雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

7話 前進

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里奈と偶然会ってからひと月ほどたった頃だった。
その日涼一はトラブル対応のため取引先に直行した。処理が終わり会社に出勤したのは10時過ぎだった。

書類を作成する前に一服しておこうと喫煙ルームに向かった。6階建の自社ビルで事務所内禁煙。喫煙者には厳しい環境だが喫煙ルームは各階にあった。中に入ると同期の遠山直樹がコーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。

「よう!前田、来てたのか」

手を挙げながら遠山は言った。

「ああ、朝から現場で今着いたところだ」

「頑張ってるな」

「まぁな」

遠山はタバコ吸い終わるとこう言った。

「前田、俺は営業に向いてないのかも知れない」

「なんだ突然?」

涼一が聞いてくるのを待っていたかのように遠山は続けた。

「辞めようかな、仕事。前田、どう思う?」

「うーん。同期の中でお前が1番営業向きだと思うが?」

涼一は少し考えてから言った。

「そっか?でも、最近つまんなくってさぁ」

「ん?何かあったのか?」 

「いや、何もないから悩んでんだよ、そうだ前田、帰りに飲みに行かないか?」

「なんだそれ?」

「店は俺が予約しとくからいいだろ?な!」

「わかったよ、ただ、仕事終わるの19時くらいだぞ」

「わかった、大丈夫だ。19時半に予約しとくよ。じゃ、あとでな!」

「おう」

遠山は喫煙ルームを出ていった。

「あいつも色々悩んでんだな」

(ん?まてよ、何も無いから悩んでる?何も無いなら悩む必要ないだろ!まったく、面倒な奴だ!)

「よーし!今日はあいつのおごりだな」

涼一は言った。

遠山の予約した大将という居酒屋は値段も安くサラリーマンの憩いの場所になっていた。会社の近くにあり、日々、色々なグループの飲み会が行なわれていた。大人数のグループもいれば、カウンターでしみじみ飲んでいる年輩の2人組もいた。どのグループも楽しんでいるようだった。

「お疲れー!かんぱーい!」

涼一は美味しそうに生ビールを飲んでいる遠山を見て言った。

「遠山、お前元気じゃん」

「元気だぜ、元気なんだけど、何か物足りないんだよなぁ」

「贅沢だよ、それは」

「わかってんだよ、わかってんだけどな」

「とにかく!会社は辞めるなよ」

「うーん。どうするかなぁ」

涼一は面倒な話になる前に遠山に言った。

「よし!遠山!今日は何も考えずに飲め!すみませ~ん!ビールとレモンサワー!」

「はーい!」

ハッピを着た元気な店員が応えてくれた。

ふたりはビールとレモンサワーを2杯ずつ飲み終えた。涼一がトイレから戻り、席に座ったところで、里奈に声をかけられた。

「前田さん!」

「ん?ああ、竹下さん!」

「この前はありがとうございました」

「うん。間に合ってよかったね!」

「はい、助かりました!それにしても奇遇ですね、あっ遠山さんもいるー」

「あー総務の竹下さんじゃん」

遠山は結構酔っているみたいだった。

「今日は?飲み会?」

涼一が訊ねた。

「はい、先輩と2人だったんですけど悪酔いしちゃったみたいで。今タクシーに乗せてきたところです」

「そうなんだ、大変だったね。竹下さんどうするの?」

「私も帰ろうかなぁって思ってた時に前田さんが見えたから」

「そっか。じゃあ一緒に飲まない?ひとりウザい奴がいるけど、もうすぐ冬眠しそうだから。あっ!夏だから夏眠か」

「あははは!やっぱり前田さんって面白いですねー!本当に一緒に飲んでもいいんですか?」

「もちろん!何飲む?」

「じゃあ、ビールで」

「お!いいね!すみませーん!生1つー!」

「はいよー!」

ウザい奴はそれからまもなく夏眠した。


「先!輩!も大変!だ!け!どー!
あたし達も頑張ってるってーの!
それをグチグチうるさいってーの!」

里奈も完全に酔っ払っていた。

(竹下さん、ストレス凄いな…)

涼一は地雷を踏まないように気をつけて相槌を打った。

「そうだよな、俺たちも頑張ってんだー!」

「そうだ!そうだー!」

里奈は3杯目のビールを飲み干して店員に声をかけた。

「すみませーんハイボール!」

「竹下さん、大丈夫?」

涼一は心配になり里奈に聞いた。

「ん?何がですかぁ?」

「だって、酔ってるよね?」

「酔ってませーん」
……

「前田ー!!」

「はい?」

「飲めー!!」

(完全に酔ってるな…こうなったら飲むしかない!)

「すみませーん!ハイボール2つ!」

結局ふたりは閉店間際まで飲んだ。
涼一は会計を済ませ、夏眠から覚めない遠山をタクシーに乗せ終えて里奈に言った。

「竹下さんタクシー拾おうか?」

「里奈でいいですよぉ、涼一さ~ん」

(かなり酔ってる…)

「り、里奈ちゃん、タクシー拾う?」

里奈はニヤケ顔で涼一に言った。

「今日先輩のうちに泊まる予定だったんですけどぉ、帰っちゃったんで~」

「うん」

「うちにも泊まるっていってあるし、涼一さ~ん!泊めて下さ~い」

「え?え?俺ん家?うそ?でしょ?」

涼一は驚いて言った。

「だって~、行くとこないもーん、ダメ?」

里奈は小悪魔のような上目遣いで涼一を見た。

「い、いや、ダメではないけど…さ」

「じゃあ行きましょ!涼一さん家~」

里奈はそう言ってタクシーを止めようとした。

「タクシーー!コラー止まれー!!」

「ちょ、ちょっと、里奈ちゃん」

(おいおい、大丈夫なのかぁ?)

涼一も腹を決めた。

(もう!どうにでもなれ!)

「よし!里奈!帰るぞ!」

「ラジャー!」

ふたりはタクシーに乗り込んだ。



「ううっ!頭痛い…」

(かなり飲んだな…)

「ん?」

目覚めた涼一は腑に落ちない様子だった。

霞んだ目で隣を見ると、里奈が気持ち良さそうに寝息を立てていた。

「ん?ん?えー!」

ベットの下には里奈が着ていた洋服と下着、パンストが散乱していた。

(まっ、まさか…ね?もしかして…俺、やってしまった?)

「はっ!ヤバイ!会社!」

慌てて時計をみると9時半を回っていた。

「終わった…どうしよう…」

「ん~、休みですよ~今日」

里奈が目をこすりながら言った。

「え?そ、そうか、今日は土曜日か、よかった!
助かった!」

地獄に仏とはこの事だと涼一は思った。

「おはようございます!」

里奈が笑ってすり寄ってきた。

「お、おはよう…えっと…里奈ちゃん、昨日の事覚えてる?」

「覚えてますよ」

「マジ?」

「マジです。私、涼一さんのこと好きになっちゃいました!まさかエッチするとは思ってなかったですけど…でも、よかったです…とっても」

里奈は照れながら言った。


(だんだん記憶が蘇ってきた、そうだ、抱いたんだ、昨日…)

ただ、不思議と後悔はなかった。


律子と別れて4年。
里奈と付き合うことにした。

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