地獄に落ちた男は鬼に叶わぬ恋をする~事件の謎と恋心~

宝者来価

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三話 恋心と地獄の鬼

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 地獄のオールドエデンという村へと抱えられてやってきた。
 木でできた家を与えられたが私はまだ歩くことすらままならない。
 結局は赤鬼の手で布団へと寝かせてもらう。

「温かい……」
「ここでお前に問う、今からの世話は俺がいいかそれとも天使がいいか」
「よくわかりませんが、赤鬼さんに世話を頼んでも罪に問われませんか?」
「罪にはならない」
「では赤鬼さんで」

 天使というものが何なのかは分からないが、それをえらぶと鬼と離れてしまう。
 今を生きる人間は私を嗤うだろうか。それとも嘆くのだろうか。知ったところで私の結論に変わりはない。

「これは地獄の法によって決められたことではないが、伝えておく」
「どのようなことにございましょうか?」
「鬼は1人の人間をツガイにはできない」

 最初から見透かされた言葉。分かっていたこと。鬼は人と共に生きてもただ1人を選ぶことは許されない。そして、許さない。

 鬼は人に罪を与える存在であり、一人だけを特別な扱いとして選べはしない。

「もう少しだけでもお傍にいてくださいませ」
「ああ、それもまた俺の仕事だ」

 羽のように軽いかけ布団に身体は包まれた。極楽には軽い衣があるとは伝え聞いたことはあれど地獄にもこのようなものが存在するのか。地獄とは今は名ばかりか。

「何と軽いのでしょう」
「羽毛布団という、鳥の羽を入れた布団だ」
「……罪には」
「ならん」

 鳥から羽を盗るおこないをして罪にならないのか。等活(とうかつ)地獄という動物をむやみに殺せば落ちる地獄、今はないのだろうか。

「等活地獄はどうなりましたか?」
「今もある、しかし生き物を殺して食べたものが落ちる瓮熟処(おうじゅくしょ)などはもう存在せず場所だけが歴史として残されている」
「それは一体何故なのでしょうか?」
「すべての獣は弱肉強食、自然界の摂理ゆえに人だけ罪とするのはおかしいだろうと」

 猫は鼠を、蜘蛛くもは蝶を喰らう。人間も同じこと。教えというのは本当に移ろうのですね。

「鬼の存在は変わることがないと信じています」
「明日になれば多くの人や鬼を知り始める、そして長い刑の者は……ほとんどの者がいつか消滅を選ぶ」
「それでも私に知れというなら喜んで」

 終わりが分かっているのになんと心地が良いのだろうか。檻の中などと比べる故か、こうも私は満ちている。粥の食事を口に運ばれ呑みこみ眠りについた。

「俺はアンタに消滅してほしくねぇ……それは本当だ、嘘など吐けん」

 翌朝の鳥たちの歌は目覚めに聞いいても素晴らしいもの。
 粥ばかりだったが今朝の食事は野菜だった。彩りが違う。
 すりつぶした紅い野菜は※人参というらしい。

 ※人参が日本に伝来したのは戦国~江戸時代初期。

「これも今の味なのですね」
「そろそろ人が訪ねてくるだろう」

 面妖な音が家に鳴る、ぴんぽん、言葉にするならこれだろうか。
 家に人があがってきた。少々奇抜な服だ。
 小柄な女性だったので赤鬼の親しい者かと怪訝な顔になる。

「僕は現代の閻魔大王を務めるものだよ、よろしくね」
「……だ、大王様!?」
「僕が君を裁くことはないから、安心して」

 赤鬼が正座をして頭をひくくしている。
 本当に閻魔様なのだろうが、今はこの――女性が閻魔様なのか。
 小さく女性、さすがに閻魔の名を持つのは重そうだ。

「鬼を渡すことは出来ずとも、君の望みをなるべく聞くためここへ赴いた」
「望み……ですか」
「極楽浄土に今すぐという者もなかにはいる、今は個人的な願いを尊重する時代だ」

 願いを申せとおっしゃるなら、閻魔様に本心を語らぬことなど罪。

「赤鬼様と、もうほんの少しでも暮らしたいと思っております」
「では閻魔大王の名においてナキに命ず、この者に力を貸しなさい」
「ナキ?」

 赤鬼さんの名前がナキというのだと明かしてくれた。
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