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プロローグ

第0話 入学前夜

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 目付きが少し悪く、いつもおどおどしていて、よく人見知りをする女子中学生。それが周りから私の印象らしい。

 私は運動が苦手で、勉強もあまり出来ない。
 唯一の長所は、他人より手先が器用と言われること。
 そんな目立つ特徴のない平凡な人間。
 でも容姿だけは強いて言うなら……なのに女子っぽい……らしい。大切なことなのでもう一度、女子っぽい。
 顔立ちはいわゆる中性的な方だとは私自身思っていた。お世辞にも男らしい容姿では無いと。

 長髪を耳にかけ、身長は低く(150cm代)。
 体型は痩せ型。声変わりはあまりせず、声が低めな女子と同じくらいで。
 筋力・体力ともに同級生女子生徒より圧倒的に低い…極めつけに、名前は「桜舞おうぶ 咲希さき」。
 いや、確かにそりゃあ間違いますわな。なんというか…名前でトドメを刺された感じといえばいいのだろうか。

 学校生活でも、制服がある学校ならばまだ性別が判別しやすくて良かったのだろうが、生憎母校中学校は私服通学の学校だったため、過ごしやすいゆったり目の、ワンサイズ大きめのぶかぶかな服を毎日着ていたのだが、入学初日からクラスで女子と間違えられ、それ以降何故かクラスの女子グループの仲間入り?(強制)を果たし、自分よりも背の高い女子に軽々と持ち上げられたりと、オモチャにされる日常を送ることになったのだ。
 おかげで友達は増えたが、はっきり言って最後まで男子扱いされなかった中学校生活は軽く、いや、重くトラウマである。

 ……しかし明日から高校生、新しい学校で心機一転、あの日常ともついにお別れだ。

 ふぅ

 小さく息を吐き、持ち物リストを確認しながら通学用のリュックに必要な教科書やらを詰める。

 入学初日の明日、心配していることは2つ。名前・容姿をからかわれないかということだ。知り合いばかりだった小中学校ですら、人見知りでまともに会話出来なかったのに(女子グループでは立ち位置的に会話の必要がなかった)、私が入学する「桜陽農業高校」の農業土木科には友人どころか知り合いひとりすらいない。他人と自分から話すのが苦手な私からすれば、高校生活での人間関係は心配しかないのだ。

「ひとり、かぁ……」

 やっぱり、散々オモチャにされていたとはいえ友達と離れるのは心細いな……

「・・・」

 まあ、ネガティブに考え過ぎても仕方がない。
 準備も終わったし、明日のことは明日考えることにしてもう寝よう。

 私は部屋の照明を消して横になり、ゆっくりと目を閉じて眠りについた。
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