変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話

ベポ田

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不穏な方のII型だ! 上

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中間考査が終わり、校内の空気は本格的に文化祭一色に塗り替わる。
 俺のクラスもまた、勉強会や虎の巻が功を奏したのか、このころには、半数以上の生徒が準備に励んでいて。
「睫毛今日バサバサじゃん。もしかして勧めたピーラー使ってくれた?」
「これは下地変えたからだね。でもピーラーも買ったよ。めっちゃジャガイモの皮剝いた」
「ピーラーの話かビューラーの話かはっきりしてくれ!……じゃなくって!手も動かせ、綿井、飴村!」
「委員長~、こっち終わったけど何か手伝うことある?おれ声帯模写とかならできるけど」
「亀山。丁度良い、調味料開発班に人手が足りてない。真戸が主任なので、彼に声を掛けて…………せ、声帯模写……?」
 初期に比べて、とりわけβ連中は協力的だ。こういった機に、クラスメイト一人一人の個性や強みを知る事ができるのはありがたい。
何よりβの強みとは、その圧倒的な数の多さ。こうして一致団結することは、種としての生存戦略から見ても理にかなっていると言えて。
現に個としての発言権こそ、αや有力な後ろ盾を持つΩには劣るものの、多数派であるβの団結感は、確かにクラス内の空気を支配しつつあった。
ゆえに。
「おい、いい加減にしろよ」
 ゆえにである。
 鋭く響いた怒声に、口元が引き攣る。胸を占めるのは、「ついに来たか」という焦燥だけだった。
 水を打ったように静まり返る空間。
 クラス内の視線を一身に集めながら対峙するのは、男子生徒二人だった。一方は、β。一際熱心に準備に取り組んでくれていた生徒だ。
 今にも嚙みつきそうな形相で、「もういっぺん言ってみろ」と唸る。
「やけん。僕らみたいな部活生には、学祭もハクサイも無いとって」
 対して詰めようられた生徒は、半笑いのままそんな返答をする。
 この空気感のなかで、少数────準備に参加しようとしない層は殊更目につくものだ。
学祭の準備も大詰めに入った今、少しずつ積もっていた不満が爆発するのも、時間の問題と言えた。
故にβ生徒のそれは、真っ当な怒りに違いない。だが、まずいのはその相手だ。
「Ⅱ型だからって調子乗ってんなよ」
 『Ⅱ型』と。
 その言葉に、青年の薄笑みが消える。彫像じみた美しい相貌が色を失うのと同時に、教室内の空気がにわかに張りつめる。
青年──愛宕は、αのⅡ型だった。
容姿に恵まれ、知能に恵まれ。そして何より、身体能力は群を抜いていた。ただでさえ強豪と名高い当校の剣道部。そのなかでも抜きんでた実力を誇り、中体連では、惜しくもαⅠ型に破れたものの、全国の決勝にまで駒を進めた。
「…………そうだよ」
 顎を引き、愛宕は敵意に濁った眼でクラスメイトを睨め上げた。
「『最優秀展示賞』?やっけ。それ、正直僕にとってはど~でも良いんよな」
「…………はぁ?」
「やけん、君たちは皆で仲良く準備頑張ったら良いやん。内申にもなるんやろ。ただ僕をそこに巻きこむなっちゅー話で」
「…………」
「わからん?わからんか。ならはっきり言けど」
 思い出したように佩かれた薄笑みに、不釣り合いな低い声で唸る。
「ヌルい青春ごっこしとる暇ないんよ、僕」
「黙って聞いてりゃ────!」
 叫び、胸倉に掴みかかる。対して愛宕は、態勢の一つも崩さずにクラスメイトをただ冷ややかに見下ろすだけで。
 臨界点。潮時だ。
 溜息を嚙み殺しては足を踏み出すと、左肩に負荷がかかる。
「ひろとぉ」
「…………なんだ」
「おれトイレ行きたぁい」
「行って来れば良いだろうが」
「付いてきてくれないの?」
 ギョッと振り返れば、案の定原が俺の肩にもたれかかってきていて。
餅のように頬を膨らませた緩い表情とは裏腹に、俺の手首を掴んだ力は、思わず声を上げるほどに強い。
「お、おい原…………」
「ねートイレいこ。トイレトイレトイレトイレ」
「離せぇぇ…………」
「漏れちゃう~~」
 嘘だろ。まじでこいつびくともしねぇ。成人前男性の全力の抵抗だぞ。手足をバタつかせるも、ズルズルと引き摺られる。毛布か枕にでもなったような気分だ。
「原────、」
同時だった。
ずん、と。ぬるい空気が、途端に質量を増したような。そんな異様な息苦しさに、肩が揺れる。
「『グレア』…………」
 誰かの呟きが聞こえるころには、咄嗟に鼻と口を覆っていた。
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