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第十章 王都編
親友
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久しぶりに見るアルヴィラ砦は本格的な要塞の外観を呈していた。聳え立つ堅牢な外壁の天辺は、黒々とした鉄の棘が外側に向かって牙を剥いている。ずらりと並んだ銃眼には機関銃が設置され、更にその三倍の数の弓兵が常備されている。その様は禍々しいまでに、侵入者への殺意に満ちていた。
砂漠の彼方から、たった一騎で砦を訪れたユーリを、門番たちは最初警戒した。が、兵の一人がユーリの顔を知っていた。
「砂漠の黒鷹だ――!」
ざわめきが起こり、すぐに門が開かれた。集まった人々がユーリの名を囁き交わす中、ユーリは無言で馬を進めた。
ジェイクは市街を見下ろすいつもの司令部にいた。
「よう、ユーリ」
ジェイクは手にしたグラスを掲げた。砂漠では滅多に見かけない、貴族の家にでもあるような見事なガラス細工だ。以前と変わらないように見えて、司令部のあちこちには豪奢な調度品が置かれ、剥き出しだった石造りの床には見事な柄が織り込まれたアルナハブ製の絨毯が敷かれている。
「ジェイク」
「飲むだろう?いいワインだぞ」
ジェイクは返事を聞かずに新しいグラスにワインを注ぎ、ユーリに差し出した。ユーリはそれには目もくれず、ジェイクの正面に立った。
「ジェイク」
ユーリはもう一度、友の名を呼んだ。後に続ける言葉に迷う。訊きたいことはたくさんあった。だが悲しいことに、ユーリにはジェイクの答えがおおよそ予測できたし、その答えをユーリは聞きたくなかった。
ジェイクは頭を軽くひと振りして、勧めたグラスを卓に置いた。
「状況はカイヤーンから聞いていたよ。無事、あの女も連れ出せたらしいじゃないか。良かったな」
「……ああ」
「カスィムの家の下男がうまく立ち回ってくれて助かったよ。大変だったんだぞ?レーのカナンの連中まで抱き込んで」
「……それで?王都の民衆と王国議会も、お前が操ったのか」
「操った……とはまた、含みのある表現だな。結果、砂漠の黒鷹奪還作戦は成功した。お前の女も取り戻せた。何か不満か?」
ジェイクは両手を広げてみせた。その仕草がわざとらしく、ユーリは小さな苛立ちを覚えた。
「やりすぎだ……!一体何のために?俺の脱獄のためだけに、国王を追放して、王都を混乱させたわけではないだろう」
「そうだと言ったら?」
ジェイクが肩をすくめる。その両眼はユーリの眼を見ているようで、どこか虚ろだ。
「国王はお前の恋敵だろう。奴が失脚して、願ったりじゃないか」
「俺はそんなことを願ったことはない!」
ユーリはとうとう声を荒げた。会話が本質を上滑りしていく。こんな話をしにきたわけじゃない。
「王都からは何千人も難民が流出している。俺は、この王国を奪おうとか、民衆を苦しめようとか、そういうことを願ったわけじゃない」
「じゃあ一体お前は何を願ったというんだ!?お前が戦って殺した敵の家族は、お前の言う民衆と何が違う?いつもいつも自分は関係がないような顔で!決めるのはいつも俺だ。お前が女に逃げられて呆けてる間もな。俺が計画し、俺が人を集め、俺が戦略を立てて。敗けたら全部、俺の責任だ!」
ジェイクはユーリの胸に人差し指を突き立てて言いつのった。それからふと声を和らげた。
「……お前は戦っているだけでいい、勝っても敗けても。お前を責める者はいない。そういう役回りに、俺が仕立て上げたんだからな」
猫撫で声でそう言って、ジェイクはユーリの頬に手を当てた。ユーリはぞくりとした。こいつは、友だと思っていたこの男は、自分のことをずっとそういう目で見ていたのか。腹の奥がかあっと熱くなる。
「砂漠の黒鷹は、我が軍最強の戦士だ。何を犠牲にしても、お前を失うことはできない。お前が処刑されたら、俺にとっては戦いに負けたも同然だった。お前に死なれては困るのだ。だから助けた。何か問題でも?」
「……我が軍?」
ユーリは唇の端を歪めた。
「お前の軍隊か、ジェイク。お前が王か?」
「では誰が統べるのだ?この膨れ上がったアルヴィラ軍を!軍だけじゃない。見ろ、この街を。砂漠の民が、今も続々とアルヴィラを目指してやってくる。その人々を、彼らの希望を、誰が引き受ける?」
ジェイクが広げた手の先に広がるアルヴィラ市街。そこには外壁を越えて、遊牧民のテントがどこまでも連なっている。兵士だけではない、女も子供も年寄りもいた。これまで砂漠で細々と生きてきた部族が、一縷の希望を胸にアルヴィラへと集まってきていた。
「遊牧民の自治区なんてのは幻想だ……そんなものを、王家が許容するはずがない。だから王の首をすげ替えた」
「わざわざ幼い王子を傀儡に立ててか。それがお前の正義か」
「幼いというほどでもあるまい。――正義など」
ジェイクはクッと短い笑いを漏らした。自嘲するように。
「正義など――重要なのは目的を果たすことだ。流れた血を無駄にせず、これまで積み上げてきたものを完成させる――」
そう言ったジェイクの眼からも口元からも、もう笑みは消えていた。
反射的にユーリが片脚を引いて剣の柄に手を掛けたのと、ジェイクが拳銃を抜いたのが、ほぼ同時。
「遅い」
ジェイクは銃口をユーリの額に向けて言った。
「……目的とは何だ」
ユーリが言った。
「お前は知らなくて良いんだよ。俺のために戦ってくれれば」
ジェイクはどこか哀しげに微笑った。
ガチ、とジェイクが撃鉄を起こした。瞬間、ユーリが横に跳んだ。
パァン――
アルヴィラ砦に、銃声が響いた。
夜の砂漠に、累々と折り重なる死体。
悪夢のような光景。
子供の自分が悔しかった。弱さが恨めしかった。
いつかきっと、勝ってやる。誰にも負けない力をつけて、戦ってやる――。
そう誓った、あの夜。すぐ隣に感じた息遣い。
あれからずっと、親友だった。
ユーリの頬をひとすじの血が伝った。
ユーリはジェイクに剣を突きつけていた。ジェイクの銃口はユーリの動きに追いついていない。
「ジェイク、王都から手を引こう……今ならまだ、間に合う」
ユーリは願いをこめて言った。今ならまだ戻れる。きっと。
「国王は逃げ延びた。このままでは内乱になる。そうなる前に」
これ以上、血が流れる前に。果てしなく戦が続く、恐ろしい未来を背負う前に。
「アルサーシャから撤退して、王都十万の民を家に帰そう。俺たちに国は背負えないよ、ジェイク」
ユーリはジェイクの叔父が言った言葉を思い出していた。あの夜。ユーリの部族が惨殺された夜。
――君がやるべきことは無謀な戦いを挑むことじゃない……君は未来を託されたんだ。
ユーリたちが託された未来は、部族の仇を取り、無念を晴らすことなのか。それとも――。
(ファーリア……ヌール……)
岩屋の灯りが無性に懐かしかった。あそこへ還りたい、とユーリは思った。この剣を下ろして、愛する者の待つ場所へ、今すぐにでも駆けていきたい。戦いをやめて、塩を売って、子供を育てて――。そんな未来を紡ぐ場所へ。
「ジェイク、砂漠へ帰ろう……俺は……俺はもう、戦いに疲れた」
ふっ、とジェイクが笑みを漏らした。
「お前って奴は――誰よりも腕が立つくせに、どこまでも甘い」
「……ジェイク、俺はお前を斬りたくない……!」
「だろうな。なあユーリ、諦めろよ。俺たちはとっくに、戻れないところまで来ているんだぜ……?」
「嫌だ」
――誰かを殺せば平和になるなんて、おかしい――。
ユーリの頭の中でファーリアの声がした。
(俺は何故、今までジェイクに向き合ってこなかったのだろう。こんなになるまで)
それは違う。おかしい。間違っている。そう、きちんと言わなければならなかった。話し合い、共に考えるべきだった。
もう遅いのだろうか。
「ジェイク、俺は……!」
パァン――と、再び銃声が鳴った。
「そこまでだ」
ユーリの背後で、底冷えのするような声がした。
「何をちんたらやってるんだ、ジェイク」
(この、声――どこかで)
ユーリはゆっくりと振り向いた。
銃を構えて入り口に立っていたのは、真紅のマントに碧眼の。
「アトラス」
ジェイクが彼の名を呼んだ。
「ア……トラス……?」
ユーリは繰り返した。
「新王の摂政だ」
ジェイクが言った。
「よう。また会ったな」
碧眼の男が、にやりと嗤った。
*****
「ユーリが帰ってきたって!?」
用事で街に出ていたハッサは、砦の門番に話を聞いて、笑顔を押さえきれないまま前庭を小走りに抜けた。
大きな怪我もなく元気だ、という知らせはカイヤーンから聞いていたが、長く囚われていた友人の無事を早くその目で確かめたかった。
だが、ハッサが建物の入口に辿り着く前に、遥か上から何かが破裂したような音が降ってきた。
ハッサは空を見上げた。青空に午後の太陽が白く発光している。
続いてまた、音が鳴った。
銃声だった。
*****
パァン、パァン、パァン――
床を転がるように逃れるユーリに、立て続けに銃弾が浴びせられた。
「くっ……」
銃を構えたジェイクとアトラスに追い詰められるように、ユーリはテラスに出た。肩や脚などに被弾したらしく、焼けるように痛い。ユーリは分厚い石壁の手すりにしがみつくようにして立ち上がった。砂混じりの乾いた風が吹いてきて、青い空へと抜けていく。
混乱する思考の中で、パズルのピースがはまっていく。突如現れた謎の男。傀儡の新王。ジャヤトリアの碧眼の男。頭のおかしい辺境伯。国王の横暴で追放された――。
(違う。王は知っていたんだ。辺境伯がファーリアを嬲っていたことを)
そして目の前の碧眼の男も、ファーリアを犯した。
「貴様――!」
ユーリの全身を殺意が包んだ。
アトラスはユーリに銃口を向けて言った。
「言ったはずだぜ。次に会ったら殺すってな」
パァン――――――
ユーリのからだが大きく仰け反って、手すりを越え、落ちた。
砂漠の彼方から、たった一騎で砦を訪れたユーリを、門番たちは最初警戒した。が、兵の一人がユーリの顔を知っていた。
「砂漠の黒鷹だ――!」
ざわめきが起こり、すぐに門が開かれた。集まった人々がユーリの名を囁き交わす中、ユーリは無言で馬を進めた。
ジェイクは市街を見下ろすいつもの司令部にいた。
「よう、ユーリ」
ジェイクは手にしたグラスを掲げた。砂漠では滅多に見かけない、貴族の家にでもあるような見事なガラス細工だ。以前と変わらないように見えて、司令部のあちこちには豪奢な調度品が置かれ、剥き出しだった石造りの床には見事な柄が織り込まれたアルナハブ製の絨毯が敷かれている。
「ジェイク」
「飲むだろう?いいワインだぞ」
ジェイクは返事を聞かずに新しいグラスにワインを注ぎ、ユーリに差し出した。ユーリはそれには目もくれず、ジェイクの正面に立った。
「ジェイク」
ユーリはもう一度、友の名を呼んだ。後に続ける言葉に迷う。訊きたいことはたくさんあった。だが悲しいことに、ユーリにはジェイクの答えがおおよそ予測できたし、その答えをユーリは聞きたくなかった。
ジェイクは頭を軽くひと振りして、勧めたグラスを卓に置いた。
「状況はカイヤーンから聞いていたよ。無事、あの女も連れ出せたらしいじゃないか。良かったな」
「……ああ」
「カスィムの家の下男がうまく立ち回ってくれて助かったよ。大変だったんだぞ?レーのカナンの連中まで抱き込んで」
「……それで?王都の民衆と王国議会も、お前が操ったのか」
「操った……とはまた、含みのある表現だな。結果、砂漠の黒鷹奪還作戦は成功した。お前の女も取り戻せた。何か不満か?」
ジェイクは両手を広げてみせた。その仕草がわざとらしく、ユーリは小さな苛立ちを覚えた。
「やりすぎだ……!一体何のために?俺の脱獄のためだけに、国王を追放して、王都を混乱させたわけではないだろう」
「そうだと言ったら?」
ジェイクが肩をすくめる。その両眼はユーリの眼を見ているようで、どこか虚ろだ。
「国王はお前の恋敵だろう。奴が失脚して、願ったりじゃないか」
「俺はそんなことを願ったことはない!」
ユーリはとうとう声を荒げた。会話が本質を上滑りしていく。こんな話をしにきたわけじゃない。
「王都からは何千人も難民が流出している。俺は、この王国を奪おうとか、民衆を苦しめようとか、そういうことを願ったわけじゃない」
「じゃあ一体お前は何を願ったというんだ!?お前が戦って殺した敵の家族は、お前の言う民衆と何が違う?いつもいつも自分は関係がないような顔で!決めるのはいつも俺だ。お前が女に逃げられて呆けてる間もな。俺が計画し、俺が人を集め、俺が戦略を立てて。敗けたら全部、俺の責任だ!」
ジェイクはユーリの胸に人差し指を突き立てて言いつのった。それからふと声を和らげた。
「……お前は戦っているだけでいい、勝っても敗けても。お前を責める者はいない。そういう役回りに、俺が仕立て上げたんだからな」
猫撫で声でそう言って、ジェイクはユーリの頬に手を当てた。ユーリはぞくりとした。こいつは、友だと思っていたこの男は、自分のことをずっとそういう目で見ていたのか。腹の奥がかあっと熱くなる。
「砂漠の黒鷹は、我が軍最強の戦士だ。何を犠牲にしても、お前を失うことはできない。お前が処刑されたら、俺にとっては戦いに負けたも同然だった。お前に死なれては困るのだ。だから助けた。何か問題でも?」
「……我が軍?」
ユーリは唇の端を歪めた。
「お前の軍隊か、ジェイク。お前が王か?」
「では誰が統べるのだ?この膨れ上がったアルヴィラ軍を!軍だけじゃない。見ろ、この街を。砂漠の民が、今も続々とアルヴィラを目指してやってくる。その人々を、彼らの希望を、誰が引き受ける?」
ジェイクが広げた手の先に広がるアルヴィラ市街。そこには外壁を越えて、遊牧民のテントがどこまでも連なっている。兵士だけではない、女も子供も年寄りもいた。これまで砂漠で細々と生きてきた部族が、一縷の希望を胸にアルヴィラへと集まってきていた。
「遊牧民の自治区なんてのは幻想だ……そんなものを、王家が許容するはずがない。だから王の首をすげ替えた」
「わざわざ幼い王子を傀儡に立ててか。それがお前の正義か」
「幼いというほどでもあるまい。――正義など」
ジェイクはクッと短い笑いを漏らした。自嘲するように。
「正義など――重要なのは目的を果たすことだ。流れた血を無駄にせず、これまで積み上げてきたものを完成させる――」
そう言ったジェイクの眼からも口元からも、もう笑みは消えていた。
反射的にユーリが片脚を引いて剣の柄に手を掛けたのと、ジェイクが拳銃を抜いたのが、ほぼ同時。
「遅い」
ジェイクは銃口をユーリの額に向けて言った。
「……目的とは何だ」
ユーリが言った。
「お前は知らなくて良いんだよ。俺のために戦ってくれれば」
ジェイクはどこか哀しげに微笑った。
ガチ、とジェイクが撃鉄を起こした。瞬間、ユーリが横に跳んだ。
パァン――
アルヴィラ砦に、銃声が響いた。
夜の砂漠に、累々と折り重なる死体。
悪夢のような光景。
子供の自分が悔しかった。弱さが恨めしかった。
いつかきっと、勝ってやる。誰にも負けない力をつけて、戦ってやる――。
そう誓った、あの夜。すぐ隣に感じた息遣い。
あれからずっと、親友だった。
ユーリの頬をひとすじの血が伝った。
ユーリはジェイクに剣を突きつけていた。ジェイクの銃口はユーリの動きに追いついていない。
「ジェイク、王都から手を引こう……今ならまだ、間に合う」
ユーリは願いをこめて言った。今ならまだ戻れる。きっと。
「国王は逃げ延びた。このままでは内乱になる。そうなる前に」
これ以上、血が流れる前に。果てしなく戦が続く、恐ろしい未来を背負う前に。
「アルサーシャから撤退して、王都十万の民を家に帰そう。俺たちに国は背負えないよ、ジェイク」
ユーリはジェイクの叔父が言った言葉を思い出していた。あの夜。ユーリの部族が惨殺された夜。
――君がやるべきことは無謀な戦いを挑むことじゃない……君は未来を託されたんだ。
ユーリたちが託された未来は、部族の仇を取り、無念を晴らすことなのか。それとも――。
(ファーリア……ヌール……)
岩屋の灯りが無性に懐かしかった。あそこへ還りたい、とユーリは思った。この剣を下ろして、愛する者の待つ場所へ、今すぐにでも駆けていきたい。戦いをやめて、塩を売って、子供を育てて――。そんな未来を紡ぐ場所へ。
「ジェイク、砂漠へ帰ろう……俺は……俺はもう、戦いに疲れた」
ふっ、とジェイクが笑みを漏らした。
「お前って奴は――誰よりも腕が立つくせに、どこまでも甘い」
「……ジェイク、俺はお前を斬りたくない……!」
「だろうな。なあユーリ、諦めろよ。俺たちはとっくに、戻れないところまで来ているんだぜ……?」
「嫌だ」
――誰かを殺せば平和になるなんて、おかしい――。
ユーリの頭の中でファーリアの声がした。
(俺は何故、今までジェイクに向き合ってこなかったのだろう。こんなになるまで)
それは違う。おかしい。間違っている。そう、きちんと言わなければならなかった。話し合い、共に考えるべきだった。
もう遅いのだろうか。
「ジェイク、俺は……!」
パァン――と、再び銃声が鳴った。
「そこまでだ」
ユーリの背後で、底冷えのするような声がした。
「何をちんたらやってるんだ、ジェイク」
(この、声――どこかで)
ユーリはゆっくりと振り向いた。
銃を構えて入り口に立っていたのは、真紅のマントに碧眼の。
「アトラス」
ジェイクが彼の名を呼んだ。
「ア……トラス……?」
ユーリは繰り返した。
「新王の摂政だ」
ジェイクが言った。
「よう。また会ったな」
碧眼の男が、にやりと嗤った。
*****
「ユーリが帰ってきたって!?」
用事で街に出ていたハッサは、砦の門番に話を聞いて、笑顔を押さえきれないまま前庭を小走りに抜けた。
大きな怪我もなく元気だ、という知らせはカイヤーンから聞いていたが、長く囚われていた友人の無事を早くその目で確かめたかった。
だが、ハッサが建物の入口に辿り着く前に、遥か上から何かが破裂したような音が降ってきた。
ハッサは空を見上げた。青空に午後の太陽が白く発光している。
続いてまた、音が鳴った。
銃声だった。
*****
パァン、パァン、パァン――
床を転がるように逃れるユーリに、立て続けに銃弾が浴びせられた。
「くっ……」
銃を構えたジェイクとアトラスに追い詰められるように、ユーリはテラスに出た。肩や脚などに被弾したらしく、焼けるように痛い。ユーリは分厚い石壁の手すりにしがみつくようにして立ち上がった。砂混じりの乾いた風が吹いてきて、青い空へと抜けていく。
混乱する思考の中で、パズルのピースがはまっていく。突如現れた謎の男。傀儡の新王。ジャヤトリアの碧眼の男。頭のおかしい辺境伯。国王の横暴で追放された――。
(違う。王は知っていたんだ。辺境伯がファーリアを嬲っていたことを)
そして目の前の碧眼の男も、ファーリアを犯した。
「貴様――!」
ユーリの全身を殺意が包んだ。
アトラスはユーリに銃口を向けて言った。
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