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第一章 過去
8話 回想
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「佐々木さーん 診察室へどうぞー」
ウィーン!
有線はクラシックが流れているが、ドリルの甲高い不愉快な音で掻き消されていた。
ピンクの壁紙は綺麗な曲線の模様が入っており目に優しく映り込む。
「斉藤さん」
「はい」
「このあと神経取るから準備して」
「わかりました」
肩まである髪を1つにまとめ、水色のナース服にエプロン、マスクをしている。両手は感染防止のオペ用手袋。律子の仕事スタイルだ。
「はーい渡辺さん、少し痛むと思いますので我慢せずに言って下さいね」
歯科衛生士も5年目に入ると慣れたものだ。
3年前、涼一と別れてからは仕事に没頭した。
「院長、お疲れ様でした」
「お疲れさん」
「今日も1日終わったなぁ」
帰りの車の中で律子は言った。
夕飯の買い物に行きつけのスーパーに立ち寄った。
(今日は肉じゃがにしよう)
野菜コーナーから精肉コーナーを回ってお酒のコーナーへカートを押して行った。
涼一と別れて3年になる。
別れて以来あまり地元には帰っていない。
なんだかんだはぐらかし帰省を渋ってきた。
母親から昨日も電話があった。
「律子、今度はいつ帰ってくる?たまには元気な顔を見せてね。」
「わかってるけど、仕事が忙しいから…」
「あまり無理しちゃダメよ」
「うん。ありがとう。もう切るよ」
申し訳ない気持ちで電話を切った。
「はぁ…」
「なーにやってんだか私は」
溜息も上手になった。
肉じゃがのいい匂いが部屋の中に広がる。サラダには和風ドレッシングを好んで使っていた。
「よし!できた」
炊飯器のランプが保温に変わったのを確認してビールをグラスに注いだ。勢いよく半分まで飲んで言った。
「あーあ、これじゃ完全にオヤジだね、肉じゃがつまみにしてビールなんて」
テレビはローカル番組が流れていた。
「つまんないなぁ…」
別れてから髪を伸ばしてみた。学生時代はショートだった。手入れが大変だったけど涼一が可愛いと言ってくれた。
(私ってバカだね)
「もう!あいつの事なんかどーでもいい!」
そう言ってグラスの残りを飲み干した。
◇◇◇
律子は結構モテていた。専門学生の時、何度か告白された事もあった。
「斉藤さん」
「はい?」
「俺と付き合ってくれない?」
「あーごめん、彼氏いるから」
そんなやりとりが何度かあった。居酒屋のバイト仲間の澤井隆にも告白された。
「律ちゃん、地元の彼氏となんか別れて俺と付き合ってよー」
「えー?本気で言ってるの??」
「当たり前じゃん!冗談ぽく言ってるけど、俺マジだから!」
少し間を置いて律子は言った。
「うーん。隆くんはカッコいいと思うけど、やっぱり無理かなぁ…」
「そんなにカッコいいの?彼氏」
「どーかなぁ、普通だと思う」
「じゃあ、エッチが凄いとか?」
「あのねー!バカなの?」
「すみません…」
(ふふっ、そういえば涼一がこっちにきてた時、隆くんと偶然スーパーで会ったんだよね)
「律ちゃん、何してんの?」
「ん?ああ、隆くん、買い物?」
「そう、バイト入る前に材料の買い足し。店長に頼まれてさー」
「店長そんなとこあるよね。でも隆くん、今日シフト入ってたっけ?」
「律ちゃんが休みだろ、それに藤田が風邪で、俺がヘルプ!シフトパンパン!」
「そうだったんだ。ごめんね隆くん。今日彼氏来てるからヘルプ無理なんだよね」
「この前言ってたあの彼氏?」
「そう…って、他に誰がいるのよ!」
「あの夜が凄い彼氏?妬けちゃうなー!」
「だからー!バカなの?」
「おーい律子ー」
「はーい」
「美味しいって言ってた酎ハイってこれだっけ?」
涼一が酎ハイを持ってふたりの前にやってきた。
「ん?」
「どうも」
隆が会釈した。
涼一はキョトンとしながら応えた。
「どうも」
律子は涼一に言った。
「バイト仲間の澤井くん」
隆には彼氏の涼一と紹介した。
「彼氏さん初めまして。澤井です」
「ど、どうも。初めまして前田です」
「律ちゃん、店はなんとかするから気にしなくていいからね。あっ!ヤバイ!急がないと、じゃあね」
「本当にごめんね、今度シフト替わるから、困った時は言ってね 、頑張って!」
「彼氏さん、どうも」
「どうも」
隆はレジを済ませ店を出て行った。律子は手を振って見送った。
「今日お店大変だったんだぁ」
律子が言った。
「でも、前から休み取ってたんだろ?」
「そうだけど…」
「で、あいつ何?」
「何って?隆くんの事?」
「隆って言うの?仲良さそうじゃん」
涼一は不機嫌そうな顔をして言った。
「だって、バイト一緒だし…」
「ふーん」
「え?何?涼一もしかして、妬いてる?」
「妬いてねーよ!」
「妬いてるよね?」
「そんな事ないって!」
「大丈夫だよ、だだのバイト仲間なんだから。何にもないよ」
「ならいいけど…」
「あー!やっぱり妬いてるー」
「妬いてないって!」
……
「は!まただぁ~」
ローカル番組はエンディングを迎えていた。
(気がつくと涼一の事を考えてるなぁ…)
「はぁ」
「酔ったかなぁ」
ソファにもたれかかり スーパーで買ってしまったタバコを眺めた。それは涼一が吸っていたタバコだった。
「バカなの?私」
「もう…会いたいよぉ…」
律子はそのまま眠ってしまった。
閉じた目から涙がこぼれ落ちた。
ウィーン!
有線はクラシックが流れているが、ドリルの甲高い不愉快な音で掻き消されていた。
ピンクの壁紙は綺麗な曲線の模様が入っており目に優しく映り込む。
「斉藤さん」
「はい」
「このあと神経取るから準備して」
「わかりました」
肩まである髪を1つにまとめ、水色のナース服にエプロン、マスクをしている。両手は感染防止のオペ用手袋。律子の仕事スタイルだ。
「はーい渡辺さん、少し痛むと思いますので我慢せずに言って下さいね」
歯科衛生士も5年目に入ると慣れたものだ。
3年前、涼一と別れてからは仕事に没頭した。
「院長、お疲れ様でした」
「お疲れさん」
「今日も1日終わったなぁ」
帰りの車の中で律子は言った。
夕飯の買い物に行きつけのスーパーに立ち寄った。
(今日は肉じゃがにしよう)
野菜コーナーから精肉コーナーを回ってお酒のコーナーへカートを押して行った。
涼一と別れて3年になる。
別れて以来あまり地元には帰っていない。
なんだかんだはぐらかし帰省を渋ってきた。
母親から昨日も電話があった。
「律子、今度はいつ帰ってくる?たまには元気な顔を見せてね。」
「わかってるけど、仕事が忙しいから…」
「あまり無理しちゃダメよ」
「うん。ありがとう。もう切るよ」
申し訳ない気持ちで電話を切った。
「はぁ…」
「なーにやってんだか私は」
溜息も上手になった。
肉じゃがのいい匂いが部屋の中に広がる。サラダには和風ドレッシングを好んで使っていた。
「よし!できた」
炊飯器のランプが保温に変わったのを確認してビールをグラスに注いだ。勢いよく半分まで飲んで言った。
「あーあ、これじゃ完全にオヤジだね、肉じゃがつまみにしてビールなんて」
テレビはローカル番組が流れていた。
「つまんないなぁ…」
別れてから髪を伸ばしてみた。学生時代はショートだった。手入れが大変だったけど涼一が可愛いと言ってくれた。
(私ってバカだね)
「もう!あいつの事なんかどーでもいい!」
そう言ってグラスの残りを飲み干した。
◇◇◇
律子は結構モテていた。専門学生の時、何度か告白された事もあった。
「斉藤さん」
「はい?」
「俺と付き合ってくれない?」
「あーごめん、彼氏いるから」
そんなやりとりが何度かあった。居酒屋のバイト仲間の澤井隆にも告白された。
「律ちゃん、地元の彼氏となんか別れて俺と付き合ってよー」
「えー?本気で言ってるの??」
「当たり前じゃん!冗談ぽく言ってるけど、俺マジだから!」
少し間を置いて律子は言った。
「うーん。隆くんはカッコいいと思うけど、やっぱり無理かなぁ…」
「そんなにカッコいいの?彼氏」
「どーかなぁ、普通だと思う」
「じゃあ、エッチが凄いとか?」
「あのねー!バカなの?」
「すみません…」
(ふふっ、そういえば涼一がこっちにきてた時、隆くんと偶然スーパーで会ったんだよね)
「律ちゃん、何してんの?」
「ん?ああ、隆くん、買い物?」
「そう、バイト入る前に材料の買い足し。店長に頼まれてさー」
「店長そんなとこあるよね。でも隆くん、今日シフト入ってたっけ?」
「律ちゃんが休みだろ、それに藤田が風邪で、俺がヘルプ!シフトパンパン!」
「そうだったんだ。ごめんね隆くん。今日彼氏来てるからヘルプ無理なんだよね」
「この前言ってたあの彼氏?」
「そう…って、他に誰がいるのよ!」
「あの夜が凄い彼氏?妬けちゃうなー!」
「だからー!バカなの?」
「おーい律子ー」
「はーい」
「美味しいって言ってた酎ハイってこれだっけ?」
涼一が酎ハイを持ってふたりの前にやってきた。
「ん?」
「どうも」
隆が会釈した。
涼一はキョトンとしながら応えた。
「どうも」
律子は涼一に言った。
「バイト仲間の澤井くん」
隆には彼氏の涼一と紹介した。
「彼氏さん初めまして。澤井です」
「ど、どうも。初めまして前田です」
「律ちゃん、店はなんとかするから気にしなくていいからね。あっ!ヤバイ!急がないと、じゃあね」
「本当にごめんね、今度シフト替わるから、困った時は言ってね 、頑張って!」
「彼氏さん、どうも」
「どうも」
隆はレジを済ませ店を出て行った。律子は手を振って見送った。
「今日お店大変だったんだぁ」
律子が言った。
「でも、前から休み取ってたんだろ?」
「そうだけど…」
「で、あいつ何?」
「何って?隆くんの事?」
「隆って言うの?仲良さそうじゃん」
涼一は不機嫌そうな顔をして言った。
「だって、バイト一緒だし…」
「ふーん」
「え?何?涼一もしかして、妬いてる?」
「妬いてねーよ!」
「妬いてるよね?」
「そんな事ないって!」
「大丈夫だよ、だだのバイト仲間なんだから。何にもないよ」
「ならいいけど…」
「あー!やっぱり妬いてるー」
「妬いてないって!」
……
「は!まただぁ~」
ローカル番組はエンディングを迎えていた。
(気がつくと涼一の事を考えてるなぁ…)
「はぁ」
「酔ったかなぁ」
ソファにもたれかかり スーパーで買ってしまったタバコを眺めた。それは涼一が吸っていたタバコだった。
「バカなの?私」
「もう…会いたいよぉ…」
律子はそのまま眠ってしまった。
閉じた目から涙がこぼれ落ちた。
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