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前編
異世界の子
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◆
綺麗な自然空間。澄んだ空気に、整えられた草木や咲き誇る花々、そして点々となる池とそこに咲く蓮の花。綺麗だ。そしてもっと言うのなら、どこか神聖な空気を感じる。
超越者とやらは、ここを異世界だと言う。確かに、日本の空気とはどこか違う気がした。
そして、池から見える人々は、間違いなく日本人ではない。服装は、昔の中国で着られていたという漢服ににているような気がする。まぁ、自分は中国人ではないため正確には分からないが。雰囲気で言えば、日本より中国に近いのかもしれない。
異世界の子。超越者が己の事をこう呼ぶ時がある。こちらからすれば、超越者こそが異世界の者なのだが。
異世界の子は、池のほとりでただ蓮を見つめていた。こうして、ぼーっとしている時間が一番落ち着く。日本にいようが異世界にいようが、それは変わらないようだ。
学校はどうしよう。そんな思いもないわけではないが、やれと言われ、他にやる事もないから勉強をしていただけ。将来の夢などない自分にとって、行かなくて済むならそれでいいのだ。
静かな水面を眺めていた時、知らない声が聞こえた。
「おーおー。超越者の奴、今度は随分毛色の違う奴拾ってんなぁ」
異世界の子がそちらを見ると、そこには壁とも勘違い出来そうな巨体が立っていた。身長は、二百センチと言ったところか。アメリカのバスケ選手かよって。そしてなによりその胸筋、マッチョ好きの女子が見たら大喜びだろう。しかし、彼はマッチョ好きでもなければ女子でもない。むしろその逆、貧乳派の男子だ。
これは、関わっちゃいけない人だ。本能的に察して、その場から去ろうとする。
「待て待て、何も言わずに行こうとするのはどうかと思うぞ。一応、お前の兄貴なんだぜ」
「おれ、一人っ子なんだけど」
異世界の子が冷静に言うと、そいつは「そうじゃないんだよなぁ」と笑う。なんだか、悪い男の顔だ。
「彼奴は今まで何人か子どもを育てている。そのうちの一人で、そして一番初めに育てられたのが、この俺だ。つまり俺はお前の兄貴ってわけ。まぁ、仲良くしようや」
手を差し伸べ、握手を求められる。それに応じるか、異世界の子は非常に迷っていた。手を握り潰される気がしたのだ。デカい図体とだけあって手もデカく、自分のような男の手なら軽くひねられそうだ。
しかし、応じないのは失礼に値する。恐る恐る手を出すと、思っていたよりも優しく握られ、少し安心する。よかったマッチョはマッチョでも、力加減が分かるマッチョだ。
手を離したところで、少し離れた所から超越者の声が飛んでくる。
『っ、汰壊!?』
「おっと、見つかっちまったか。またな兄弟、今度会う時はゆっくりお話ししようぜ」
その巨体は直ぐに姿を消してしまい、超越者が慌てて駆け寄って来る。
それから、大袈裟なほどに心配された。それに対して異世界の子は、無意識に小さく笑っていたようだ。
こんなに心配されたのは、久しぶりだったから。
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綺麗な自然空間。澄んだ空気に、整えられた草木や咲き誇る花々、そして点々となる池とそこに咲く蓮の花。綺麗だ。そしてもっと言うのなら、どこか神聖な空気を感じる。
超越者とやらは、ここを異世界だと言う。確かに、日本の空気とはどこか違う気がした。
そして、池から見える人々は、間違いなく日本人ではない。服装は、昔の中国で着られていたという漢服ににているような気がする。まぁ、自分は中国人ではないため正確には分からないが。雰囲気で言えば、日本より中国に近いのかもしれない。
異世界の子。超越者が己の事をこう呼ぶ時がある。こちらからすれば、超越者こそが異世界の者なのだが。
異世界の子は、池のほとりでただ蓮を見つめていた。こうして、ぼーっとしている時間が一番落ち着く。日本にいようが異世界にいようが、それは変わらないようだ。
学校はどうしよう。そんな思いもないわけではないが、やれと言われ、他にやる事もないから勉強をしていただけ。将来の夢などない自分にとって、行かなくて済むならそれでいいのだ。
静かな水面を眺めていた時、知らない声が聞こえた。
「おーおー。超越者の奴、今度は随分毛色の違う奴拾ってんなぁ」
異世界の子がそちらを見ると、そこには壁とも勘違い出来そうな巨体が立っていた。身長は、二百センチと言ったところか。アメリカのバスケ選手かよって。そしてなによりその胸筋、マッチョ好きの女子が見たら大喜びだろう。しかし、彼はマッチョ好きでもなければ女子でもない。むしろその逆、貧乳派の男子だ。
これは、関わっちゃいけない人だ。本能的に察して、その場から去ろうとする。
「待て待て、何も言わずに行こうとするのはどうかと思うぞ。一応、お前の兄貴なんだぜ」
「おれ、一人っ子なんだけど」
異世界の子が冷静に言うと、そいつは「そうじゃないんだよなぁ」と笑う。なんだか、悪い男の顔だ。
「彼奴は今まで何人か子どもを育てている。そのうちの一人で、そして一番初めに育てられたのが、この俺だ。つまり俺はお前の兄貴ってわけ。まぁ、仲良くしようや」
手を差し伸べ、握手を求められる。それに応じるか、異世界の子は非常に迷っていた。手を握り潰される気がしたのだ。デカい図体とだけあって手もデカく、自分のような男の手なら軽くひねられそうだ。
しかし、応じないのは失礼に値する。恐る恐る手を出すと、思っていたよりも優しく握られ、少し安心する。よかったマッチョはマッチョでも、力加減が分かるマッチョだ。
手を離したところで、少し離れた所から超越者の声が飛んでくる。
『っ、汰壊!?』
「おっと、見つかっちまったか。またな兄弟、今度会う時はゆっくりお話ししようぜ」
その巨体は直ぐに姿を消してしまい、超越者が慌てて駆け寄って来る。
それから、大袈裟なほどに心配された。それに対して異世界の子は、無意識に小さく笑っていたようだ。
こんなに心配されたのは、久しぶりだったから。
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