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第十章 王都編
命☆
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半月に僅かに足りない上弦の月が、窓外の闇に煌々と輝いている。
焚かれた沈香の濃い香りが、絡み合う二人の熱気を包み込んで、夜の闇へと溶けていく。
ファーリアは、マルスの唇を全身に感じていた。
それはたっぷりと時間をかけて口腔内を味わった後、耳朶を喋み、鎖骨をなぞり、肩を食んだ。胸の丸みの弾力を確かめるかのように唇を這わせ、先端を舌先で転がした。
「あっ……やぁ……」
足先に口付け、膝の裏側を舐め、太腿の内側に痕がつくまで吸い付く。マルスがファーリアの躰のそこここに口づけを落とすたびに、ファーリアは甘い声を上げて身をくねらせた。
「……んっ……あぁん……」
糊の効いた真っ白な敷布に齧りついて喘ぐ。その背中の疵痕のひとつずつに、マルスは口づけした。
「あ……んっ、あっ……」
びくびくとファーリアが躰を震わせ、腰を浮かせた。
マルスはたっぷりと濡れた襞の間に、長い指を滑り込ませた。
「んん――――っ……」
散々焦らされたファーリアは、そこを触れられただけで達してしまう。まだ薬の効力は続いていた。
涙を滲ませて、速い呼吸をしているファーリアを仰向けさせ、マルスは挿入した。
ファーリアの口から、熱っぽい吐息が漏れた。
潤んだ瞳がすがるように見上げてくるのが愛おしい。小さな唇が、快楽に戸惑うように開閉するのが愛おしい。マルスの唇に淡い血の色の印をつけられていく肌が愛おしい。逃げるように引いたかと思うと、ねだるように押し付けてくる腰つきが愛おしい。愛おしい、愛おしい、ファーリアのすべてが。
生意気な理想を語り、人を殺したくないと嘆く、まだ若い心が愛おしい。国を治めるマルスの横に彼女がいて、マルスが失ってしまった理想論を提起し続けてくれる、そんな未来が、あってもいい――。
ひとときの夢に酔いながら、マルスはファーリアに包まれた。そこは温かく潤って、マルスの動きに合わせてとめどなく蜜を溢れさせている。
「――懐かしいな」
マルスはくすりと微笑した。
「初めて抱いた日も、そなたは薬に酔っていた」
「……や……っ!あぁ……!」
マルスが中で動くたびに、ファーリアは昇り詰めそうになる。全身の神経が剥き出しになったようだ。
痛いほどの快楽から開放されたくて、その一方でいつまでも味わっていたい。ファーリアは懇願するようにマルスを見上げた。
「ファーリア……」
マルスが一層奥を突き上げた。
「あぁっ!」
ファーリアの脚がマルスの腰に絡みつく。もっと深く、と求めるように。
「ファーリア、ファーリア」
マルスは奥深くを何度も突いた。ここ数ヶ月の空白を埋めるように抱いた。腕の中にファーリアを実感するたびに、抜け殻のようだった心が満たされていく。
「ファーリア」
「ああ!あ、あっ!あああ……!」
「ファーリア……」
ファーリアが達して、弛緩して、再び絶頂して、それを何度も繰り返す間、マルスは突き上げ続けた。
ファーリアが泣きながら何度目かの絶頂に気絶しかけた時、ようやくマルスは大量の精をファーリアの中に放った。
――ここは、どこだろう。
ぼんやりとファーリアはあたりを見回した。
地下牢とは違う。
マルスに抱かれてどこかへ運ばれたのを、断片的に覚えている。ファーリア、と呼び続ける声を覚えている。
充分に広い寝台には肌触りのいい夜具が備えられ、傍らの小卓には香が焚かれている。多くはない調度品は華美ではないが、北方の良質な木材を磨き込んだもので、ファーリアにもその質の高さは分かった。
一見、後宮の一室かと思うような内装だったが、石造りの壁と入り口に嵌った頑丈な扉とが、この部屋の用途を物語っていた。二箇所ある小さな窓に鉄格子はなかったが、外には月が見えた。その角度から、部屋は周囲に遮るものがないほど高所にあることがわかる。後宮にこんなに高い建物はない。
(――塔)
一度だけ、入ったことがある。マルスを狙った若い姫君を、塔に連行した。しかしあの時の部屋はもっと狭かった。
(ここは、別の塔だ)
王宮にはいくつか塔がある。それは主に王宮の防衛のための施設だが、牢獄の代用として使われることもある。ファーリアは、窓から見える月の位置から今いる場所を特定できないかと考えたが、思い当たる塔の場所とはどれも違っているように思えた。
(こんな場所が、王宮の中にあったのか)
ファーリアはマルスの腕の中にいた。幾度となく肌を重ねた懐かしい温度に、感情とは別のところで身体が安心しているのがわかる。かつてはこの腕の中に包まれているだけで、この上ない安全が保証されていた。今も、ファーリアがそう望みさえすれば、この両腕はファーリアをすべての危険から遠ざけて守ってくれるだろう。
――この腕の中にいられたら。
(だけど、もう戻れない)
ただ愛されて守られること、それがどれだけ難しいことか、ファーリアはもう知ってしまった。
「――醒めたか」
マルスがファーリアの髪を梳いた。その指が乳房を滑り降り、腹部を撫でた。そこはまだ目立たないが、マルスが知り尽くした躰からは明らかに変化していた。
マルスはファーリアの首筋に軽く口づけして、言った。
「誰の子だ?」
ファーリアはゆっくりと振り向いて、マルスの氷色の瞳を見た。
短い沈黙の後、ファーリアが口を開いた。
「ユーリの子なら、わたしを殺しますか」
恐ろしい静寂が、星の間に満ちた。
パシン、と小さな稲妻が銀髪に走り、静電気で髪が数本宙を舞った。
「――その肚から引きずり出して、あの男の目の前で串刺しにしてやろう」
マルスは凍てつく声で言った。
ファーリアは特段動揺する様子もなく、マルスの目を真っ直ぐに見つめていた。ファーリアにとって、その答えは充分に予想し得るものだった。
「では、あなたの子なら?産ませた後、わたしを殺して子供を奪う?」
マルスを真っ直ぐに見返したまま、ファーリアが静かに言った。
マルスは青白い光を放って総毛立った。
つい今しがたまで自分の腕の中にいた少女が、いつの間にか女のしたたかさを備えて、王である自分と対等に対峙していた。それを許しがたいと思うことは、そのままおのれの狭量さを認めることだった。そしてそれすらも、ファーリアは見抜いているのだ。その上で、大胆にもマルスに駆け引きを挑んできている。マルスは驚きと感慨をもって、かつて愛した女を見た。
「それともやはり、子供も殺しますか。下賤の女の肚から生まれた命など、あなたにとっては犬の仔を殺すより簡単でしょう」
「――黙れ」
ついそう言ってしまったことを、マルスは瞬時に後悔した。
感情的になった方が敗けなのだ。うっかり漏れたそのひと言で、ファーリアはマルスの本心を見抜いたに違いなかった。
だがもう止められない。
「あなたには既に多くの御子がいる。裏切り者の女の肚に宿った命を惜しむ道理などありませんね」
そう言いながらも、ファーリアは愛おしそうに自分の腹を撫でてみせた。明らかな挑発だ。
「黙れ」
「どうぞ、あと半年、誕生を待つことなどありません。ほら、その剣で」
「黙れ」
「ひと思いに、私の腹ごと突き刺せばいい――」
「黙れっ!」
マルスは手を振り上げた。
ファーリアは怯えもしなければ、瞬きすらしなかった。暴力には慣れていた。今更恐怖など感じない。
「……私の……子なら」
マルスは振り上げた手を下ろした。
いつだっただろう。ファーリアに言ったのは。
――そなた、私の子を産まぬか、と。
一度は望んだはずだった。ファーリアに溺れ、ファーリアとの子を見たいと願った。
「私の子なら――」
願いは叶ったのだ。
殺せるはずがない。
この期に及んで駆け引きなど、馬鹿馬鹿しく思えた。
「産んでくれ――ファーリア」
マルスはファーリアを抱き締めた。
「……ユーリの拷問を、やめさせてください」
ファーリアは静かに言った。
「でなければ私は、この子を殺す。――たとえこの子の髪の色が何色でも。ユーリが死んだら、わたしもそこの窓から飛び降りて、この子と一緒に死ぬ」
それは賭けだった。ここまでの挑発は、その勝算を得るためのもの。
汚い、とファーリアは思う。弱みに付け込んでいる。まだ生まれてもいない命を盾にして。
それでもファーリアはマルスと敵対する覚悟を決めていた。これでもう、二度とマルスに愛されることはないだろう。けれど、裏切り者と憎まれても売女と蔑まれても、その命を守りたい人がいる。
「……そなたは、それを言うために戻ってきたのだな……」
マルスはそっとファーリアの頬を撫でた。氷色の瞳は深い哀しみを湛えていた。
「ん……っ」
マルスがファーリアの唇を塞いだ。再び屹立したそれを、まだ火照っている秘所に充てがうと、中から先程注ぎ込んだ白濁が溢れ出てきた。マルスは構わずに挿入した。
「……あ」
ファーリアが小さく声を上げた。
その声はあまりに愛らしく、とてもたったいま一国の王相手に大胆不敵な駆け引きを持ち出した女のものとは思えなかった。奥深く繋がっている時に、戸惑うように縋るように見上げてくる表情は、以前と変わらずにマルスへの畏敬と恋情が入り混じって、まだファーリアの心が自分から離れていないとマルスに錯覚させた。
長い長い夜が更けていく。
「……赤子が生まれる日まで、処刑を待ってやろう。生まれた子が黒い髪をしていたら、処刑台の上のユーリ・アトゥイーの、目の前で殺す」
焚かれた沈香の濃い香りが、絡み合う二人の熱気を包み込んで、夜の闇へと溶けていく。
ファーリアは、マルスの唇を全身に感じていた。
それはたっぷりと時間をかけて口腔内を味わった後、耳朶を喋み、鎖骨をなぞり、肩を食んだ。胸の丸みの弾力を確かめるかのように唇を這わせ、先端を舌先で転がした。
「あっ……やぁ……」
足先に口付け、膝の裏側を舐め、太腿の内側に痕がつくまで吸い付く。マルスがファーリアの躰のそこここに口づけを落とすたびに、ファーリアは甘い声を上げて身をくねらせた。
「……んっ……あぁん……」
糊の効いた真っ白な敷布に齧りついて喘ぐ。その背中の疵痕のひとつずつに、マルスは口づけした。
「あ……んっ、あっ……」
びくびくとファーリアが躰を震わせ、腰を浮かせた。
マルスはたっぷりと濡れた襞の間に、長い指を滑り込ませた。
「んん――――っ……」
散々焦らされたファーリアは、そこを触れられただけで達してしまう。まだ薬の効力は続いていた。
涙を滲ませて、速い呼吸をしているファーリアを仰向けさせ、マルスは挿入した。
ファーリアの口から、熱っぽい吐息が漏れた。
潤んだ瞳がすがるように見上げてくるのが愛おしい。小さな唇が、快楽に戸惑うように開閉するのが愛おしい。マルスの唇に淡い血の色の印をつけられていく肌が愛おしい。逃げるように引いたかと思うと、ねだるように押し付けてくる腰つきが愛おしい。愛おしい、愛おしい、ファーリアのすべてが。
生意気な理想を語り、人を殺したくないと嘆く、まだ若い心が愛おしい。国を治めるマルスの横に彼女がいて、マルスが失ってしまった理想論を提起し続けてくれる、そんな未来が、あってもいい――。
ひとときの夢に酔いながら、マルスはファーリアに包まれた。そこは温かく潤って、マルスの動きに合わせてとめどなく蜜を溢れさせている。
「――懐かしいな」
マルスはくすりと微笑した。
「初めて抱いた日も、そなたは薬に酔っていた」
「……や……っ!あぁ……!」
マルスが中で動くたびに、ファーリアは昇り詰めそうになる。全身の神経が剥き出しになったようだ。
痛いほどの快楽から開放されたくて、その一方でいつまでも味わっていたい。ファーリアは懇願するようにマルスを見上げた。
「ファーリア……」
マルスが一層奥を突き上げた。
「あぁっ!」
ファーリアの脚がマルスの腰に絡みつく。もっと深く、と求めるように。
「ファーリア、ファーリア」
マルスは奥深くを何度も突いた。ここ数ヶ月の空白を埋めるように抱いた。腕の中にファーリアを実感するたびに、抜け殻のようだった心が満たされていく。
「ファーリア」
「ああ!あ、あっ!あああ……!」
「ファーリア……」
ファーリアが達して、弛緩して、再び絶頂して、それを何度も繰り返す間、マルスは突き上げ続けた。
ファーリアが泣きながら何度目かの絶頂に気絶しかけた時、ようやくマルスは大量の精をファーリアの中に放った。
――ここは、どこだろう。
ぼんやりとファーリアはあたりを見回した。
地下牢とは違う。
マルスに抱かれてどこかへ運ばれたのを、断片的に覚えている。ファーリア、と呼び続ける声を覚えている。
充分に広い寝台には肌触りのいい夜具が備えられ、傍らの小卓には香が焚かれている。多くはない調度品は華美ではないが、北方の良質な木材を磨き込んだもので、ファーリアにもその質の高さは分かった。
一見、後宮の一室かと思うような内装だったが、石造りの壁と入り口に嵌った頑丈な扉とが、この部屋の用途を物語っていた。二箇所ある小さな窓に鉄格子はなかったが、外には月が見えた。その角度から、部屋は周囲に遮るものがないほど高所にあることがわかる。後宮にこんなに高い建物はない。
(――塔)
一度だけ、入ったことがある。マルスを狙った若い姫君を、塔に連行した。しかしあの時の部屋はもっと狭かった。
(ここは、別の塔だ)
王宮にはいくつか塔がある。それは主に王宮の防衛のための施設だが、牢獄の代用として使われることもある。ファーリアは、窓から見える月の位置から今いる場所を特定できないかと考えたが、思い当たる塔の場所とはどれも違っているように思えた。
(こんな場所が、王宮の中にあったのか)
ファーリアはマルスの腕の中にいた。幾度となく肌を重ねた懐かしい温度に、感情とは別のところで身体が安心しているのがわかる。かつてはこの腕の中に包まれているだけで、この上ない安全が保証されていた。今も、ファーリアがそう望みさえすれば、この両腕はファーリアをすべての危険から遠ざけて守ってくれるだろう。
――この腕の中にいられたら。
(だけど、もう戻れない)
ただ愛されて守られること、それがどれだけ難しいことか、ファーリアはもう知ってしまった。
「――醒めたか」
マルスがファーリアの髪を梳いた。その指が乳房を滑り降り、腹部を撫でた。そこはまだ目立たないが、マルスが知り尽くした躰からは明らかに変化していた。
マルスはファーリアの首筋に軽く口づけして、言った。
「誰の子だ?」
ファーリアはゆっくりと振り向いて、マルスの氷色の瞳を見た。
短い沈黙の後、ファーリアが口を開いた。
「ユーリの子なら、わたしを殺しますか」
恐ろしい静寂が、星の間に満ちた。
パシン、と小さな稲妻が銀髪に走り、静電気で髪が数本宙を舞った。
「――その肚から引きずり出して、あの男の目の前で串刺しにしてやろう」
マルスは凍てつく声で言った。
ファーリアは特段動揺する様子もなく、マルスの目を真っ直ぐに見つめていた。ファーリアにとって、その答えは充分に予想し得るものだった。
「では、あなたの子なら?産ませた後、わたしを殺して子供を奪う?」
マルスを真っ直ぐに見返したまま、ファーリアが静かに言った。
マルスは青白い光を放って総毛立った。
つい今しがたまで自分の腕の中にいた少女が、いつの間にか女のしたたかさを備えて、王である自分と対等に対峙していた。それを許しがたいと思うことは、そのままおのれの狭量さを認めることだった。そしてそれすらも、ファーリアは見抜いているのだ。その上で、大胆にもマルスに駆け引きを挑んできている。マルスは驚きと感慨をもって、かつて愛した女を見た。
「それともやはり、子供も殺しますか。下賤の女の肚から生まれた命など、あなたにとっては犬の仔を殺すより簡単でしょう」
「――黙れ」
ついそう言ってしまったことを、マルスは瞬時に後悔した。
感情的になった方が敗けなのだ。うっかり漏れたそのひと言で、ファーリアはマルスの本心を見抜いたに違いなかった。
だがもう止められない。
「あなたには既に多くの御子がいる。裏切り者の女の肚に宿った命を惜しむ道理などありませんね」
そう言いながらも、ファーリアは愛おしそうに自分の腹を撫でてみせた。明らかな挑発だ。
「黙れ」
「どうぞ、あと半年、誕生を待つことなどありません。ほら、その剣で」
「黙れ」
「ひと思いに、私の腹ごと突き刺せばいい――」
「黙れっ!」
マルスは手を振り上げた。
ファーリアは怯えもしなければ、瞬きすらしなかった。暴力には慣れていた。今更恐怖など感じない。
「……私の……子なら」
マルスは振り上げた手を下ろした。
いつだっただろう。ファーリアに言ったのは。
――そなた、私の子を産まぬか、と。
一度は望んだはずだった。ファーリアに溺れ、ファーリアとの子を見たいと願った。
「私の子なら――」
願いは叶ったのだ。
殺せるはずがない。
この期に及んで駆け引きなど、馬鹿馬鹿しく思えた。
「産んでくれ――ファーリア」
マルスはファーリアを抱き締めた。
「……ユーリの拷問を、やめさせてください」
ファーリアは静かに言った。
「でなければ私は、この子を殺す。――たとえこの子の髪の色が何色でも。ユーリが死んだら、わたしもそこの窓から飛び降りて、この子と一緒に死ぬ」
それは賭けだった。ここまでの挑発は、その勝算を得るためのもの。
汚い、とファーリアは思う。弱みに付け込んでいる。まだ生まれてもいない命を盾にして。
それでもファーリアはマルスと敵対する覚悟を決めていた。これでもう、二度とマルスに愛されることはないだろう。けれど、裏切り者と憎まれても売女と蔑まれても、その命を守りたい人がいる。
「……そなたは、それを言うために戻ってきたのだな……」
マルスはそっとファーリアの頬を撫でた。氷色の瞳は深い哀しみを湛えていた。
「ん……っ」
マルスがファーリアの唇を塞いだ。再び屹立したそれを、まだ火照っている秘所に充てがうと、中から先程注ぎ込んだ白濁が溢れ出てきた。マルスは構わずに挿入した。
「……あ」
ファーリアが小さく声を上げた。
その声はあまりに愛らしく、とてもたったいま一国の王相手に大胆不敵な駆け引きを持ち出した女のものとは思えなかった。奥深く繋がっている時に、戸惑うように縋るように見上げてくる表情は、以前と変わらずにマルスへの畏敬と恋情が入り混じって、まだファーリアの心が自分から離れていないとマルスに錯覚させた。
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