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第三章 王宮編
作戦
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「21ポイントから、9、13、17ポイントまでの揺動作戦は、我々としては成功と言っていい。砦の兵力の目星がついたし、王都から援軍が到着するまでの時間もだいたいわかった」
室内は薄暗く、集まった人々の姿形は判然としない。どこか緊迫感のある押し殺した声とは対照的に、部屋の外からは酒場の陽気な喧騒が漏れ聞こえてくる。それが一層、場の空気を張り詰めさせる。
「次は――ここだ」
ジェイクの指先が地図の上をすべる。地図を囲むのは十名ほど。中にはハッサと、肉屋の妹ザラの顔もある。
「砂漠街道28ポイント、通称アルヴィラ砦。王都からは遠いが、砂漠地帯の主要な交易路が7つも交差する要衝だ。ここを落とす」
タン、と指先が地図の一点を叩いた。ジェイクが取り囲む面々を見回す。
「これは陽動じゃない。獲りに行くぞ」
地図を囲んだ者たちが、物々しく頷き合う。
「アルサーシャからの援軍をできる限り遅らせたい――ザラ、首尾はどうなってる?」
「ファティマが仕立ての納品がてら、市内の拠点に武器を撒いてるわ。王宮内はカスィムが手を回してる。カスィムによれば、今月か来月の十七日、でも来月は式典があるから警備が厚くなりそうだって」
「今月の十七日に決行しよう。王都から援軍が出たら――」
「わかってる。いざ軍が動いたら狼煙で知らせるわ。アルヴィラ砦なら必ず砂漠街道を通るから、門を張っていれば確実に分かるわ」
軍馬を出し抜くためには狼煙のリレーでつなぐ。これを、市中警備隊の目を盗んで行わなければならない。
「見つかるなよ」
「大丈夫。死角があるんだ」
「よし、王都は頼んだ。あとは周辺のポイントからの援軍だが――」
「17ポイントはそれでやられた。襲撃直後に、15ポイントから30騎の応援が来た」
暗闇から姿を表したのは、ぎらぎらとした眼をした男だ。日に灼けて白茶けた髪に赤いターバンを巻き、腰には戦闘民族が使う曲刀を提げている。肩口から剥き出しの腕には一面に見事な刺青が彫られ、それを隠そうともしない。
「カイヤーンか。よく来てくれた。俺がジェイクだ」
ジェイクが男の手を取って、輪の中に迎え入れた。
「話は前族長から聞いている。共に立ち上がれて嬉しく思う、ジェイク」
「前の族長殿は17ポイントで命を落としたんだったか。惜しいことをした」
「我々は命運を受け入れる。彼も悔やんではいないだろう」
カイヤーンの揺るがない言葉に、ジェイクは視線を伏せて哀悼の意を示した。
「――ときに、ユーリ・アトゥイーはここに?」
カイヤーンが室内を見回した。「ああ――、」とジェイクが奥を指した。「そこの酔っぱらいだ」
「アトゥイーは俺だが」
奥に座っていたユーリが、ゆらりと立ち上がった。片手には酒瓶を持って離さない。
「あんたがアトゥイーか。じゃあやっぱり赤の他人だったな」
ユーリは焦点の合わない眼で首を傾げた。
「いや、17ポイントで前族長を討ち取った兵士が、アトゥイーって名乗ったんだよ。尤もあっちはまだヒヨッコだったけどな」
「……聞かないな」
そう言って、ユーリはまた壁際にどっかりと座り込むと、酒を煽り始めた。ジェイクが額に手を当てて溜息をつく。
「そいつはほっといてやってくれ。今ちょっと色々あってこんなだが、戦までにはやめさせる」
「別に、酔っていようが眠っていようが、敵を倒せるなら俺は文句はない」
カイヤーンはちらりとも顔色を変えずに言った。
「しかし……アトゥイーという名は珍しいなぁ。ユーリには親族もいないはずだぜ。……若い男だったのか?」
ハッサも首を傾げる。
「ああ、ちょっと剣の腕が立つだけの子供だった。前族長も、なんであんなガキに殺られたのか」
室内は薄暗く、集まった人々の姿形は判然としない。どこか緊迫感のある押し殺した声とは対照的に、部屋の外からは酒場の陽気な喧騒が漏れ聞こえてくる。それが一層、場の空気を張り詰めさせる。
「次は――ここだ」
ジェイクの指先が地図の上をすべる。地図を囲むのは十名ほど。中にはハッサと、肉屋の妹ザラの顔もある。
「砂漠街道28ポイント、通称アルヴィラ砦。王都からは遠いが、砂漠地帯の主要な交易路が7つも交差する要衝だ。ここを落とす」
タン、と指先が地図の一点を叩いた。ジェイクが取り囲む面々を見回す。
「これは陽動じゃない。獲りに行くぞ」
地図を囲んだ者たちが、物々しく頷き合う。
「アルサーシャからの援軍をできる限り遅らせたい――ザラ、首尾はどうなってる?」
「ファティマが仕立ての納品がてら、市内の拠点に武器を撒いてるわ。王宮内はカスィムが手を回してる。カスィムによれば、今月か来月の十七日、でも来月は式典があるから警備が厚くなりそうだって」
「今月の十七日に決行しよう。王都から援軍が出たら――」
「わかってる。いざ軍が動いたら狼煙で知らせるわ。アルヴィラ砦なら必ず砂漠街道を通るから、門を張っていれば確実に分かるわ」
軍馬を出し抜くためには狼煙のリレーでつなぐ。これを、市中警備隊の目を盗んで行わなければならない。
「見つかるなよ」
「大丈夫。死角があるんだ」
「よし、王都は頼んだ。あとは周辺のポイントからの援軍だが――」
「17ポイントはそれでやられた。襲撃直後に、15ポイントから30騎の応援が来た」
暗闇から姿を表したのは、ぎらぎらとした眼をした男だ。日に灼けて白茶けた髪に赤いターバンを巻き、腰には戦闘民族が使う曲刀を提げている。肩口から剥き出しの腕には一面に見事な刺青が彫られ、それを隠そうともしない。
「カイヤーンか。よく来てくれた。俺がジェイクだ」
ジェイクが男の手を取って、輪の中に迎え入れた。
「話は前族長から聞いている。共に立ち上がれて嬉しく思う、ジェイク」
「前の族長殿は17ポイントで命を落としたんだったか。惜しいことをした」
「我々は命運を受け入れる。彼も悔やんではいないだろう」
カイヤーンの揺るがない言葉に、ジェイクは視線を伏せて哀悼の意を示した。
「――ときに、ユーリ・アトゥイーはここに?」
カイヤーンが室内を見回した。「ああ――、」とジェイクが奥を指した。「そこの酔っぱらいだ」
「アトゥイーは俺だが」
奥に座っていたユーリが、ゆらりと立ち上がった。片手には酒瓶を持って離さない。
「あんたがアトゥイーか。じゃあやっぱり赤の他人だったな」
ユーリは焦点の合わない眼で首を傾げた。
「いや、17ポイントで前族長を討ち取った兵士が、アトゥイーって名乗ったんだよ。尤もあっちはまだヒヨッコだったけどな」
「……聞かないな」
そう言って、ユーリはまた壁際にどっかりと座り込むと、酒を煽り始めた。ジェイクが額に手を当てて溜息をつく。
「そいつはほっといてやってくれ。今ちょっと色々あってこんなだが、戦までにはやめさせる」
「別に、酔っていようが眠っていようが、敵を倒せるなら俺は文句はない」
カイヤーンはちらりとも顔色を変えずに言った。
「しかし……アトゥイーという名は珍しいなぁ。ユーリには親族もいないはずだぜ。……若い男だったのか?」
ハッサも首を傾げる。
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