で、会場を抜け出してきたのですか?」

 メアリーは隣に座る綺麗なお姉さんに、勇気を出して話しかけてみる。

「はい~ そうですよ~。わたしは~ あのような場は苦手だから~ ここに逃げてきたの~。それに~ 会場には~ 口うるさいお兄様と~ 同じく口うるさい友達がいるから~ あまり居たくなかったの~」

 のんびりとした口調で、そう答えるアーサリンを見たメアリーは優しいお姉さんと確信したと同時に、その会話内容から駄目なお姉さんだとも確信した。

 そして、二人がまた日向ぼっこを楽しんでいると

「やっと、見つけた! アーサリン、勝手に会場を抜けるなとあれほど言ったでしょうが!」

 ようやくアーサリンを発見した彼女曰く口うるさい友達が、そう説教しながら近寄ってくる。

「えっ!? アーサリン!? まさか、お姉さんは『サー・アーサリン・ウェルティ』卿ですか?」

「はい、そうですよ~」
「しっ 失礼しました~!」

 メアリーはアーサリンが偉い人と解った途端、緊張してしまいその場から、脱兎のごとく逃げ出してしまった。

「今の娘は?」
「一緒に~ ここで日向ぼっこしていたの~」

「慌てて何処かに言ってしまったけど、急にどうしたのかしら?」

「きっと~ クレアの顔が怖かったのね~ いつも、眉間にこう~ 皺を寄せているから~」

「誰のせいで、皺を寄せていると思っているのよ!」

 クレアはそう言うと、急にどっと疲れてきて、先程までメアリーが座っていた場所に腰を下ろし休憩することにする。

「やはり、今回の主役はエリソン大将ね。ベーブンゲンの戦いで旗艦を損傷し自身も義手を失いながらも敵中央突破を見事に成功させ、会戦の勝利を呼び込んだ。まさに名将だな」

 沈黙に耐えきれなくなったのかクレアは、会場で人々に囲まれたエリソンの姿を思い出しながらそう評する。

 だが、アーサリンは違う評価というか感情を持っているようで、自分の考えを彼女に話す。

「わたしは~ あの方は~ あまり好きではないわ~」
「どうしてよ?」

「だって~ あの方は~ お友達の奥さんと~ 不倫しているのよ~ 名将かもしれないけど~ 私は好きではないわ~」

 アーサリンはエリソンを名将だと評価はしているが、幸せな結婚を夢見る彼女からすれば、不倫している彼のことはどうしても好きになれなかった。

「アナタらしいわね」

 クレアがそう返事をすると、アーサリンからこのようなことを質問される。

「ねえ、クレア~。この勲章って~ 何処かに引っ掛けたりして、失くしたら~ やっぱり、怒られるのかしら~」

「失くした後の事を考えるより、失くさない事を考えろ!」

 クレアはもっともなツッコミを行う。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

不死身のボッカ

暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。 小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。 逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。 割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。 ※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。 ※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。 ※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。 ※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...