本好き魔導士の溺愛

夾竹桃

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リュックサック

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「アメリア、まだその荷物を自分で持つ気か? いい加減俺に貸せ」

「でっ、でも。また遭難しちゃうかもしれないから」

「出発する前にブレスレットを渡しただろう。そのブレスレットには位置情報を発信する機能があり、俺はその情報を受け取ることができる。だから、たとえアメリアが遭難してもすぐに探しだせる。余計な心配はするな」

「そんな大事な情報、先に教えておいてください」

「まさか、アメリアがここまで俺と離れると思わなかったからな」

「気付いていたなら途中で手助けしてくれても、いいじゃないですか」

「近衛兵に助けられていただろ。その方がいいんじゃなかったのか」

「近衛兵じゃなく、テオバルト様がいいです。テオバルト様に助けて欲しいです」

 私は本心を言った。テオバルト様のご機嫌を取ろうとかじゃなく、本心からそう思う。
なんだかんだ言っても一番の危機的状に駆けつけてくれたのは、テオバルト様だし、すぐに私の傷を治してくれた。やっぱりテオバルト様は、最強だ。

「最初からそう言っておけばよかったんだ」

 テオバルト様は、嬉しそうにニヤけて、それを隠すようにソッポを向いた。

「はい。初めからテオバルト様の言うこと素直に聞くべきでした。ごめんなさい。これからはずっと一緒にいてくれますよね? もう離れ離れになるのは絶対に嫌です」

「ああ、ずっと一緒だ」

「約束ですよ」

「わかっている。それで、その荷物はどうする? 素直に俺に貸すのか?」

「はい、よろしくお願いします」

 私はリュックサックを肩から降ろした。
そうしたら、リュックサックに無数の黒いゴマみたい点がくっ付いていることに気付いた。
よーく見てみると……、なんだこりゃ、キモイ虫だーー。

「ぎゃーっ、テオバルト様っ、リュックサックに虫が大量に付いてます!!!」

「ああ、それはナジ虫だな。リュックサックに入っている菓子の匂いに誘われてくっ付いたんだろう」

「無理、無理、無理、虫いやーーっ」

私は虫が離れるように、リュックサックをブンブン振ってみる。
けれど、一向に取れる気配がない。
手で触って虫を取るなんて論外だから、さらに大きくリュックサックを振り回す。
その次の瞬間、握力がない私は、遠心力がかかったリュックサックを手放してしまい、崖に落としてしまった。
というか、こんな近くに崖があるなんて、今気づいた。
恐る恐る崖下を覗いてみると、意外に高低差があり、私のリュックサックがどこに行ってしまったのか、わからない。
私は、すがるようにテオバルト様を見ると、明らかに呆れた表情をテオバルト様はしている。

「テっ、テオバルト様。私のリュックサック落ちてしまいました」

「そうだな」

「魔法か何かで、ぴゅーんっと持ち上げられたりしませんか?」

 テオバルト様も崖下を覗き込むが、テオバルト様でも見つけられないようだ。

「無理だな。目視できなければ持ち上げられない」

「そんな。私の大事な荷物が……」

「諦めろ。必要な物は俺が貸してやる」

「ありがとうございます。ひたすら迷惑掛けて、ごめんなさい」

「そう落ち込むな。行くぞ」

「はい」

 リュックサックが無くなったおかげで、私はさっきよりも軽やかに歩くことができた。
これなら、まだ2時間ぐらいは歩けそう。
そう思っていたのに、突然、大雨が降り始めた。
それもバケツをひっくり返したような大雨。
すぐに、ずぶぬれになり、身体が冷えてくる。
テオバルト様は、この大雨の中、地面に手を付き、目をつぶっている。
手を付いた所が仄かに光っていることから、テオバルト様は何やら魔法を使っているよう。
それからすぐにテオバルト様は地面から手を離すと、今度は私の手をギュッと握りしめる。

「アメリア、洞窟を見つけたから、そこまで急いで行くぞ」

「はっ、はい」

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