雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

2話 卒業

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ピッピッピッ!
ピッピッピッ! ピッ!

目覚まし時計を止めた。


「んぁ~」

涼一は布団の中で大きく背伸びをした。

テーブルの上には昨夜のカップ麺の容器とビールの空き缶が3本、無造作に置いたままになっていた。

「頭痛てぇ…」

酒はあまり強くなかったが、最近は飲めるようになったと同僚に言われている。

「もう10時じゃん…」

飲み過ぎて一日を無駄にしないようにセットした目覚ましが虚しかった。

休日に何も予定はない。

律子と別れてからの休日はいつもこうだ。平日は仕事の忙しさで紛らわせているが、休日は逃げ場がない。

(自分で決めた事なのに…)

律子との時間を捨てた自分を後悔してるのかもしれない。

戻ることはできない律子との日々を今でも鮮明に覚えている。


◇◇◇


「律子、卒業おめでとう!」

「ありがとう涼一」

「涼一は大学行くんでしょ?その頃私は社会人だね!」

「そうだね」

沈黙が少し。律子は言った。

「合コンなんて許さないからね!」

(まだ高2なんですけど…)


「私と離れて寂しい?」

律子は他県の専門学校に進学する。

別れ際、駅のホームで そう聞かれた。

「当たり前だよ」

「うそ!」

「本当」

「うそ!」

「本当だってば!」

突然律子は抱きついて涼一の胸に顔を埋めた。
春先のホームはまだ肌寒く、時折吹く冷たい風の中であの時の甘い髪の匂いがした。

電車がゆっくりとホームに近づいて現実に戻される。胸元で涙を拭った律子は笑顔で言った。

「じぁあ…ね…」

「うん…また…」

律子は笑って手を振った。

◇◇

律子が卒業した後の高校生活は、可もなく不可もなく、相変わらずバスケも上手くならないまま時間だけが過ぎて行った。

「俺たちも年取ったなぁ」

雅彦がしみじみと言う。

「なんだそれ?」

「もう3年だせ?あー!このまま彼女もできずに青春が終わるのかー」

「ははっ!ダッセー!」

「お前はいーよなぁ」

「んー?」

「律子先輩がいてさぁ」

律子は時々涼一に会いに帰ってきた。
車の免許も取得していた。地元に帰って来た時は父親の黒塗りのセダンタイプの大きな車で迎えに来た。

「この車すごいね…」

「ん?そう?毎日見てたから特には何も」

「そうなんだ…」

「え?変??」


「い、いや…」

(若い女の子が黒塗りのこの車は変でしょう)と言いそうになったが やめた。

「ところで涼一、浮気してないでしょうね?」

「ん?なんで?」

「う~ん。なんとなく?」

「そういう律子はどーなんだよ」

「どうだろうね~」

「え?!」

「あははっ !冗談だよー」

「なんだよ~!」

涼一は内心動揺していた。

律子は専門学校に入学してからどんどん綺麗になっていった。化粧が上手くなり口元の小さなホクロが色気を演出する。律子から置き去りにされたような気がしていた。
そんな感情を律子の体にぶつけるように激しく抱いた。

律子も全てわかっているかのように何も言わず受け入れた。



「おめでとう!今度帰るから迎えに行くね!」

涼一は地元の大学の商学部に合格した。

「ありがとう、バイト代出たから今度のデートは俺がおごるよ」

「へぇー珍しい!」

嬉しそうに律子が言った。

部活も最後のインターハイ予選は二回戦で敗退し、あっけなく3年間が終わった。空いた時間にする事もなく家の近くのファミレスでバイトを始めた。

「いつも出してもらってるからさ」

「無理しなくていいよ。涼一のお祝いだしね!」

律子は居酒屋でバイトしているらしい。時給が高く、バイト仲間とも仲良くしているみたいだった。

律子の部屋には何度か遊びに行った。
最寄り駅からバスで10分位の所にあるマンションで、途中にコンビニがある。ひとつ手前のバス停で降り、酒とお菓子を買い込んで帰る。

築5年ほどのマンションは8階建で律子は6階、1K 8畳の部屋で暮らしている。

「どうぞ、入って」

中に入るといい匂いがした。

「へぇ、綺麗にしてるじゃん」

「でしょ?女の子だもん」

水回りも綺麗に掃除してあり、律子の普段の生活が想像できた。

「座って待ってて、お酒持ってくるから」

「高校生に酒飲ますかね?」

「だって私たちワルでしょ?」

「確かに」

顔を見合わせて笑った。


ほろ酔いになった頃、涼一の姉の話になった。

「香織さん元気にしてる??」

「ん?元気だよ、いつもうるさくてさー」


涼一には4才上の姉がいる。
同じ高校出身で、バスケ部のキャプテンで、律子の先輩だ。

「懐かしいね、1年の時バスケ部の憧れの先輩で、色々助けてもらったなー」

(まぁその姉貴のおかげで俺は何かと比べられる人生なんだが…)

「律子の事はよく聞いてくるよ」

「えー!本当に?嬉しいな」

律子は続けた。

「実はね、こっちにくる前に香織さんから手紙もらったんだ」

「マジ?」

何ひとつ聞いていなかった涼一は、怪訝そうな顔で言った。

「うん涼一は不器用で、だらしないけどって」

(姉貴め!)

「でも、素直で正直だから、安心して行っておいでって。私がちゃんと律だけを見てるように躾けるからって…。読みながら泣いちゃった」

「それでかぁ」

妙に納得した様子で涼一が言った。

「ん?なに?」

興味深げに律子が応えた。

「律子がこっちにきてから、姉貴の口うるささがハンパないっ!」

「アッハハハ!さすが香織さん!本当、素敵なお姉さんだね!」

「そうかなー?」

「そうなのー!だって、大好きな私のお姉さんだもん」

「勝手にしてくれー」

そう言って涼一は律子のシングルベットでそのまま眠ってしまった。

律子は微笑んで窓から見える星を眺めていた。
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