この学園には図書委員がいない!

空飛ぶ桂川

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春の風が吹いている。

桜が散りかけている木々を抜けて、校舎に向かう。

校舎の入り口にはクラスわけをするために沢山の名前が掲示板に貼りだされている。
「あ!一緒のクラスだよ!ねえ!」
「うわ・・・お前とクラス遠いなー・・・」
新入生達が掲示板を見て一喜一憂している。

俺はそんな感情にはなったりはしない。
わざわざ家から1時間以上もかかる高校に進学したため中学の同級生なんていやしないからだ。
別に中学時代浮いていたとかぼっちだったとかそういう理由ではない。
この高校に大きな図書室があると聞いたからだ。

ふと掲示板から目を外し左を見る。
校舎から少し離れた場所に大きな建物が見える。
「あれが図書室・・・」
独り言をつぶやき、掲示板に視線を戻す。
掲示板の1-B、上から6番目に〈車道 行介(くるまみち こうすけ)〉という名前を見つける。
自分の名前だ。

階段を上がり、1-Bと書いた教室に入る。
黒板には教室を簡易的に書いたものがあり、おそらく座席であろう四角い枠に各生徒の名前が書かれている。
廊下側、前から6番目、1番後ろの席に座る。

「お!君がコースケ君か!」
前に座っていた男子生徒が振り向き喋りだす。
「ん?そうだけど・・・君は?」
「俺は神沢 康介(かみさわ こうすけ)!いやさぁ・・・漢字は違うけど同じこうすけじゃん?しかも同じクラスで出席番号も前後なんてあっちゃ仲良くなるっきゃないじゃん?運命的なもの感じるじゃん?」
ショートヘアの爽やかな少年風の男子生徒はそう言うとニカッと笑う。
「男相手に運命なんて感じてたまるかよ。でもまあ、よろしくな。」
なんとなく第一印象だけど、悪い奴では無さそうだ。

のちにこの男がとんでもない事件を巻き起こすことになるのだが、それはまだ先の話になるので置いておこう。

入学式も終わって数日が経ち、クラスごとに委員を決めることになった。
様々な委員がある中、俺は図書委員を選んだ。
図書委員になれば放課後になるたび必ず図書室に入れるからだ。

俺が何故そんなにあの大きな図書室にこだわっているかというと、
俺はメガネが好きだ。
・・・この言い方だと語弊があるな。
俺はメガネをかけた女子が好きだ。
これはフェチを越えてもはや性癖と言ってもいいぐらいにメガネ女子が好きだ。

メガネ!メガネメガネ!メガネメガネメガネ!メガネメガネメガネメガネ!メガネメガネメガネメガネメガネ!

メガネ女子!!

女子という生き物は何故メガネをかけるだけであんなにも美しくなるのだろうか・・・というのを真剣に考えるあまり徹夜をしてしまった経験があるくらいメガネ女子が好きだ。

そして、あの大きな図書室・・・
あんなに大きな図書室ならきっと素敵なメガネ図書委員女子がいるに違いない!
と思ってこの高校への進学を決めたのだ。
図書委員はメガネをかけているものだ。
・・・この言い方も語弊があるな。
メガネをかけていなければ図書委員ではない!
そう!図書委員は絶対にメガネ女子なのだ!
夕日の照らす図書室の中、物憂げに座るメガネ図書委員女子・・・
そんなメガネ図書委員女子と恋に落ちる・・・
そんな目的・・・いや、目標を持って俺は図書委員になったのだった。

図書委員は2人1組となって日替わりで各組が持ちまわりで担当していくらしい。
初めての図書委員としての仕事の日、俺は自分と2人1組になった相手の名前を図書委員の名簿で確認した。

〈桜山 咲音〉
さくらやま・・・名前のほうはなんて読むんだろう・・・でもきっと可愛いメガネ女子に違いない。

気持ちを高ぶらせながら図書室に入る。

広い空間に沢山の本棚。
その本棚に整頓され並べられた沢山の本。
そしてその空間の真ん中に受付のようなものがあり、その受付に座る1人の少女。

薄いピンクの髪に白い肌、物憂げな表情・・・そして目には・・・
「メガネ・・・かけてない・・・!?」

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