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第七章 愛執編
拷問1★
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どれだけ時間が経ったのか。
ダーナは、石壁と鉄格子に囲まれた部屋で、恐怖に震えていた。
壁には小さなランプが取り付けられ、ぼんやりと薄暗く室内を照らしている。だが、むしろ真っ暗闇のほうが救いがあったかもしれない。なぜなら闇の中から浮かび上がった壁には、用途を想像するだに身の毛もよだつような拷問器具が、所狭しと並んでいたからである。
壁の向こうからとぎれとぎれに聞こえてくるのは、哀れな虜囚の断末魔の叫び声。
王宮に隣接して建っている広大な軍部の奥には、鉄と分厚い石壁に囲まれた監獄がある。
正面にひとつだけの入り口は三重の鉄扉に守られ、高い場所にある小さな窓にはすべて鉄格子がはまっている。更に外側には高い塀がそびえ、外壁と塀の間には大型犬が常時十頭ほど放たれている。犬はよく躾けられ、看守に逆らうことは絶対にない。
内部に入ると、比較的出口に近いエリアには大部屋の房が並び、奥の細い階段を登った上層階に独房がある。そして、監獄の地下には取り調べ用の部屋――つまり、拷問室があった。
昼となく夜となく、冷たい壁を伝って哀れな囚人の叫び声がこだまする。囚人たちはたとえ自室で眠っている時でも、その悲鳴を聞かされ続け、恐怖に慄くのだ。
「……ひ……っく…………ひっ……く…………」
アルサーシャの門外で捕らえられたダーナは、もう丸二日その部屋にいた。
X字に組まれた鉄の柱に、両手両足を鎖で拘束されている。横になることも許されないまま、身につけているのは薄い下着一枚だけだ。時折訪れる看守に与えられる、ぬるい水と僅かな食料で、ようやく意識を保っていた。
階段を降りてくる足音が、ダーナを戦慄させる。降りてくる看守は、腹がよじれるような空腹を満たしてくれるのかもしれないし、いよいよあのおぞましい器具で拷問を始めるのかもしれないからだ。
「……ひっ……ひっ……ひっ……」
知らず、呼吸が速くなる。涙と鼻水がだらだらと流れ続けて、目の周りが痛痒い。
ガシャン、と錠前と閂を開ける音がして、看守が入ってきた。
「よう、起きてるか?餌の時間だぞ」
看守は感情のない顔で、まるで家畜にでも言うように言った。そして床を見て顔をしかめる。
「……おい、きったねぇな……」
そこには、縛られたままのダーナが漏らした排泄物が溜まっていた。
「てめぇ!このアマ!垂れ流してんじゃねぇよ!!」
バシャ―ッ!と、看守は脇のバケツに入った水をダーナにかけた。
「がふぁうっ!!」
用を足すことも許されずに縛られ続けているのだから、漏らすのは当然なのだが、それを訴えてもどうにもならないし、恐ろしい声で怒鳴る看守に反論する勇気などダーナは持ち合わせていなかった。
「ひぃーっ……ひぃーっ……ひぃーっ……ひぃーっ」
いきなり頭から水をかぶったショックで、ダーナはがたがたと震えた。
「今日は飯はないぜ。吐いたら汚えからな」
にんまりと看守が嗤った。
(吐く……って……?)
ダーナの疑問は、後から入ってきた覆面の大男によって、すぐに恐怖へと取って代わった。
「いやーっ!いやーっ!いやぁーーーっ!!」
ダーナは声の限りに叫んだ。
「くっくっく……いいぞ、叫べ叫べ。どんなに騒いでも、監獄では子守唄だ」
覆面の男――拷問官は、ダーナの目の前に並んでいる拷問器具を物色する。
拷問官は、まず鞭を選び取った。鞭だけでも数種類ある中から、棒の先についた荒縄に結び目がいくつも結ばれた、最も簡素なものを選び取る。拷問官はダーナを柱から外し、硬く狭い台の上にうつ伏せに縛り付けた。両腕は抱きつくように台の下で縛り、両足は揃えて台の上に縛る。そして下着に手を掛けて一気に引き裂いた。
「きゃああっ!」
「ひとおおーーーーつ」
拷問官はくぐもった不気味な声でカウントしながら、裸に剥かれたダーナの背中に鞭を打ち付ける。
「いやーっ!ああーっ!」
「ふたああーーーーつ」
バシン、バシン、と鞭が肌を叩く。
「みいいいーーーーっつ、よおおおーーーーっつ」
「痛いぃぃ!ああああ!!痛い、痛い、痛いぃぃいっ!」
「いつうううーーーーつ」
ダーナが叫ぶと、拷問官はますます力を込めて鞭打った。
丁度二十打ったところで、拷問官は鞭を置いた。
ダーナは、石壁と鉄格子に囲まれた部屋で、恐怖に震えていた。
壁には小さなランプが取り付けられ、ぼんやりと薄暗く室内を照らしている。だが、むしろ真っ暗闇のほうが救いがあったかもしれない。なぜなら闇の中から浮かび上がった壁には、用途を想像するだに身の毛もよだつような拷問器具が、所狭しと並んでいたからである。
壁の向こうからとぎれとぎれに聞こえてくるのは、哀れな虜囚の断末魔の叫び声。
王宮に隣接して建っている広大な軍部の奥には、鉄と分厚い石壁に囲まれた監獄がある。
正面にひとつだけの入り口は三重の鉄扉に守られ、高い場所にある小さな窓にはすべて鉄格子がはまっている。更に外側には高い塀がそびえ、外壁と塀の間には大型犬が常時十頭ほど放たれている。犬はよく躾けられ、看守に逆らうことは絶対にない。
内部に入ると、比較的出口に近いエリアには大部屋の房が並び、奥の細い階段を登った上層階に独房がある。そして、監獄の地下には取り調べ用の部屋――つまり、拷問室があった。
昼となく夜となく、冷たい壁を伝って哀れな囚人の叫び声がこだまする。囚人たちはたとえ自室で眠っている時でも、その悲鳴を聞かされ続け、恐怖に慄くのだ。
「……ひ……っく…………ひっ……く…………」
アルサーシャの門外で捕らえられたダーナは、もう丸二日その部屋にいた。
X字に組まれた鉄の柱に、両手両足を鎖で拘束されている。横になることも許されないまま、身につけているのは薄い下着一枚だけだ。時折訪れる看守に与えられる、ぬるい水と僅かな食料で、ようやく意識を保っていた。
階段を降りてくる足音が、ダーナを戦慄させる。降りてくる看守は、腹がよじれるような空腹を満たしてくれるのかもしれないし、いよいよあのおぞましい器具で拷問を始めるのかもしれないからだ。
「……ひっ……ひっ……ひっ……」
知らず、呼吸が速くなる。涙と鼻水がだらだらと流れ続けて、目の周りが痛痒い。
ガシャン、と錠前と閂を開ける音がして、看守が入ってきた。
「よう、起きてるか?餌の時間だぞ」
看守は感情のない顔で、まるで家畜にでも言うように言った。そして床を見て顔をしかめる。
「……おい、きったねぇな……」
そこには、縛られたままのダーナが漏らした排泄物が溜まっていた。
「てめぇ!このアマ!垂れ流してんじゃねぇよ!!」
バシャ―ッ!と、看守は脇のバケツに入った水をダーナにかけた。
「がふぁうっ!!」
用を足すことも許されずに縛られ続けているのだから、漏らすのは当然なのだが、それを訴えてもどうにもならないし、恐ろしい声で怒鳴る看守に反論する勇気などダーナは持ち合わせていなかった。
「ひぃーっ……ひぃーっ……ひぃーっ……ひぃーっ」
いきなり頭から水をかぶったショックで、ダーナはがたがたと震えた。
「今日は飯はないぜ。吐いたら汚えからな」
にんまりと看守が嗤った。
(吐く……って……?)
ダーナの疑問は、後から入ってきた覆面の大男によって、すぐに恐怖へと取って代わった。
「いやーっ!いやーっ!いやぁーーーっ!!」
ダーナは声の限りに叫んだ。
「くっくっく……いいぞ、叫べ叫べ。どんなに騒いでも、監獄では子守唄だ」
覆面の男――拷問官は、ダーナの目の前に並んでいる拷問器具を物色する。
拷問官は、まず鞭を選び取った。鞭だけでも数種類ある中から、棒の先についた荒縄に結び目がいくつも結ばれた、最も簡素なものを選び取る。拷問官はダーナを柱から外し、硬く狭い台の上にうつ伏せに縛り付けた。両腕は抱きつくように台の下で縛り、両足は揃えて台の上に縛る。そして下着に手を掛けて一気に引き裂いた。
「きゃああっ!」
「ひとおおーーーーつ」
拷問官はくぐもった不気味な声でカウントしながら、裸に剥かれたダーナの背中に鞭を打ち付ける。
「いやーっ!ああーっ!」
「ふたああーーーーつ」
バシン、バシン、と鞭が肌を叩く。
「みいいいーーーーっつ、よおおおーーーーっつ」
「痛いぃぃ!ああああ!!痛い、痛い、痛いぃぃいっ!」
「いつうううーーーーつ」
ダーナが叫ぶと、拷問官はますます力を込めて鞭打った。
丁度二十打ったところで、拷問官は鞭を置いた。
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