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幼馴染は○○○
悪の総統は遅れて来る
しおりを挟むトップヒーローが対面するなり下した、『援軍が必要だ』という判断は正しかった。
水分を吸って際限なく膨張・増殖する肉の塊は、瞬く間に空間内を隙間なく埋め尽くした。
救援を呼びに走りだす間もなく、春近は手足を再び絡め取られる。そして、「手に負えない」と弱音を吐く割に善戦していたレオンも、春近が捕獲されたことで劣勢を強いられていく。
一般人を庇いながら相手にするには、あまりに手数が多すぎた。
そしてついに得物を奪われ、「間合いが!間合いが悪いよ!」と自らと同様触手に拘束されたヒーローに、春近の背を嫌な汗が伝う。
自分が襲われることは幾度もあったが、自分に巻き込まれる形で誰かが被害を被っている現状は、春近にとってあまりにも耐え難く。
「おい、バケモノ!」
気付けば、そんな言葉が零れていた。
触手はピタリと動きを止める。昨晩もそうだった。
やはりこの触手は人の言葉を理解することができるのだ。
脚から宙吊りにされた状態で、レオンが困惑を表情で訴えてくる。
その視線に、ただ引き攣った表情で頷いて、春近は再び眦を決した。
「お前の目的は、どうせ俺をブチ犯すことなんだろうが」
「気でも狂ったかガキ!」
「なら、関係ない人は解放しろよ」
喉が引き攣る。今更ながら、自らの蛮勇が憎らしくなってくる。
それでも、一縷の望みに縋るように口を開く。
…………大丈夫、きっと自分なら、命まではとられない。
…………だって、今までもずっとそうだったのだから。
自然と溢れてきた涙が、湿った床を叩いて。
「俺は抵抗しない、お前の好きにして良いから。だ、だから──────、」
「──────はるちかぁー?」
不意に響いた聞き覚えのある声に、今度こそ春近は言葉を失う。
最悪のタイミングで、最悪の幻聴を聞いたのかと思った。けれど、確かに近付いてくる一人分の足音に、それが幻聴でもなんでもないことを嫌でも理解させられる。
「はるちかぁ。ウンコ終わったぁ?」
「…………だめだ、」
「はるちか、はるちかってばぁ──────」
もはや春近の相貌は、蒼白だった。
目の前が真っ暗になるような錯覚を覚えつつ、何かしら叫ぼうと開いた口に、触手がねじ込まれる。
無邪気で無防備な声と共に、等間隔の足音がすぐそこに迫って。
「──────あんまりおそいから、心配で来ちゃったよ」
入口から入り込んでくる人影を見た、と同時に。
ぱん。
乾いた音が、不愉快な水音を遮る。
「は?…………ぎゃぁっ!」
春近は、素っ頓狂な悲鳴をあげて地面に投げ出されていた。
春近を捕らえていた触手が、突如として四散したからだ。状況を理解する間もなく、脳が揺れるような衝撃と共に春近の意識は途切れる。
「…………春近」
触手に開いた風穴の向こうからは、ぎらぎらと赤色に光る双眸が覗いていた。
そしてそれは、後頭部を強打して気絶した春近を、黒々とした瞳孔で、食い入るように見つめていて。
足音に呼応するように、生き残った触手が青年の周りからざわざわと引いていく。
その挙動にはどこか、主人に傅く臣下のような従順さがあった。
「たすけに、きたよぉ」
どこぞの国の逸話のように、触手の波を搔き分け現れたのは、痩躯の青年だった。
透けるような白肌に、ピジョンブラッドの冷たい瞳。細い金髪が、安っぽい光すら上品に反射してキラキラ輝く。
ありがちな学ランでしかなかったが、しなやかな肢体に嵌まったそれはどこぞの国の正装と言われても遜色はない。ただそこに佇んでいるだけで、青年の存在は浮世離れした凄みを伴っている。
そして長い脚を折っては、倒れ伏す春近の隣にしゃがみ込んで。
「ねえ。ねぇ、ねえってば。はるちか、はるちか、はるちかーー?は・る・ち・かぁ~~?……起きてる?」
「はぁっ!ひ、ひか、ヴッ…………!」
覚醒しかけた春近の側頭部を、青年──光はノータイムで張り飛ばす。
「……………………グゥ」
「うんうん、ぐっすり寝てるね」
グルングルンと三回転して、再び昏倒した肢体を抱き留める。
自分の腕の中で安らかに寝息を立てる、無防備な寝顔に赤目を細めて。
「ううううううううーーーーーーー!!!!!」
次の瞬間、光は儚げな美貌を鼻水と涙でぐちゃぐちゃにしながら、泣き叫んだ。
薄い胸に相貌を埋めるようにしてえずき、骨が軋むような力で春近の身体を抱きしめる。
「ごめんなさい、ごえんなさいいいいい……映画とか見てる場合じゃなかったよ、ごめんね、怖かったよね」
「ああああ俺が!俺が、ど、童貞ムッツリスケベ野郎なせいでまたこんな目に……!」
乱心する光を窺うように、触手が控えめに近付いてくる。
光はその気配に気付くや否や、嗚咽を止め、冷ややかに足元のそれを睥睨した。
「……お前は、何だ?何の意味があって生まれて、誰の許しがあってこの子に無体を働いている?」
「…………ェポ……」
「俺の望みのためだと?ああそう、なるほど。なら消えろ。俺の望みに服従するというのなら、二度と許しなく人里に下りるなよ」
ぶるぶる震えては、ついに全身から謎の粘液をポロポロ流し始める触手。
そんないたわしい挙動からさっさと目を逸らし、白い額に張り付いた黒髪を優しく指先で払う。
「うう…」と呻いた拍子に、水晶みたいな大粒の涙が、まつ毛をしならせては零れ落ちて。
「はるちかぁ…………ごめん、ごめんよぉ、」
────好きでごめん。
嗚咽を漏らす美青年の股間は、ちゃんとモッコリ反応していた。
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