雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

9話 慕情

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「涼ちゃん、晩ごはん何食べたい?」

昼休み、涼一は里奈に誘われ、会社近くの公園で里奈の手作り弁当を食べていた。

「うーん。まだ昼だし、想像つかないな」

「あはは。そうだね。決まったらメールで教えてね!」

「うん」

里奈と付き合って2か月が過ぎていた。

夏の暑さはまだ残っているが、朝晩は過ごしやすくなっている。木陰のベンチは時折心地よい風が吹いていた。

「ねぇ、涼ちゃん。今日泊まってもいい?」

里奈がねだるように言った。

「いいけど、里奈は大丈夫なの?」

里奈は実家暮らしで外泊の時は事前に言わなければいけないらしい。両親が厳しいわけではなく心配するからと言っていた。

「私は大丈夫だよ。ちゃんと言ってきたから」

「そっか、じゃあDVDでも観る?」

「うん!」

「ご馳走様でした」

「お粗末様でした」

「いつも作ってくれてるけど大変じゃない?」

「大丈夫だよ、もともとお昼はお弁当作ってきてたし、涼ちゃんの作るのも楽しいんだよ」

里奈は涼一から受け取った弁当箱を片付けながら言った。

「そっか。ありがとう」

「いえいえ。あっ、そういえば今朝作ってたらお母さんがニヤニヤして聞いてきたの」


「里奈、彼氏できたの?」

「うん。今作ってるのが彼氏のだよ」

「へぇ、ちゃんと出来てるね」

里奈の母親は微笑んで言った。

「当たり前だよー頑張ったもん」

「彼氏カッコいい?」

「うん、すっごくカッコいいし、優しい人なんだよ」

「よかったね」

「うん!あっ 、この前私がお母さんの用事忘れてて急いで帰ってきた時に送ってくれた人」

「あー、あの時の」

「今度紹介するね!」

「それは楽しみ」


嬉しそうに里奈は話した。

「優しいお母さんだね」

「うん!」

里奈の笑顔が眩しかった。


「じゃあ、涼ちゃん午後もファイト!」

「ありがとう。里奈もね!」

「うん!」

総務部は1階の奥に、営業部は3階にある。

(午後の始業まであと10分あるな)

自販機でブラックコーヒーを買った。

ガチャン!

勢いよく落ちてくる。よく冷えているのか外気にあたると缶が汗をかいてくる。

カポッ!

プルタブを開けゴクリと喉の奥に流し込んだ。

(タバコ吸っとこう)

喫煙ルームは始業前で多かった。
モクモクと上がる煙を今にも壊れそうな換気扇が一生懸命に受け止めていた。

タバコ取り出し火をつけた。

「前田君」

顔を上げると部長の川内博史が立っていた。

「はい!お疲れ様です」

「吸い終わってからでいいから私の部屋まで来てくれ」

「はい」

そう言って川内は出ていった。

(ん?なんだ?何かトラブルでも?とりあえず吸っとこう…)

短くなったタバコを灰皿に押し付け火を消した。同時に始業のチャイムがなった。

コン!コン!コン!

ノックをしてから少し間が空いて川内の声がした。

「どうぞー」

「失礼します」

ゆっくりとドアを開けた。

「おお、前田君。まぁ座ってくれ」

「はい」

応接セットのソファに座ると、川内は書類の入った封筒を持って対面に深く座った。

「業務は順調かね?」

「はい、顧客の要望にお応えできるよう努力しています」

「そうか。来てもらったのはこの件なんだ」

封筒から書類を取り出し涼一に渡した。

「新規客だ。半年後から取引が始まる。うちにとっても申し分ない会社だ」

「はい」

涼一は息をのんだ。

「それで、担当を君にやってもらいたいんだが、どうだね?」

「え?私にですか?」

「そうだ。担当顧客もあって大変なのはわかるが是非やってもらいたい」

「はい…ですが部長、経験の浅い2年目の私にできるでしょか?ご迷惑をお掛けするかもしれません」

川内は微笑んで言った。

「前田君、仕事は社歴でするもんじゃない。知識や能力は経験して積み重ねていくものだ。未経験なら経験すればいいじゃないか」


川内の言葉には全てを包み込むような安心感があった。


「そうですね、是非やらせて下さい」

「そうか、わかった。期待してるぞ!」

「はい。ありがとうございます」

午後の仕事はいつになく充実していた。



「お疲れ様」

1時間の残業を終えるとロビーで里奈が待っていた。

「ごめんね、残業になってしまって」

「ううん、大丈夫」

里奈は笑顔だった。

「帰ろう」

「うん」

里奈の軽自動車で帰ることにした。

「何食べたいか決まった?」

「えーっと、シチューかな」

「オッケー、スーパー寄るね」


家に帰り着くと里奈はバックからエプロンを取り出した。

「ジャジャーン!エプロン持って来ちゃった」

水色のドット柄のエプロンだった。
ポケットからコンコルドを取り出し、髪を後ろにまとめながらくるりと巻き上げ手際よくとめた。
エプロンも似合っていたが、里奈のうなじに色気を感じた。

「ん?涼ちゃん?」

「ん?あーごめん、見とれてた。エプロン可愛いね」

「本当にー?嬉しい!待っててね、シチューすぐ作るから」

手慣れた感じだった。きっと母親譲りだろうと涼一は思った。

「涼ちゃん味見してー」

キッチンから声がした。

「はーい」

里奈が小皿を持ってきた。

「熱いから気をつけてね」

「うん」

「どう?」

「うん。美味いよ」

「よかったー!もう少しでできるからね」

「里奈」

「ん?キャッ!涼ちゃん…?」

涼一は里奈を抱きしめて、そのまま唇にキスをした。里奈からフローラルの香水が甘く香った。

「涼ちゃん大好き…」

照れながら微笑む里奈が言った。

「そんなに強く抱きしめられたら痛いよぉ…」

「あっ!ごめん」

「ううん、ありがとう涼ちゃん…」

「シチュー作っちゃうね!」

嬉しそうにキッチンに向かった。
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