俺の推しが幼馴染でアイドルでメンヘラ

ベポ田

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橙矢くんと今村くんの話

おい!鍵垢だって言ってるだろ!!!!!!

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『え、いまむーさん男性だったんですか』

将生くん推し活アカウントのフォロワー、『yu』さんからのdmだった。古参のフォロワーさんで、俺は彼が男性であることに薄々勘付いてはいたが、相手は俺がヤロウであるということを知らなかったようだった。
女性比率が多いこの世界で、どうしても俺らのような層は少数派になってしまう。今まで散々投げかけられて来た『出会い厨』『ヤリモク』『転売ヤー』なんていうとんでもない濡れ衣ワードは、悲しいかな、全く根拠のない言葉ではない。確かにこの界隈には、ファンに擬態したそういうクソマッシュヘアーが、一定数存在するのである。
…………だったらなんだ。どんな感情の文面なんだそれ。出会い厨だったんか?ヤリモクだったんか?将生くんをダシにして、女釣ってるつもりだったんか?どうやら俺たちの友情もこれまでのようだな、yuさんよ。
だからこそ、警戒心に眉を寄せてしまうのも仕方無い話であって。

『今度、一緒にショップ行きません?』

脳内で、妖怪ヤリモクマッシュヘアーをボコボコにしていた俺は手を止める。手を止めて、代わりに目を見開いた。

それが1週間前。二つ返事でその誘いを快諾したのも1週間前。先刻も述べたが、男は何かと肩身の狭い界隈だ。男1人でショップに入る勇気を持てなかった俺にとっては、降って湧いたような誘いであったし、何より、同じ趣味を持った同性の友達ができるチャンスである。
なのに、

「イ、イモすぎんだろ……」
「も、桃瀬侑すぎんだろ……」

待ち合わせ場所に現れた男に、目を擦る。
あちらはあちらで、俺のあまりのイモさに目を擦っている。そんな目を疑うほど目新しいイモでも無いだろ、俺は。そこらへんにゴロゴロいるレベルだわ。

「じゃなくてェ!」

眩しい金髪に、二重幅の広い、とびきりのベビーフェイス。そしてそれに似合わぬとびきりのハスキー低音ボイス。
キャップで隠れている分わかりにくいが、俺が──常日頃、食い入るように彼らを見続けている、この俺が見間違えるわけもない。
こいつは…!

「や、やっぱり桃瀬ゆ……」
「バカ声がデケぇんだよイモ!」

敬語はどうした敬語は!こいつ俺をイモ認定するなり敬語をかなぐり捨てやがった!これだから、最近の、わ、若者は……!!
俺の心を傷つけたソイツは、無駄にデケぇ手で口を塞いでくる。何こいつ。体格はちょっと俺より大きいくらいなのに、めちゃくちゃ力強い。
…………身長176センチ、体重69キロ、血液型B型。そして、メンバーカラーは名前の通り桃色。可愛い見た目に反した、ワイルドな性格とパフォーマンスが人気のギャップモンスター。月9とかにも出てる将生くんの信奉者、第一線を走り続ける将生担。
そう、あの桃瀬侑くんである。
推しの同僚が、何故か推し活アカウントの相互だった件について。
コテコテのラノベかな?


桃瀬くんが橙矢くんを尊敬しているのは有名な話だ。ファンにとっても周知の事実。『将生くん担の代弁者(笑)』なんて通り名が、ファンの間で罷り通っている。

「けれどまさかここまでとは」
「……何?」
「桃瀬くんが、よもやここまでガチの将生くん担とは」
「あ、喧嘩売ってんのか?俺の愛が適当なキャラ付けだって言いてぇのか?俺の橙矢くんへの愛が?」
「い、いやそこまでは言ってない……」
「下積み時代から見つめ続けた憧れの人と何の因果か同じグループに放り込まれ日々感じるファンとしての罪悪感烏滸がましさその他諸々の邪念と推しの期待に答えたいというプロ意識にどうにか折り合いをつけ葛藤を続けるこの一途で誠実なファンの愛をいま否定したか?」
「ごめんなさい!俺が軽率でしたごめんなさい!」

驚くことにノンブレス。そして瞳孔が開ききってやがる。怖すぎる。
大通りの真ん中で叫べば、また「声がでけえ!」と頭を掴まれる。人の頭をあんまりそんなふうに掴まない方が良いと思う。
yuさん……もとい桃瀬くんは、どうやら本当にショップに行きたかっただけらしい。身内なんだから、そんなんいくらでも手に入るでしょ……と言えば、あの大きな目でギョロリと睨まれた。『馬鹿野郎お前それでも橙矢くんファンか?』『同担の皆さんに顔向けできないだろうが!』。
正論である。
将生くんファンとして、あまりに正常な倫理観だ。将生くんのチームメンバーであるという時点で、どうしようもない狂人でしかないのだが。彼と話しているとなんかこう、自分の中の大事な軸がブレる気がする。俺がおかしいんか?
混乱する俺の前をガニ股で歩きながら、桃瀬くんは「いまむーさんよぉ」と唸る。いまむーさんとは、今村颯真こと俺のハンドルネームである。

「……俺はよぉ、同担としてアンタを尊敬してたんだぜぇ?」
「いやだ……桃瀬くんの顔でそんなチンピラみたいな喋り方しないで……」
「橙矢くんのこと真剣に応援してるのは伝わってくるし、ライブやら映画のレポに至っては、そこらの下手なライターより理解のある文章を書きやがる」
「そうじゃん、え、なに?推しの身内が俺の鍵垢にずっといたってこと?なにスッと潜り込んでるの?」

それなんてホラーですか?
今更になって直面した当たり前の事実に、血の気が引いていく。変なこと言ってなかったよな。言ってせいぜい、「将生くんもみあげ!」「認知してよ、アタシのお腹の子を」「橙矢将生は5人居る」くらいだった気がする。いやだめだ、全然キショい。アウト寄りのアウトだ。頼む、今すぐ鍵垢の言動を遡らせてくれ、頼む。

「……いまむーよぉ、橙矢くんはな、この世に5つと無い唯一の宝なんだよ」

こいつ怖すぎ。
桃瀬くんが怖すぎて地面を見つめながら歩いていた俺は、桃瀬くんの背にぶつかって立ち止まる。急に立ち止まるなよ、なんて苛立ちと共に顔を上げて、そして思わず目を瞬く。

「…………ここって、」

そこに聳立していたのは、ショップでもなんでもなく、小洒落たメンズファッション店だった。首を傾げれば、桃瀬くんはしたり顔でフンと鼻を鳴らす。非常に腹立たしい。まるで「お前のようなイモ男は来たことなくて当然だよな」とでも言いたげな顔である。

「お前のようなイモ男は来たことなくて当然だよな」
「一言一句違わず……」
「あ?」
「こっちの話……それより、一体なんのつもりで」

言葉を遮るように、ずい、と端正な相貌が目の前に迫る。鼻が高い。この距離でも毛穴が見えない。DQNみてぇな中身をしていたとしても、ガワはしっかりとアイドルである。鼻腔を撫でるムスクの香りに目を見開けば、桃瀬くんは薄笑いを浮かべた。

「橙矢くんのネームドファンいまむーさんが、こーんなイモだなんて。……許せねぇよなぁ?」
「いや、ネームドではないです…鍵垢だって言ってんだろ……」
「お前そのナリで、胸張って橙矢くんのファンを名乗れるのか?」
「…………」
「『僕は橙矢担です』ってプラカード首から下げて、新宿の街を歩けるか?」
「…………」
「赤峰、青野、そして桃瀬担の前で、橙矢くんの生写真買えるんか?」
「は、恥晒しだ……!」

そんなん、指差して笑われるぞ!!
あまりのイモさに他担から「やべェファンついてるじゃーん(笑)」「なんか橙矢担レベル低くね(笑)」と鼻で笑われ、同担に「面汚しが!」と蔑まれ。小さく丸めた背中で将生くんグッズをぎゅッと抱きしめ、自分の靴だけを見つめながら物販の列に並ぶ。
脳内を一瞬で駆け巡った存在しない記憶に、胸が締め付けられる。
顔を覆った俺の肩に、「わかってんじゃねえか」と桃瀬くんが腕を回してくる。ゴミ袋でも身体に巻きつけている気分である。今すぐにでも全裸になりたいと思った。

「桃瀬くんしか勝たんって叫びながら走り回ろうかな……」
「それだけはやめろ」

本気で怯えた顔をする桃瀬くん。少し気持ちが良い。フフンと笑えば、ヘッドロックをかけられたまま店に引き摺り込まれた。
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