雨上がりには

Two-dragon

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第一章 過去

12話 成就

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12月も中旬を過ぎ、吹き抜ける風はガラスのような透明感があり、その澄んだ空気は潔ささえ感じる。

休日。律子は街に出ていた。予定があったわけではなく、1人の時間を持て余してここにいる。洋服や雑貨、さまざまな装飾の店が並ぶ通りを歩きながらコートのポケットに手を入れた。

以前買ったタバコが入っている。

決して吸うことはなかったが、捨てることもしなかった。出かける前、なぜかタバコをポケットに入れた。

「はあ…」

タバコの自販機に涼一と同じタバコを探してしまう。

(嫌いだ…)

ブブー!ブブー!

バイブにしてある携帯が静かに揺れている 。

隆からだった。

「もしもし?」

「あ、律ちゃん、俺」

「うん、どうしたの?」

「いや、何もないけど、元気?」

「うん。元気だよ」

隆は初陣での律子の涙を心配しているようだった。

「律ちゃん、外?」

「そう。街に来てるよ」

「誰かと一緒かな?」

「ううん、1人だよ」

「本当に?」

「うん。何で?」

「いや、男かなぁ…なんて、ハハ…」

「そんなわけないでしょ?」

「律ちゃん、俺も今日休みなんだ。そっちに行ってもいい?」

「別にいいけど」

「やったー!すぐに行くから、帰っちゃダメだよ!」

「はい、はい、待ってるから」

隆と話すとなぜかホッとした。

30分程で隆がやってきた。

「お待たせー!」

隆は手を挙げ言った。

「はーい、この前はありがとう」

律子も小さく手を振り返した。

「律ちゃん、お腹すいてない?」

「そう言えば空いてるかも」

「よかった、ランチしよう!」

「オッケー」

2人が入ったパスタの店はランチメニューが2種類あった。注文したあと隆がポケットを探っている。

「どうしたの?」

「うん。ライターはあるんだけどタバコ落としたかも?」

「タバコならあるよ、はい」

ポケットからタバコを取り出した。

「えー!?律ちゃんタバコ吸ってるの?意外だな」

「吸うわけないじゃん!私がタバコ嫌いなの知ってるでしょ?周りが吸うのは気にしないけどさ」

「じゃあ、なんで持ってるの?」

「うーん。なんとなく?」

「変なの」

「うん…。そうかもね…」

「律ちゃんやっぱり元気ないね」

「そう?」

「律ちゃんと長い付き合いじゃん!律ちゃんの事なら何でも知ってるし、何でもわかる、夜以外はね!」

「なにそれー」

「本当は夜の律ちゃんを知りたかったけどな」

「バカなの?」

「あははは」

2人の笑い声が響いた。

美味しいランチだったと思うが、隆との会話に夢中で味はあまり覚えていない。

「律ちゃんこの後時間大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「夜までいいかな?行きたいとこあるんだ…」

「ん?いいけど、どこ?」

「あっ、エッチなとこじゃないから心配しないで!」

「もう!当たり前でしょ!」

「今日は車で来たの?」

「いや、バスだよ」

「じゃあ俺の車で行こう!帰りはちゃんと送るから」

「わかった」


隆は律子と同じ年で、初陣でのバイトは大学を卒業するまで続けていた。就職は製菓会社の営業に決まり、持ち前の明るさとチャラさ?を活かして頑張っているそうだ。律子が歯科医院に就職してからは忙しく連絡することもなかった。

「隆くん、なんか落ち着いたね」

隆の横顔を見ながら言った。

「そう?それを言うなら律ちゃんでしょう」

「え?私?」

「垢抜けてさドキドキしたもん。口元のホクロは前から色っぽいけど」

「ははは…それは喜んでいいのかな?このホクロは嫌だぁ」

「俺、前からウソは言わないでしょ?」

確かにそうだ、隆は馬鹿正直で思ってる事をすぐ口にする。裏表のない性格だし律子が気を使う事もなかった。

「そうだね、ありがとう」

「律ちゃん。彼氏できた?」

「ん?いないよ」

「えーっと、前田くんだっけ?前の彼氏。別れてだいぶ経つよね?」

「うん、3年…」

「連絡してるの?」

隆は聞きにくそうに言った。

「してない。できないよぉ…。振られたんだから」

「前田くんのこと今でも好きなの?」

「うーん。しばらくは引きずってた。でも今は…。どうだろう…。自分でもわかんないや」

「そっかぁ。何か勿体ない気がしてさぁ」

「ん?何が?」

「だって律ちゃんみたいな子がずっと1人なんてさ。すぐにでも彼氏できそうじゃん、昔からモテてたし」

「そんな時もあったけど…。今は無いかな」

「ん?もう!私のことばっかじゃーん。隆くんは?彼女いないの?」

「いるよ」

「へえ!どんな子?」

「大学の後輩だった子」

「そうなんだー」

「長いの?」

「えーっと2年くらいかな」

「かわいい?」

「そうだね、大学のミスコンで準グランプリだった」

「へぇー!すごいじゃん!そんな綺麗な子と付き合ってんだー、まぁ隆くん前からカッコよかったから釣り合いが取れてるんだろうなぁ」

「そうかなー?」

「そうだよー」

「釣り合いかぁ…」

隆はしばらく考え込んでいた。


とある街に着くと辺りはすっかり暗くなっていた。

「律ちゃん着いたよ」

「うん、ここは?」

「いいから、いいから」

時刻は19時25分だった。

「間に合って良かった。律ちゃんこっちだよ」

「うん」

街路樹がある薄暗い歩道を隆の後ろをついて歩いた。通りは若者が多く、ほとんどがカップルだった。

「律ちゃん大丈夫?逸れないでね」

「うん」

「はい!」

隆が手を差し出した。

「ん?」

「逸れるといけないから」

「あ、ありがとう」

手を取ろうとした時に隆から繋いできた。

「俺たち手を繋ぐの初めてだね」

隆とは長い付き合いだが手を繋いだのは当然初めてだった。

「そうだよね。なんか照れる」

「何を言ってんだか今更」

「だってー、手を繋ぐのなんて何年ぶりかなぁ?こんなとこ彼女が見たら誤解されちゃうかもね」

「いいんじゃない?」

隆は真剣な顔をしていた。

「ん?どういうこと?」

「別れてきたから」

「え?別れた?いつ?」

驚いた律子は言った。

「今日、律ちゃんに会う前に」

「どうして?」

「俺が律ちゃんを諦めきれないから」

「何?冗談でしょ?」

「だから、俺ウソは言わないでしょ?彼女にも正直に話して別れてきた」

「彼女は?なんて?」

「殴られた」

「もう!バカなの?」

「かもね」

隆は微笑んだ。


「ここがいいかな」

隆は立ち止まって律子の横に並んだ。繋いだ手はそのままになっていた。

3!2!1! 点灯ー!

「うわぁー!」

周りにいるカップル達がざわめいた。
暗い街路樹が一瞬にして光のトンネルに変わり、目の前に浮かび上がった。

「綺麗…」

律子は目を潤ませて眺めている。

「律ちゃんとここに来たかったんだ…」

「え?私と?」

「うん…。律ちゃん、ずっと好きでした。俺の彼女になって下さい」

律子の涙がこぼれ落ちた。

(なんだかんだ昔から、隆くんは私を見てくれていた。辛い時も悲しい時もいつも想っていてくれたんだ…)

隆と話すとなぜか落ち着いた。隆とは気を使わずに話せた。

(もういいよね、恋をしても…)

「隆くん …」

「はい」

「ありがとう…。あなたの彼女になります」

隆は笑顔で頷いた。

繋がれたままの手は温かく、目の前に広がる柔らかな光はふたりを優しく照らしていた。
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