イシュラヴァール放浪記

道化の桃

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第九章 海賊編

番外編 夜明け☆

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「あなたがそれを言うの?マルス=ミカ・イシュラヴァール!では終わらせてみせなさいよ、すべての戦いを、あなたの力で、今すぐに!」
 美しく燃える瞳に怒りを煌めかせて、その女は言った。
 小賢しいと思った。まだ二十歳になるかならないかの小娘が、知ったふうな口をきく、と。
 対等のつもりでいる。小国だと、女だからと、舐められるまいと思う気持ちは分からなくもない。だが自分は、彼女が生まれる前から戦場で軍を指揮していたのだ。
 その口を黙らせてやろう、と、思わなかったかといえば嘘になる。つまり、取るに足らない小娘の挑発に、まんまと心を動かされてしまった。
 とにかく、気付くとマルスはルビーの唇を塞いでいた。半分冷静、半分は――気紛れだった。
 かつて年甲斐もなく溺れたあの娘と、年齢はさほど変わらない。だが、それ以外はすべてにおいて正反対の女だった。
 意思の強い瞳、自信に満ちた口調、洗練されたセンスに、優雅な身のこなし。良家に生まれ、最高の教育を受け、生まれながらに人の上に立つべき者としての使命と覚悟を備えている。そして、美しい。
 王妃としてこれほどの条件の女は滅多にいない。
 事実、彼女――スラジャ・サキルラートの父は、彼女をマルスの第一王子の花嫁に、と推挙してきた。だがそのはらうちは――。
たぬきじじいめ)
と、マルスは思う。縁談の当人である年頃の娘を、まだ壮年の王のもとへ一人で遣わせるなど、なかなかできることではない。が、それもスラジャ本人を見て納得した。これほど肚の据わった女なら、使者が千の褒め言葉を並べるよりも説得力がある。そして、是非王子に――と言いながら、あわよくばマルスの妃の座に滑り込ませようという魂胆も透けて見えた。
 マルスの正妃の座は、ヤスミン妃が亡くなってから長らく空席のままだ。スラジャの父はそこを狙っていた。最盛期からは縮小したとはいえ、姫と女官合わせれば百人を超す後宮を持つイシュラヴァール王なのだ。自慢の娘に雄としての本能を動かされないわけがない、と踏んでいた。そして一度気に入られてしまえば、仮にも一国の元首の息女である。軽々に側室にするというわけにはいかない。
 リアラベルデ共和国元首サキルラートの、そんな思惑に乗るのも癪だな、と思わなくもなかった。だが確かに彼女は魅力的だった。そして、驚くべき裏の顔を持っていたのだ。
 ――武器密輸船の女頭領、ブラッディ・ルビー。
 そんな危ない女を、十七になったばかりの王子に嫁がせるなど、王国の未来に火種を抱え込むようなものだ。とはいえ、知ってしまった以上は看過できない。しかし縁談は断って海賊として捕らえる、という正攻法は、この場合、リアラベルデ共和国と一歩間違えば開戦する事態を招きかねない。そしてリアラベルデの背後には強国シャルナク帝国が控え、一方のイシュラヴァールは内乱で手一杯だ。要するにどちらに転んでも、この女は文字通り火種そのものなのだ。では、どうするか――。
 それは計算だったのか、それともこの美しく獰猛な女に不覚にも興味を抱いてしまったことへの言い訳か。
 とにかくマルスは、ルビーの唇を塞いでいた。
「ん…………っ……」
 男慣れしているような態度の割には、拙い反応が新鮮だった。好奇心と戸惑いが綯い交ぜになっているのが、舌使いでよくわかる。ためらいがちに動くルビーの舌を絡め取り、口腔を舐め回すと、ルビーの躰がびくんと反応した。それで、マルスは確信した。ルビーこそ、この縁談に乗り気ではなかったのだ。でなければあんな嘘をつくはずがない。
(父娘して、私を利用しようなどと、小癪な)
 この生意気な娘に、どう思い知らせてやろうか。身の程というものを。
 そう思うのと同じくらい、処女はじめての女をどれだけ優しく快楽に導いてやろうか、と思ってしまう。マルスは基本的には、女性に奉仕する行為が好きだった。
 その日ルビーはひらひらとした女物の服を着ていたので、マルスは容易くルビーの肌に触れることができた。ルビーの背中は絹のようになめらかで、それはマルスに過去の女を思い出させた。苦い思い出が胸を締め付ける。それを振り払うように、腕の中のルビーの躰を撫で回した。豊かに張り詰めた乳房をやんわりと揉みしだく。
 寄りかかっている壁の向こう側に、兵士の気配がした。二人が隠れていた船はそこそこの大きさがあったが、船底部分の鉄板は錆びて、あちこちが腐食して細かい穴が空いている。その隙間から、銃を構えた兵士が見えた。船体を盾に、敵の様子を窺っているのだろう。
 乳房の先端を指先で転がしてやると、それはきゅうっと固くなった。ルビーは唇を噛み締めて、声を上げまいと耐えている。
 船のどこかに、バン、バン、と銃弾が当たった。音が鉄の船底に反響する。
「――っ、はぁ……っ」
 ルビーの閉じた睫毛が、しっとりと湿っている。まだ胸に触れているだけなのに――と、マルスは意地悪く微笑して、ルビーの両脚の間へと手を滑り込ませた。
「――――!」
 ルビーが目を見開いた。その強気な瞳が少なからず動揺していることにマルスは満足して、ルビーの陰核を見つけ出して弄んだ。
「あふ――!」
 すかさず唇を重ねて、ルビーの喘ぎ声を飲み込む。声どころか息もつかせないほど奥深く舌を挿し込みながら、指先は股の間の感じる蕾を撫で回し、擦り上げ、感じさせることに余念がない。声を封じられたルビーは激しく身悶えた。立っていることができずに、その場に倒れ込む。
 マルスはルビーの耳元に唇を寄せて囁いた。
「男を知っているというのはハッタリだな?」
 ルビーは目を見開いた。白い頬が羞恥で紅く染まっている。我に返ったルビーは、両腕を突っ張ってマルスを押しのけようとした。当然、マルスにはここで許してやろうなどというつもりは毛ほどもない。ぷっくりと腫れ上がった陰核を責め立て、快楽の奔流から逃げようとする腰を捕まえて、まだ狭すぎる秘孔に指先を挿し入れた。
「――――っ」
 ルビーがマルスにしがみついた。
 朽ちた船体に銃弾が跳ね返る音がする。あちこちから、戦う声、剣戟の音も聞こえてくる。血の臭いが、辺りに充満している。
 そこは戦場の真っ只中だった。
 武器商人の女の処女を奪うのに、これほど相応しい場所はない。
 マルスは、ルビーのそこを指で丹念にほぐした。感じる場所を指先で押すと、ルビーは躰をくねらせ、蜜を溢れさせる。いつしか抵抗はやみ、求めるように腰を擦り付けてくる。
 マルスはルビーを仰向けに寝かせると、両脚を広げ、勃ち上がった陰茎でルビーの入り口を割り開いた。
――――っ………」
 そこはあまりに狭く、マルスの先端を飲み込んだだけで張り裂けそうだった。
 余程痛いのだろう、ルビーは固く目を閉じて動かない。
「息を大きく吸って、ゆっくり吐け」
 マルスが囁くと、ルビーは素直に従った。息を吐いた瞬間、僅かに緩んだ肢体を、マルスは深々と貫いた。
 銃声が響いて、兵士の血飛沫が船内に吹き込み、マルスの銀髪とルビーの真っ白な肌を濡らした。
 ルビーは声もなく喘ぎ、一瞬四肢を強張らせ、それから弛緩した。打ち込まれた楔は想像以上に太く、躰の奥深くまで埋め込まれて、ルビーは身動きひとつできずにいた。
 マルスはルビーが飲み込んだものの大きさに慣れるまで、辛抱強く待った。それからゆっくりと動き出す。
「――っ、――――っ、……」
 マルスが動くたびに、ルビーは引き裂かれるような痛みに喘いだ。
 ルビーにきつく締め上げられて、マルスはたまらず熱い息を吐いた。このまま、欲望のままに突き上げて達してしまいたい。そんな衝動と闘いながら、ルビーの顔から苦痛が消え、官能の色が浮かぶまで、ゆっくりと腰を動かし続けた。
 やがてルビーは、痺れるような痛みの奥にまだ目覚めたばかりの快感を見つけて、小さく達した。
 マルスはそっと自身を引き抜くと、乱れた衣服を整えた。ターバンの端を引き裂いて、ルビーの肌を汚した血を拭き取り、服を着せる。
「青い服もいいが、やはり赤が似合うな。スラジャ・サキルラート」
 そう言ってマルスは薄く微笑ったが、ルビーには微笑み返す余裕などは残っていなかった。

 外に出ると、戦闘は終わっていた。
 遠く、港で喜びに湧く人々が見える。それはカナン自由民と開放された奴隷たちだった。
「スカイめ。手を抜いたな」
 マルスはその様子を眺めて呟いた。
「どうやって街を出るつもり?見つかったら捕虜にされるわ」
「私が?」
 マルスはまた微笑った。
「捕虜になど、なるわけがなかろう。ここは私の国だ」
 そう言うと、マルスはすたすたと壊れた船の間をすり抜けて、浜辺にぽつんと建った漁師小屋へと向かった。小屋から出てきた初老の男は、マルスに気付くと白い歯を見せて破顔した。
「これは――マルス様!」
「久しぶりだな、ハキム。息災だったか?」
「娘が町の職人のところに嫁に行っちまいましてね。漁師の婿取りなんて嫌だって抜かして、薄情な奴ですよ」
 王に向かって親しげに愚痴を言うハキムは、よく日に焼けて、細い体には一片の無駄もない筋肉がついている。海ではまだまだ現役なのだろう。
「昨夜は街を騒がせてしまったようだ。申し訳ない」
 そう言って、マルスは頭を下げた。
「滅相もありませんや!なあに、このでっかい港で細々と漁をしている年寄りなんか、兵隊さんがたには目に入ってもいませんよ」
「面倒ついでに、ハキム、頼みがあって来た。馬はいるか?」
「ええ、もちろんでさあ!一日もお世話を欠かしたことはありやせんよ!」
 ややあってハキムが引き出してきたのは、粗末な漁師小屋にはおよそ似つかわしくない、見事な黒鹿毛の馬だった。
 マルスはハキムに礼を言って、馬に跨った。
「さてと……一緒に来るか?スラジャ・サキルラート」
 マルスがルビーに言った。
「……えっ……?」
 マルスと共に行く。それが何を意味するのか。
 ルビーは一歩、下がった。
「……港に、わたしの船が入っている。気遣いは無用だ」
 ルビーは顔を上げて言った。それが精一杯の矜持だった。
「そうか。では父君によろしくな」
 マルスは涼やかな笑顔を向けると、颯爽と手綱をさばき、砂浜を駆け去っていった。
 ルビーは胸に苦い思いを抱きながら、その姿を見送った。
 ――父に、言えるわけがない。まんまと純潔を奪われておきながら、今この瞬間、王妃の座を蹴ったなどと。
 そしてどうやら、マルスに恋してしまったなどとは、決して。
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