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第一章 過去
6話 姉弟
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涼一は大学卒業と同時に地元で一人暮らしを始めた。
軽量鉄骨アパートで、1K7畳の部屋に3畳のロフトが付いている。ロフトは物置きとして使っていた。
18時頃インターホンが鳴った。
「はい」
「涼一、私」
「姉貴?ちょっと待って」
涼一がドアを開けると、笑顔の香織がコンビニの袋を差し出した。中にには冷えたビールとあたりめが入っていた。
「グラス洗うの面倒だから缶のままでいいだろ?」
涼一がそう言うと、あたりめの包装を破りながら香織が言った。
「いいよー」
「うちにはポテチくらいしかないぞー」
「十分だよ、家でご飯食べてきたから」
「そっか」
涼一はビールとポテチを持ってソファに座った。
「ねえ…あんた、彼女できたの?」
缶ビールを開けながら香織が言った。
「プフッ!急に何を言うかと思えば!」
涼一はビールを噴き出しそうになりながら答えた。
「だって、あんたが、一人暮らしなんか始めるから。え?違うの?」
「仕事が大変でそんな事考えてる暇なんかあるかー」
涼一は呆れて言った。
香織の性格は明るく世話好き、友達も多かった。顔も整っていて男にモテた。身長は女性の平均より高く、涼一が香織の身長を抜いたのは中学の終わり頃だった。
香織と涼一は顔が似ていて、涼一もどちらかと言うとモテた。性格は真逆で消極的な涼一は香織と比べられるのが嫌だった。
呆れている涼一をよそに香織は続けた。
「せっかくの一人暮らしなんだから色々あってもいいんじゃない?私なんかお父さんがうるさくて、結局実家のままなんだから」
(確かにそうかもしれないな…)
香織には彼氏がいて来年結婚する。半年前、その彼氏が挨拶に来た。
彼氏は内藤浩介。
香織が勤める建設会社の現場監督として働いている。
香織は短大卒業後、今の会社に事務員として就職した。
浩介は香織の1つ年上で27歳、身長は香織と同じくらいで、顔は強面だった。そのせいでよく損をしていた。
「香織さんと結婚させてください」
スーツを着た浩介が香織の両親に頭を下げた。
ふたりの父親の聡は左官職人で普段は無口で怒ると先に手が飛んでくる。世に言う典型的な頑固オヤジだ。
「内藤君、君は何才だね?」
無愛想に聡は聞いた。
「はい、27才です」
「そうか、私が27才の頃はもう香織が生まれていて、2才だった。風呂に入ってる時、小さな手のひらを私の手に合わせて、(パパの手おっきい)っていつも言っててね、昨日の事のように思えるんだが、香織もそんな年になったんだなぁ…」
感慨深げに聡は言った。
「なぁ浩介君」
「はい」
「贅沢をさせてくれとは言わない。何もできない娘だが…。幸せにしてやってくれるかね」
「約束します」
そっ言って浩介はもう一度頭を下げた。
「娘を好きになってくれてありがとう 」
今度は聡が頭下げた。
浩介の隣りに座っていた香織は泣きながら言った。
「お父さんありがとう」
母親の智子も涙ぐみながら微笑んでいた。
その場にいた涼一は律子の事を考えていた。
香織と浩介の結婚を自分と律子に重ねていたのかもしれない。
考えても答えは出なかった。
「涼一?どうしたの?」
「ん?あーごめん、なんだっけ?」
タバコの火を消しながら言った。
「律と別れてどれ位?」
「2年」
「連絡は?」
「するわけないだろ、俺から別れたのに」
「律からも?」
「あー、別れて少したってから一度連絡があった。あいつの部屋に俺の服とかあったから、持って来てくれた時に会ったかな。それっきり」
「そっか…」
香織は少し寂しそうな表情で言った。
涼一はふと思い出し、香織に聞いた。
「そーいえば姉貴、律子が専門学校に入る時、手紙渡したんだって?」
「そうそう、律は可愛い後輩だからね。涼一にはもったいないくらいだったのよ!だから気になってね、書いたの」
「あいつさ、姉貴の手紙が嬉しくて泣いたんだって」
「そうだったんだぁ、律らしいなぁ…。涼一!もう一本ビール」
「まだ飲むのかよ!」
「いいじゃない飲んだって!」
「もしかして?泊まるつもり?」
「悪い?だって車で来てるし」
「勘弁してくれ…」
「いーじゃん!お姉ちゃんなんだから」
夏がすぐそこまで近づいていた。
軽量鉄骨アパートで、1K7畳の部屋に3畳のロフトが付いている。ロフトは物置きとして使っていた。
18時頃インターホンが鳴った。
「はい」
「涼一、私」
「姉貴?ちょっと待って」
涼一がドアを開けると、笑顔の香織がコンビニの袋を差し出した。中にには冷えたビールとあたりめが入っていた。
「グラス洗うの面倒だから缶のままでいいだろ?」
涼一がそう言うと、あたりめの包装を破りながら香織が言った。
「いいよー」
「うちにはポテチくらいしかないぞー」
「十分だよ、家でご飯食べてきたから」
「そっか」
涼一はビールとポテチを持ってソファに座った。
「ねえ…あんた、彼女できたの?」
缶ビールを開けながら香織が言った。
「プフッ!急に何を言うかと思えば!」
涼一はビールを噴き出しそうになりながら答えた。
「だって、あんたが、一人暮らしなんか始めるから。え?違うの?」
「仕事が大変でそんな事考えてる暇なんかあるかー」
涼一は呆れて言った。
香織の性格は明るく世話好き、友達も多かった。顔も整っていて男にモテた。身長は女性の平均より高く、涼一が香織の身長を抜いたのは中学の終わり頃だった。
香織と涼一は顔が似ていて、涼一もどちらかと言うとモテた。性格は真逆で消極的な涼一は香織と比べられるのが嫌だった。
呆れている涼一をよそに香織は続けた。
「せっかくの一人暮らしなんだから色々あってもいいんじゃない?私なんかお父さんがうるさくて、結局実家のままなんだから」
(確かにそうかもしれないな…)
香織には彼氏がいて来年結婚する。半年前、その彼氏が挨拶に来た。
彼氏は内藤浩介。
香織が勤める建設会社の現場監督として働いている。
香織は短大卒業後、今の会社に事務員として就職した。
浩介は香織の1つ年上で27歳、身長は香織と同じくらいで、顔は強面だった。そのせいでよく損をしていた。
「香織さんと結婚させてください」
スーツを着た浩介が香織の両親に頭を下げた。
ふたりの父親の聡は左官職人で普段は無口で怒ると先に手が飛んでくる。世に言う典型的な頑固オヤジだ。
「内藤君、君は何才だね?」
無愛想に聡は聞いた。
「はい、27才です」
「そうか、私が27才の頃はもう香織が生まれていて、2才だった。風呂に入ってる時、小さな手のひらを私の手に合わせて、(パパの手おっきい)っていつも言っててね、昨日の事のように思えるんだが、香織もそんな年になったんだなぁ…」
感慨深げに聡は言った。
「なぁ浩介君」
「はい」
「贅沢をさせてくれとは言わない。何もできない娘だが…。幸せにしてやってくれるかね」
「約束します」
そっ言って浩介はもう一度頭を下げた。
「娘を好きになってくれてありがとう 」
今度は聡が頭下げた。
浩介の隣りに座っていた香織は泣きながら言った。
「お父さんありがとう」
母親の智子も涙ぐみながら微笑んでいた。
その場にいた涼一は律子の事を考えていた。
香織と浩介の結婚を自分と律子に重ねていたのかもしれない。
考えても答えは出なかった。
「涼一?どうしたの?」
「ん?あーごめん、なんだっけ?」
タバコの火を消しながら言った。
「律と別れてどれ位?」
「2年」
「連絡は?」
「するわけないだろ、俺から別れたのに」
「律からも?」
「あー、別れて少したってから一度連絡があった。あいつの部屋に俺の服とかあったから、持って来てくれた時に会ったかな。それっきり」
「そっか…」
香織は少し寂しそうな表情で言った。
涼一はふと思い出し、香織に聞いた。
「そーいえば姉貴、律子が専門学校に入る時、手紙渡したんだって?」
「そうそう、律は可愛い後輩だからね。涼一にはもったいないくらいだったのよ!だから気になってね、書いたの」
「あいつさ、姉貴の手紙が嬉しくて泣いたんだって」
「そうだったんだぁ、律らしいなぁ…。涼一!もう一本ビール」
「まだ飲むのかよ!」
「いいじゃない飲んだって!」
「もしかして?泊まるつもり?」
「悪い?だって車で来てるし」
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「いーじゃん!お姉ちゃんなんだから」
夏がすぐそこまで近づいていた。
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