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第三章 王宮編
地下牢
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地下牢へ降りたザイオンは、捕虜の見張りをしていた三人の族のうち二人に傷を負わせ、一人を捕らえていた。
地下牢には、拷問を受けて両手の骨を砕かれた男や、鞭打たれて血だらけの男、強姦された女もいた。目を背けたくなるような惨状と、血と膿と体液の臭いが漂って、ザイオンは吐き気を覚えた。
砦に入ったエディたちは、地下に捕らえられていた警備兵たちを階上に移動させた。だが、警備隊長の妻だという女は、牢の隅で動こうとしなかった。髪も服も乱れたまま、虚ろな目で暗闇の一点を見つめ、ぶつぶつと何事か呟いている。
「だいぶ酷い目に遭ったようで……一日中、何十人も相手させられたとか」
牢に囚われていた警備兵から話を聞き出した兵士が、ザイオンにそっと耳打ちする。
「胸糞悪い話だぜ。そんな残虐な部族、さっさと根絶やしにするべきだ」
ザイオンが苦々しく毒づいた。
「ザイオン大尉、彼ら戦闘部族と呼ばれる人々は、元は砂漠に住む独立した少数民族です」
エディが笑顔を消して話しだす。
「王国が国土を広げた際に、彼らが住んでいた地域も併合された。彼らにとって、それは侵略といっても良いものでした。住む土地を追われて、自治権を奪われた彼らは、激しい戦いの末、多くが命を落としたといいます。しかし彼らは戦に敗れ、部族は四散し、新しく派遣された領主たちに搾取され、奴隷として売り買いされていった。今も抵抗を続けているのは、その僅かな生き残りです」
エディは普段と変わらない優しい声と丁寧な口調で話し続けた。
「彼らは、かつてのイシュラヴァールが彼らの同胞にしてきたことと同じことをしているだけです。これは挑発でも拷問でもない。告発ですよ」
「エディアカラ中尉、そのくらいにしておけ」
ウラジーミルがエディの肩に手を置いて言った。
「お前さんの言ってることは正しいがな。それを国王の側近の前ででも言ってみろ、今頃首が飛んでいるぞ」
相変わらず牢の隅で動こうとしない女に手を余して、兵士たちが立ち尽くしていると、アトゥイーが女の前にしゃがみこんだ。
「……夫を殺され、子供たちを奪われ、尊厳を失い、もう私が生きていく意味などありません……どうか、哀れと思うなら……どうかもう、死なせてください……」
女は一点を見つめたまま言った。その瞳にアトゥイーは映っていない。
「……わたしはあなたを哀れだとは思わない」
アトゥイーが言う。尊厳などなくたって、生きていくことができるのを、アトゥイーは知っている。砂漠では幼い奴隷は容易に食いっぱぐれた。床に落ちた残飯を這いつくばって食べたこともある。自分を憐れむより、その日を生きることに必死だった。
女は眩しそうにアトゥイーを見上げた。
「若い兵隊さん、あなたに私の何がおわかりになるの……?年を経て得たものを失うのは、若いあなたが何かを失うよりもずっと重いのに……」
それがどういう意味なのか、身ひとつで生きてきたアトゥイーに分かるわけがなかった。アルサーシャに来るまでは、失うものすらなかった。今ようやく手にした兵士という居場所も、いつ失うかわからない。――だけど。
たとえまたすべてをなくしても、失いたくない記憶がある。
「……攫われた子供たちは生きている」
アトゥイーの言葉に、女は目を見開いた。
「遊牧民は子供を殺さない。生きていればいつか、相見えることもある」
女が泣き崩れる。
「ううう、うーーーっ………」
ユーリ。いつかまた、会いたい。
それだけは捨てられない。
21ポイント警備隊の隊長の男は、地下牢の前で無残な撲殺体として発見された。
その子供たちは、見つかっていない。
地下牢には、拷問を受けて両手の骨を砕かれた男や、鞭打たれて血だらけの男、強姦された女もいた。目を背けたくなるような惨状と、血と膿と体液の臭いが漂って、ザイオンは吐き気を覚えた。
砦に入ったエディたちは、地下に捕らえられていた警備兵たちを階上に移動させた。だが、警備隊長の妻だという女は、牢の隅で動こうとしなかった。髪も服も乱れたまま、虚ろな目で暗闇の一点を見つめ、ぶつぶつと何事か呟いている。
「だいぶ酷い目に遭ったようで……一日中、何十人も相手させられたとか」
牢に囚われていた警備兵から話を聞き出した兵士が、ザイオンにそっと耳打ちする。
「胸糞悪い話だぜ。そんな残虐な部族、さっさと根絶やしにするべきだ」
ザイオンが苦々しく毒づいた。
「ザイオン大尉、彼ら戦闘部族と呼ばれる人々は、元は砂漠に住む独立した少数民族です」
エディが笑顔を消して話しだす。
「王国が国土を広げた際に、彼らが住んでいた地域も併合された。彼らにとって、それは侵略といっても良いものでした。住む土地を追われて、自治権を奪われた彼らは、激しい戦いの末、多くが命を落としたといいます。しかし彼らは戦に敗れ、部族は四散し、新しく派遣された領主たちに搾取され、奴隷として売り買いされていった。今も抵抗を続けているのは、その僅かな生き残りです」
エディは普段と変わらない優しい声と丁寧な口調で話し続けた。
「彼らは、かつてのイシュラヴァールが彼らの同胞にしてきたことと同じことをしているだけです。これは挑発でも拷問でもない。告発ですよ」
「エディアカラ中尉、そのくらいにしておけ」
ウラジーミルがエディの肩に手を置いて言った。
「お前さんの言ってることは正しいがな。それを国王の側近の前ででも言ってみろ、今頃首が飛んでいるぞ」
相変わらず牢の隅で動こうとしない女に手を余して、兵士たちが立ち尽くしていると、アトゥイーが女の前にしゃがみこんだ。
「……夫を殺され、子供たちを奪われ、尊厳を失い、もう私が生きていく意味などありません……どうか、哀れと思うなら……どうかもう、死なせてください……」
女は一点を見つめたまま言った。その瞳にアトゥイーは映っていない。
「……わたしはあなたを哀れだとは思わない」
アトゥイーが言う。尊厳などなくたって、生きていくことができるのを、アトゥイーは知っている。砂漠では幼い奴隷は容易に食いっぱぐれた。床に落ちた残飯を這いつくばって食べたこともある。自分を憐れむより、その日を生きることに必死だった。
女は眩しそうにアトゥイーを見上げた。
「若い兵隊さん、あなたに私の何がおわかりになるの……?年を経て得たものを失うのは、若いあなたが何かを失うよりもずっと重いのに……」
それがどういう意味なのか、身ひとつで生きてきたアトゥイーに分かるわけがなかった。アルサーシャに来るまでは、失うものすらなかった。今ようやく手にした兵士という居場所も、いつ失うかわからない。――だけど。
たとえまたすべてをなくしても、失いたくない記憶がある。
「……攫われた子供たちは生きている」
アトゥイーの言葉に、女は目を見開いた。
「遊牧民は子供を殺さない。生きていればいつか、相見えることもある」
女が泣き崩れる。
「ううう、うーーーっ………」
ユーリ。いつかまた、会いたい。
それだけは捨てられない。
21ポイント警備隊の隊長の男は、地下牢の前で無残な撲殺体として発見された。
その子供たちは、見つかっていない。
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