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前編
陰壁と鏡月
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全く気が付かなかった。気配が感じられなかったのだ。驚いていると、気付かれたことに気が付いた本人が自己紹介をしてくれた。
「ごめん。楽しそうだったものだから、割り込んでいいのか分からなくて……」
「始めまして。私は幻映、陰壁の者だよ」
どことなく鏡月と似ている雰囲気の幻映は、人当たりよく微笑む。
「これはこれは、気付けなくて申し訳ございません。私は白刃と申します」
白刃がさっと態度を切り替えて応じると、足元で鏡月が首をかしげながらぽつりと呟いた。
「げんえーおじちゃん?」
その声を聞くと、幻映はしゃがんで視線を合わせて微笑む。
「あぁ、そうだよ」
「おじちゃん、なんかちがう?」
鏡月が首をかしげていた原因はそこにあるようだ。十二年前の叔父はそりゃ今より大分若いだろう。なんか違うと思うのも無理はないが、本人彼すれば老いを突き付けられているようでグサッとくる。
身内か。道理で雰囲気が似ている訳だと納得する。
「それは……私も年を取ってしまったモノで、あぁいや、分からないか」
「そっか、おじちゃんはおじちゃんだね。ぼくね、こわい人においかけられていたんだけどね、このおにいちゃんたちがたすけてくれたの」
「そっか、助かって良かったよ」
「うん! だけどね、そのときパパとね、はぐれちゃったの。さきにおうちかえってる?」
鏡月の何気ない問いかけに、幻映は固まった。純粋な瞳で答えを待っている鏡月から視線を逸らす。
「花水兄さんは……その、うん。パパはね、ちょっとお仕事で遠くに出かけてて、帰って来るのは遅くなっちゃいそうなんだ」
「そうなの? いつかえってくる?」
「そうだな、いい子で待っていたら直ぐに帰って来るよ」
「うん……ぼく、いい子でまってる。そのあいだ、おじちゃんともあそんであげるね。ぼくね、このまえパパにおよぐのおしえてもらったの。れんしゅうして、かえってきたパパにみせたいな。あと、ママとじーちゃんにも!」
子が無邪気に笑い、その事を語るたびに、後悔の苦しさがこみ上げてくる。
十二年前の彼は、未来の現状など分からない。だからこそ、平然と本来あるべきだった将来を思い浮かべている。
「うん、そうだね。兄さんも、きっと喜ぶよ」
幻映の表情は、子の前で涙を見せまいとしているような物だった。その変化に鏡月も気が付き、心配そうに手を伸ばした。
「……? おじちゃん、どこかいたいの?」
「……ごめん、鏡月」
そう言うとすぐに、力を込めた手を突き付けて幼児化原因を取り出す。白刃の中から出て来た蛇より一回りほど大きいそれは、抵抗するように手の中で暴れたが、それも虚しく握りつぶされ消えた。
事を済ますと、さっさと帰って行こうとする。
「折角来たのだ、そんな直ぐに帰らずとも良いだろう」
「大将さん、いつの間に……」
大将がこちらに現れたのは、つい先程。幻映が蛇を取り出した時だった。幻映が気付いていなかった様子で、驚いている。
「私の気配に気付けないとは、お前もまだまだだな。お前の父は私の気配は重苦しくてよく分かるなどと抜かしていたのだぞ」
ちょっとした小言を言ってみてから、大将は幻映に告げる。
「幻映。下衆共から大切な者を護れなかったのは私も一緒だ。しかし、師匠の呼び名を持ったからには、過去の失敗をいつまでも悔やむな。そんなでは陰に潜む事は出来ぬぞ」
「……すみません」
「謝るな、私は説教をしている訳ではない、同じ師としての助言だ。お前はまだ若い、出来ない事の方が多いだろう」
その後に、「説教くさくなってしまうのは、老人の悪い癖だ」とぼやく。堅壁の師匠となって数十年、年々言動が老人そのものになってきているのは否めない事だ。
しかし、まだ若いと言われるのも違和感がある幻映。
「あの。私、一応、今年で三十四なんですけど……」
「私の半分以下ではないか」
そう言われればそうだ。若造扱いも文句は言えない。そして、尖岩が年齢については一つ言っておきたい事があった。
「どうでもいいけど、俺六百歳だぜ」
自慢なのか何なのかは自分でも分からないが、自然と出て来たのだからおそらく自慢だ。
「普通の人間とそこ張り合うなよ」
山砕が呆れ半分で言うと、本気で驚いた顔をした幻映の顔が目に入る。
山砕は多少世間から離れた所で暮らしてはいたが、それでも近くにいたため、このチビ助がどのようなイメージをされていたかは知っている。
大悪党、その三文字だけで皆が思い浮かべたのは、厳つい大男か如何にもヤクザのような男、もしくは案外見た目は普通の男なのではないか等々。誰もこんなただの子どものようにしか見えないチビだとは考えてもいなかった。
そう同じくチビである山砕が思い出して笑いそうになっていると、幻映は尖岩の言葉を疑っているのか、大将に尋ねる。
「大将さん、あの子は、その、十五歳くらいに見えるのですが……」
「あぁ、信じがたい事だが、あれがかつて世間を騒がせた大悪党の尖岩だ」
「そ、そうなんですか……?」
まさかあの大悪党がこんな子どもみたいな奴なのかと、顔を見ればそう書いてあるも同然だった。
「なぁなぁ、ちょくちょく思うけど、お前等俺の事誇張表現しすぎじゃね?」
そりゃよろしくない謂れをするのは分かるが、大悪党は言い過ぎだと思う。誇張表現だ。そう主張する尖岩に、山砕が話す。
「それほどお前が派手にやらかしたんだろ。あん時すごかったもんなぁ、俺の家にも助け求めに来た人間いたわ、まぁ結局魔の者に食われてたけど」
当時の話だ。突然訪ねて来た人がいるから何事かと思って出てみたら、初手「助けてください!」と懇願された。一体何が何だか分からずに直ぐ対応が出来ないでいると、来客は背後から追ってきていた魔の者に殺された。ありゃ惨かったさ、まぁ寝て忘れたくらいの出来事なのだが。
「いや、助けてやれよ」
「突撃訪問で助け求められてもどうすりゃいいのか分からないんだよ」
尖岩はそれもそうかと呟き、じっと観察されているのが気まずくなってさりげなく白刃の後ろに隠れる。
デカい背丈は視線から逃げるのには丁度いい。ほんと、大きいなぁ。可笑しいな、自分も小さい頃の生活は規則正しくしていたし、栄養バランスもきちんとしていたはずだ。あれ、可笑しいなぁ、なんで身長伸びなかったのだろうか。
そんな愚痴を心の中で呟いていると、途端に鏡月の姿が戻り、普通に朝の起床と同じように起き上がった。
「……? ん?」
状況が掴めないようだ。白刃の時と同じなら、記憶は森の中を歩いていたところで途切れているのだろう、そこから知らない屋敷の屋内にいるのだから、そりゃ理解できるわけがない。
知って居る顔ぶれが並んでいて安心すると、その中に見た事あるような、記憶に少しだけ残っている人を見つけ、誰かを必死に思い出そうとする。そして、ピンときた。
「……もしかして、叔父さん?」
「あ。うん、そうだよ」
「あぁ、やっぱそうか。見た事あると思ったんだ」
「そっか。覚えてくれていたのなら、何よりだよ」
誰でも分かる、この、気まずい感じ。久しぶりに顔を合わせる親戚との距離感の掴み方は、確かに分からないものだ。
一通り話すと、すすーっと白刃の横に移動して、そこに落ち着いた。そして幻映もやはり気まずいようで、こちらもさりげなく帰ろうとしたが、勿論大将に物理的に止められる。
「こんな場所で見つかってから気配を消しても意味なかろうが」
「ですよね」
気配を消して逃げる事はこの場においては不可能だ。大人しく座っている事にした。と言っても、顔も合わせたしもう帰らせてくれないかなーと、口にはしないがそう切に思っている。
幻映がそんな事を考えているのは大将もなんとなく分かっているが、それには触れずに改めて弟子に話す。
「ところで白刃、その者達の相手には困っていないか。本人の前で言うのも何ではあるが、その者達の扱いは難しいであろう」
「そうですね」
白刃はちらりと尖岩に目をやってから、顔はそのままで答えた。
「えぇ、問題はありません。意外といい子ですよ、言う事も聞いてくれますし」
お前が聞かせているんだろうと、尖岩は心の中で言ってみる。意外といい子って、こっちはお前より年上だと。しかし、口にはしない。後が怖いから。ただでさえ今日は酷く遊ばれる気配があると言うのに、油は火に注ぐものではない。
覇白も山砕も同じ判断をしたようで、何も言わずにいると、大将が重々しく頷く。
「そうか。では、これは必要ないか。一応用意したのだが」
「首輪ですか?」
出されたのは、白い皮の上質な首輪。その瞬間、それはあかんと三人が同時に思った。
弟子が弟子なら師匠も師匠だと言うのか。堅壁のお家の者はいつそんなサディスティックな思考の屋敷になったのだ。
「駄犬は徹底的に躾けるのが堅壁のやり方だ。相手が人であれ何であれ、性根がねじ曲がっておるのなら叩きのめすのみ」
「それは心得ております」
「よい。見た所、鏡月は純な少年に戻ったそうであるし、他の者もこれが必要な程のようには思えないが、どうする?」
訊くな訊くなと、尖岩達が声にせずに心の中で訴える。結果は目に見えているだろう、火を見るよりも明らかにも程がある。それはもう、火は確定時効で。
「そうですねぇ、一応貰っておきましょうかね。使う事はないでしょうけど」
尖岩達からすれば、建前に隠れた本音が隠れていない。どんなに装った所で、知っている者は分かるのだ。
「そうか。あまりやり過ぎるなよ」
「えぇ」
あぁやってしまった。
どうする? 今夜は逃げる? いやだけどそしたら逆に酷くなるだけだぞ。三人が目でそう会話していると、意味を知らない鏡月が白刃に尋ねる。
「白刃さん、それって何に使うんですか?」
「大丈夫ですよ。貴方はいい子なので、使う事はないでしょう。しかしまぁ、望むのであれば喜んで致しますよ」
「何のことかは分かりませんが、何かするときは私も仲間に入れてください。一緒が良いです」
純粋な感情でそうお願いしている。皆で遊ぶなら自分も混ざりたい、鏡月からすれば単純な話だ。
「ごめん。楽しそうだったものだから、割り込んでいいのか分からなくて……」
「始めまして。私は幻映、陰壁の者だよ」
どことなく鏡月と似ている雰囲気の幻映は、人当たりよく微笑む。
「これはこれは、気付けなくて申し訳ございません。私は白刃と申します」
白刃がさっと態度を切り替えて応じると、足元で鏡月が首をかしげながらぽつりと呟いた。
「げんえーおじちゃん?」
その声を聞くと、幻映はしゃがんで視線を合わせて微笑む。
「あぁ、そうだよ」
「おじちゃん、なんかちがう?」
鏡月が首をかしげていた原因はそこにあるようだ。十二年前の叔父はそりゃ今より大分若いだろう。なんか違うと思うのも無理はないが、本人彼すれば老いを突き付けられているようでグサッとくる。
身内か。道理で雰囲気が似ている訳だと納得する。
「それは……私も年を取ってしまったモノで、あぁいや、分からないか」
「そっか、おじちゃんはおじちゃんだね。ぼくね、こわい人においかけられていたんだけどね、このおにいちゃんたちがたすけてくれたの」
「そっか、助かって良かったよ」
「うん! だけどね、そのときパパとね、はぐれちゃったの。さきにおうちかえってる?」
鏡月の何気ない問いかけに、幻映は固まった。純粋な瞳で答えを待っている鏡月から視線を逸らす。
「花水兄さんは……その、うん。パパはね、ちょっとお仕事で遠くに出かけてて、帰って来るのは遅くなっちゃいそうなんだ」
「そうなの? いつかえってくる?」
「そうだな、いい子で待っていたら直ぐに帰って来るよ」
「うん……ぼく、いい子でまってる。そのあいだ、おじちゃんともあそんであげるね。ぼくね、このまえパパにおよぐのおしえてもらったの。れんしゅうして、かえってきたパパにみせたいな。あと、ママとじーちゃんにも!」
子が無邪気に笑い、その事を語るたびに、後悔の苦しさがこみ上げてくる。
十二年前の彼は、未来の現状など分からない。だからこそ、平然と本来あるべきだった将来を思い浮かべている。
「うん、そうだね。兄さんも、きっと喜ぶよ」
幻映の表情は、子の前で涙を見せまいとしているような物だった。その変化に鏡月も気が付き、心配そうに手を伸ばした。
「……? おじちゃん、どこかいたいの?」
「……ごめん、鏡月」
そう言うとすぐに、力を込めた手を突き付けて幼児化原因を取り出す。白刃の中から出て来た蛇より一回りほど大きいそれは、抵抗するように手の中で暴れたが、それも虚しく握りつぶされ消えた。
事を済ますと、さっさと帰って行こうとする。
「折角来たのだ、そんな直ぐに帰らずとも良いだろう」
「大将さん、いつの間に……」
大将がこちらに現れたのは、つい先程。幻映が蛇を取り出した時だった。幻映が気付いていなかった様子で、驚いている。
「私の気配に気付けないとは、お前もまだまだだな。お前の父は私の気配は重苦しくてよく分かるなどと抜かしていたのだぞ」
ちょっとした小言を言ってみてから、大将は幻映に告げる。
「幻映。下衆共から大切な者を護れなかったのは私も一緒だ。しかし、師匠の呼び名を持ったからには、過去の失敗をいつまでも悔やむな。そんなでは陰に潜む事は出来ぬぞ」
「……すみません」
「謝るな、私は説教をしている訳ではない、同じ師としての助言だ。お前はまだ若い、出来ない事の方が多いだろう」
その後に、「説教くさくなってしまうのは、老人の悪い癖だ」とぼやく。堅壁の師匠となって数十年、年々言動が老人そのものになってきているのは否めない事だ。
しかし、まだ若いと言われるのも違和感がある幻映。
「あの。私、一応、今年で三十四なんですけど……」
「私の半分以下ではないか」
そう言われればそうだ。若造扱いも文句は言えない。そして、尖岩が年齢については一つ言っておきたい事があった。
「どうでもいいけど、俺六百歳だぜ」
自慢なのか何なのかは自分でも分からないが、自然と出て来たのだからおそらく自慢だ。
「普通の人間とそこ張り合うなよ」
山砕が呆れ半分で言うと、本気で驚いた顔をした幻映の顔が目に入る。
山砕は多少世間から離れた所で暮らしてはいたが、それでも近くにいたため、このチビ助がどのようなイメージをされていたかは知っている。
大悪党、その三文字だけで皆が思い浮かべたのは、厳つい大男か如何にもヤクザのような男、もしくは案外見た目は普通の男なのではないか等々。誰もこんなただの子どものようにしか見えないチビだとは考えてもいなかった。
そう同じくチビである山砕が思い出して笑いそうになっていると、幻映は尖岩の言葉を疑っているのか、大将に尋ねる。
「大将さん、あの子は、その、十五歳くらいに見えるのですが……」
「あぁ、信じがたい事だが、あれがかつて世間を騒がせた大悪党の尖岩だ」
「そ、そうなんですか……?」
まさかあの大悪党がこんな子どもみたいな奴なのかと、顔を見ればそう書いてあるも同然だった。
「なぁなぁ、ちょくちょく思うけど、お前等俺の事誇張表現しすぎじゃね?」
そりゃよろしくない謂れをするのは分かるが、大悪党は言い過ぎだと思う。誇張表現だ。そう主張する尖岩に、山砕が話す。
「それほどお前が派手にやらかしたんだろ。あん時すごかったもんなぁ、俺の家にも助け求めに来た人間いたわ、まぁ結局魔の者に食われてたけど」
当時の話だ。突然訪ねて来た人がいるから何事かと思って出てみたら、初手「助けてください!」と懇願された。一体何が何だか分からずに直ぐ対応が出来ないでいると、来客は背後から追ってきていた魔の者に殺された。ありゃ惨かったさ、まぁ寝て忘れたくらいの出来事なのだが。
「いや、助けてやれよ」
「突撃訪問で助け求められてもどうすりゃいいのか分からないんだよ」
尖岩はそれもそうかと呟き、じっと観察されているのが気まずくなってさりげなく白刃の後ろに隠れる。
デカい背丈は視線から逃げるのには丁度いい。ほんと、大きいなぁ。可笑しいな、自分も小さい頃の生活は規則正しくしていたし、栄養バランスもきちんとしていたはずだ。あれ、可笑しいなぁ、なんで身長伸びなかったのだろうか。
そんな愚痴を心の中で呟いていると、途端に鏡月の姿が戻り、普通に朝の起床と同じように起き上がった。
「……? ん?」
状況が掴めないようだ。白刃の時と同じなら、記憶は森の中を歩いていたところで途切れているのだろう、そこから知らない屋敷の屋内にいるのだから、そりゃ理解できるわけがない。
知って居る顔ぶれが並んでいて安心すると、その中に見た事あるような、記憶に少しだけ残っている人を見つけ、誰かを必死に思い出そうとする。そして、ピンときた。
「……もしかして、叔父さん?」
「あ。うん、そうだよ」
「あぁ、やっぱそうか。見た事あると思ったんだ」
「そっか。覚えてくれていたのなら、何よりだよ」
誰でも分かる、この、気まずい感じ。久しぶりに顔を合わせる親戚との距離感の掴み方は、確かに分からないものだ。
一通り話すと、すすーっと白刃の横に移動して、そこに落ち着いた。そして幻映もやはり気まずいようで、こちらもさりげなく帰ろうとしたが、勿論大将に物理的に止められる。
「こんな場所で見つかってから気配を消しても意味なかろうが」
「ですよね」
気配を消して逃げる事はこの場においては不可能だ。大人しく座っている事にした。と言っても、顔も合わせたしもう帰らせてくれないかなーと、口にはしないがそう切に思っている。
幻映がそんな事を考えているのは大将もなんとなく分かっているが、それには触れずに改めて弟子に話す。
「ところで白刃、その者達の相手には困っていないか。本人の前で言うのも何ではあるが、その者達の扱いは難しいであろう」
「そうですね」
白刃はちらりと尖岩に目をやってから、顔はそのままで答えた。
「えぇ、問題はありません。意外といい子ですよ、言う事も聞いてくれますし」
お前が聞かせているんだろうと、尖岩は心の中で言ってみる。意外といい子って、こっちはお前より年上だと。しかし、口にはしない。後が怖いから。ただでさえ今日は酷く遊ばれる気配があると言うのに、油は火に注ぐものではない。
覇白も山砕も同じ判断をしたようで、何も言わずにいると、大将が重々しく頷く。
「そうか。では、これは必要ないか。一応用意したのだが」
「首輪ですか?」
出されたのは、白い皮の上質な首輪。その瞬間、それはあかんと三人が同時に思った。
弟子が弟子なら師匠も師匠だと言うのか。堅壁のお家の者はいつそんなサディスティックな思考の屋敷になったのだ。
「駄犬は徹底的に躾けるのが堅壁のやり方だ。相手が人であれ何であれ、性根がねじ曲がっておるのなら叩きのめすのみ」
「それは心得ております」
「よい。見た所、鏡月は純な少年に戻ったそうであるし、他の者もこれが必要な程のようには思えないが、どうする?」
訊くな訊くなと、尖岩達が声にせずに心の中で訴える。結果は目に見えているだろう、火を見るよりも明らかにも程がある。それはもう、火は確定時効で。
「そうですねぇ、一応貰っておきましょうかね。使う事はないでしょうけど」
尖岩達からすれば、建前に隠れた本音が隠れていない。どんなに装った所で、知っている者は分かるのだ。
「そうか。あまりやり過ぎるなよ」
「えぇ」
あぁやってしまった。
どうする? 今夜は逃げる? いやだけどそしたら逆に酷くなるだけだぞ。三人が目でそう会話していると、意味を知らない鏡月が白刃に尋ねる。
「白刃さん、それって何に使うんですか?」
「大丈夫ですよ。貴方はいい子なので、使う事はないでしょう。しかしまぁ、望むのであれば喜んで致しますよ」
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