歌うしか能がないと言われてダンジョン置き去りにされた俺、ギフト『歌声魅了』で魔物を弱体化していた!本来の力が目覚め最強へ至る

綾森れん

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Ⅲ、ルーピ伯爵家主催の魔術剣大会

24、ラーニョ・バルバロ伯爵の謎

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<ラーニョ・バルバロ氏が「魔石救世アカデミー」で治療を受け一命をとりとめてから、騎士団の中でたびたび行方不明者が出るようになりました。被害者の共通点は、かつてラーニョ氏が病弱だったころに彼をさげすんでいた者たち。私も魔術顧問として捜査に協力しましたが、誰もが忽然こつぜんと姿を消しているのです。

 騎士団の下っ端たちの間では、「騎士団長に恨まれると喰われるぞ」などと根拠のないうわさ話がささやかれていましたが、物的証拠がない以上、由緒ある伯爵家の当主でもあるラーニョ氏に嫌疑をかけることはできません。

 しかしバルバロ家の弟たちが結託し、長男から家督を奪うため調査を始めたのです。私はこのころ我慢が限界に達し、政治的な謀略がうずまく騎士団を去りました。皇帝陛下が代替わりしたことで、かねてより願い出ていた解任を聞き入れてもらえたのです。

 結局バルバロ家の弟たちは、長男であるラーニョ氏が「魔石救世アカデミー」に多額の寄付をし伯爵家の財政を傾けたこと、アカデミーでの活動に専心するあまり騎士団長としての責務をおろそかにしたことなどを理由に、彼から家督と騎士団長の座を奪いました。

 しかし私が騎士団で魔術顧問を務めていた十五年間、ラーニョ氏が騎士団長の仕事をおろそかにしたと感じたことはありませんし、バルバロ家の財政が危ないという話も聞いたことがありません。

 今回かつての同僚たちに尋ねたところ、表向きの理由はこじつけで、バルバロ家の弟たちは何か恐ろしい事実を知ったのだろうと憶測していました。が、第一皇子が魔石救世アカデミーの外部理事を務められているため、アカデミーに関わる話をこれ以上嗅ぎまわることはできませんでした>

 レモが四枚目の便箋をめくる。師匠の長い手紙を読み疲れた俺は目頭を片手で押さえながら、

「第一皇子って皇帝の息子だよな? なんかやばそうな団体の理事なんだな」

「貴族が芸術や学問を支援したり、学術研究グループに参加すること自体は、普通のことなんだけどね」

「そうなんだ」

 貴族の世界ってのがよく分からねえ。

「ジュキに興味のありそうな話だと――百年以上前になるけど、帝都のある伯爵が音楽家や詩人や歴史学者を集めて、古代の音楽劇を研究して再現上演しようとしたりね」

「へえ。なかなかロマンをかき立てられる話だな」

「でしょ? 私も画家や音楽家のパトロンになりたいなんて思ってたもん」

「レモならなれそうだよ。才能ある芸術家が見つかるといいな」

「もう、見つけちゃったもん」

 レモがいきなり俺の腕に抱きついてきた。いたずらっぽいまなざしで見上げ、

「ねっ、私のお気に入りの歌手さん」

 不意打ちで頬にキスしてきた。うわわわっ! びっくりするやらうれしいやらで思考が止まる。

「さぁ続き続き」

 自分から仕掛けたのにレモは耳まで赤くなって、手紙に視線を落とした。彼女をふわっと抱き寄せるようにして、俺も便箋に目を通す。

<「魔石救世アカデミー」は学術研究団体ですが、その中核をなす思想は、

「死後、異界の神々のもとへ行くまで幸せになるのを待つ必要はない。魔石の力を使えば現世で幸せになれる。なんでも願いが叶う。一人一人がこの世で幸せになることが、この世界を救うのだ。目覚めた人から幸せになり、私たちの世界を良くしていきましょう」

 というもの。聖魔法教会から目を付けられないよう学術団体をよそおっているだけで、その実態は宗教に近いものだと考えています>

「死後の話を始める学術団体か」

 苦笑する俺に、レモが解説をはさんでくれる。

「聖魔法教会の教えは、日々つつましく暮らしていれば死後、異界の神々のもとへ招かれて何不自由ない満ち足りた来世が待っているっていうものだから、明らかに対抗してるわよね」

<団体の創立者で代表を務めるラピースラ・アッズーリについてですが、瑠璃色の髪をした若い女性ということしか分かりませんでした>

「若いのか?」

あやしい力で歳をとらないんじゃない? ロベリア叔母様の身体を借りているなら、若くはないわよね」

「ロジーナ夫人の妹さんだもんなぁ」

 レモの母親であるアルバ公爵夫人の名が、ロジーナさんである。

<ラピースラ・アッズーリは団体幹部の前にしか姿をあらわさず、アカデミーの主たる活動は幹部たちによって支えられているようです。ラーニョ・バルバロ氏は、そうした有力幹部の一人とのこと。幹部たちは皆、魔石の恩恵によって願いを叶え、人知を超えた力を手にしているとか。魔石で願いが叶うなんて荒唐無稽こうとうむけいな話を信じるかどうかはレモさんにお任せします>

「魔石なんて俺にとっちゃあ、ダンジョンでモンスター倒したらドロップするイメージしかねえなぁ」

「私は魔道具にセットしたら使えるようになるってイメージね」

 それまで向かいのソファでビスケットを頬張るのに夢中だったユリアが、ぽろっともらした。

「じゃあ人間にセットしたら、使える人間になるのかなぁ?」

 なにそれ怖い。

 だが魔術剣大会において俺たちは、魔石の力を借りて人知を超えた能力を披露するラーニョ・バルバロ元伯爵をの当たりにするのだった。



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次話はご存知、大人気イーヴォが再登場です!!

持って回った言い回しをする師匠の手紙がめんどくさかったからと言ってここで去らずに、しおりをはさんでお待ちいただけたら嬉しいです。
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