楽園遊記

紅創花優雷

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中編

開催! 百龍祭

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 今日は、百龍祭の開催の日だ。覇白達は朝早くから出かけたようで、開催場所には四人で行った。縁起のいい色でまとめられた円形の舞台だ。
 自分たちの座席は特別席だと言っていたが、それは何処だろうか。内心ワクワクしながら入場口で予め貰っていた許可証を見せると、係の人があっと声を漏らす。
「もしかして白刃さん方でいらっしゃいますか?」
「はい、私が白刃です」
「やはりそうでしたか! 龍王妃様からお話は伺っております、どうぞこちらへ」
 入場口のそこは別の者に任せ、その係員に付いていった。
 案内されたそこはもう、まさに特等席と言った所か。舞台の上が良く見える。通常の席は少し下に見えるあれらだろう。
「妃様特別誂えですよ。ごゆっくりー」
「特別誂えって。妃ってすげぇんだな」
 あんな感じだからあまり意識しないが、あの人は妃なのだ。民の龍からすれば最高位の女龍となる。そりゃ特別誂えで席の用意も出来るだろう。
 座って待っていると、数分後に開式の時間になる。その丁度に銅鑼の音が響き、そこに統白と牡丹が龍の姿で現れる。美しい白と紅の龍は風と共に姿を変えると、普段とは違う正装の姿で民衆に向き合う。
「皆の物、よくぞ集まった。この百年、龍ノ川が変わらず繁栄し続けているのは、お主らの協力の下で成り立つ事。龍王として、感謝を言わせてもらおう」
「では、今後の我等の繁栄を願い、今ここに百龍祭の開催を宣言する!」
 その言葉の後に、龍王夫婦は舞台の奥川に用意されていた王の椅子に行儀よく座る。椅子はあと二つ残っている、察するに王子の兄弟の物だろう。
 再び銅鑼が成り、上手と下手から同時にその二匹が飛んできた。
 兄弟が人に化けると、そこで静かな入りの音が流れ始める。話には聞いていた、百龍祭の最初の催し物「交双舞」と言う舞だ。王子としての正装の姿で、鈴の音と共に舞う。多くの龍はこれを見るために倍率の高い開会式の入場許可抽選に参加するそうだ。
 いつも下ろしっぱなしの髪も式の為に結っており、 薄いベールで隠された顔はここからでははっきりと見えない。勿論のことながらいつもと雰囲気が違う。初めて見る第二王子としての覇白は、とても新鮮だ。
「こうして見ると、あいつって王子だったんだなぁって感じするよなぁ」
「ですね。美しいです」
 数分の舞が終わると、王子二人も自身の席に着く。ここから、開会式で行われる催し物が本格的に始まるのだ。
 メインは歌や舞だが、どれも素晴らしいモノばかりで観ていて飽きない。一番大きな祭りとだけあって、皆気合が入っているようだ。
 そして、式の最後だが。
「では、最後に龍王妃様のご挨拶です」
 最初が龍王の挨拶、最後が龍王妃のようだ。流れは聞いていたから知っているが、気になる所と言えば式の予定終了時間まで、あと三十分あるところか。しかもその下の注釈に書いてある、「時間は予定であり延長される可能性がありますので、予めご了承ください」という一文。
 何だろう、容易く想像できる未来がある。マイクが用意されると、牡丹は席から立ち上がりその前に立つ。そして、変わらない様子で話し出した。
「はぁい皆さーん、牡丹よ~。今日はめでたい日、皆いーっぱい楽しんで、また次の百年後に私達の歴史を繋げるよう努めて行きましょ」
「今回の催し物もとってもよかったわぁ、私、感動しちゃった。特に、響音ちゃんのお歌がとってもよかったわぁ、牡丹賞あげちゃう! 閉会式を楽しみにしててねぇ」
「さてと。今回も好きに喋っていいって事だから、始めちゃうわぁ。牡丹のお喋り会~、はぁい皆拍手~!」
 牡丹の煽りに乗り、拍手を送る民衆たち。そう言えば、前に軽く聞いた。開会式の楽しみの一つ、最後に行われる龍王妃の気まぐれなお喋り。ここでしか聞けない王家の話やらなんやらが聞けたりするかもしれないとの事だ。
「皆聞いてぇ、最近ね、嬉しい事があったのよぉ。それがねそれがね!」
「なんと、覇白ちゃんに初めてのお友達が出来たのぉ~! もう、嬉しくって。この前なんてお赤飯作っちゃったの~」
 それでか。祝い事もなんにもないのにご飯に赤飯が出されたのはそれだったのか。おそらく、覇白も表情に出さないように頑張っているのだろう。友達事情を全国民の前で公言されるだなんて、白刃としても考えたくもない。
 そして、牡丹は覇白に無茶ぶりをする。
「あ、そう言えば覇白ちゃんって滅多にこういう場に出ないわよね? ほら覇白ちゃん、おいでなさい」
「え」
 今まで覇白はこうした場で声を出す事が無かった。今までの百龍祭も踊りはするが、それだけだった。様々な所で姿を見せたりはするが、王子として対応をするのは司白の方。外での仕事はたまに覇白も付き添っているくらいだったのだ。
 加えて、龍ノ川の民にとって覇白はかなりレアで、お目にかかることが出来てしかもその声を聞けたのならついているの位の認識だったのだ。
 そして龍王子は正装としてそのベールで顔を隠すので、そもそも顔を見た事が無いと言う者もいるだろう。
「ご挨拶よご挨拶~。貴方の声聞いた事無い子も多いわよぉ。ねぇ皆、顔は知っているくらいよね」
 覇白は答えるかどうか戸惑い、父に視線を送った。
「行ってこい」
「は、はい。分かりました」
 立ち上がって、母の横まで歩くと、彼女にぐっと腕を引っ張らる。
「改めまして、私とトーちゃんの二番目の子供、覇白ちゃんでーす! ほら、お顔見せてあげなさい。貴方の事見た事無い子もいるのよー?」
 少し戸惑ったが、式の最中である以上は王子として務めなければならない。言われるがままにベールを外す。しかしその後に恥ずかしくなったのか、言葉を詰まらせていた。
「あら、人見知りは治ってなかったのねぇ。ほらぁお友達も見てるわよ、頑張って!」
 逆効果の励ましを送ったと思ったら、今度は離れたところにいる白刃を正確に見つけ出し、その名前を大きな声で呼ぶ。
「あ、ほら、白刃ちゃーん!」
 覇白の様子を見て楽しんでいた白刃だったが、自身に球が飛んできて急いで笑みを浮かべる。
 龍の視力は良いと、昔師匠から聞いた。おそらくあそこからでもはっきりと見えているのだろう。
「あ、そうだ! あのねぇ、白刃ちゃんって子がね、覇白ちゃんのお友達の一人なんだけどね、実はねトーちゃんの妹ちゃんの孫なのよ! だからね、私達と同じ白髪なの。ねぇ白刃ちゃーん?」
 元気に観客としている白刃に手を振る牡丹。そこで白刃は改めて感じた、この人、凄く苦手だと。
「手降り返せば? 白刃ちゃん」
 ニヤニヤしている尖岩がなんかあれだった為、いつものように輪を締めた。
 それから牡丹のお喋りは三十分程続き、式は予定通りの時間に終了した。
 終わってから、控室に顔を出してみる。まだ着替えをしていなかったようで、正装姿のまま休憩していた。
「お疲れ、覇白」
「よぉ覇白、カッコよかったぜ」
「お疲れ様です、すっごく美しかったです!」
「うんうん、いつもと違う感じだったね。俺ビックリした」
「あぁ、ありがとう」
 落ち着ける場所に座り、覇白は先ほどの事を白刃に謝る。
「母上がすまぬな」
「まぁ気にするな。名前を呼ばれただけだ、大した事ではない」
 流石の白刃も突然名前を呼ばれるとは思っていなかったが。あそこで舞台上に来いと呼び出されたら話は別だが。
 ここからは覇白も自由時間だ。もう正装でいる必要もないため、普段の服装に着替えた。やはり、これが一番落ち着く。王子としての仕事は大体第一王子がやる為、慣れていないのだ。それに、自分はあまり多くの人の前で喋るのは得意ではない。
 髪を解いて軽く梳かすと、尖岩があははと笑って言った。
「お、いつもの覇白だ。お前、やっぱそっちの方がいいな。なんか、安心する」
「あー、なんか分かるわそれ。だって王子のお前、違和感あるんだもん」
 山砕も同意する。
 何と言えど、龍でない自分が知っている覇白は、白刃に良いように遊ばれている彼だ。王子っぽくはないだろう。それは本人も自覚してはいる。
「一応、私も産まれながらの王子なのだがな」
「ま、民衆の前で母親に友達いなかった発言された王子はお前くらいだろうな」
 白刃が冗談半分でからかう。しかし、今回は覇白も同じ攻撃が出来るのだ。白刃も同じである事を、覇白は知っている。十歳の彼自身が言ったのだから間違いない。
「お前だっていなかったんだろ」
「あ?」
 してみたところで、この圧に負けるのだが。
「何でもない」
 怖かったから、前言を撤回しておいた。
 その会話で楽しそうに笑っていた三人だったが、鏡月は自身が笑える立場ではない事を思い出す。
「お友達……考えてみれば、私も初めてかもです」
 その後に、鏡月がそんな発言をしたせいでもう二人もハッとしてしまう。
「お、俺は人間以外含めていいならいっぱいいるし。猪類の生き物大体友達だし」
「俺だって猿をカウントしていいなら沢山いるぜ! 猿吉とか、あとジョニーって名前の奴がいるんだ!」
「……猿にジョニーってなんだよ」
「いやだって、本人がそう名乗ったんだもん」
 なんだか、微妙な空気になったから、この話は一旦置いておこう。いや、お空のかなたに投げよう。考えるべきは今だ。ここからは聞き終えないが、外では既に祭りで騒ぎ出している頃だろう。
「祭り行こうか」
「ですね。お腹すいちゃいました」
「俺もー」
 大食い大会の開始時刻も迫っている為、とりあえずそっちの方面を歩く事にした。
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