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Ⅲ、二人の皇子

41、亜空間から脱出できるのか!?

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「亜空間を作る魔法が禁じられてるのに、ここから出る魔法なんてあるのか?」

「あるわよ」

 レモは即答した。

「確実にあるのよ。じゃなかったら皇子は、モンスターを放ったりしない。私たちを亜空間に閉じ込めるだけで充分だったはずよ」

 亜空間から出てくるのを防ぐため、魔獣と一緒に閉じ込めたってわけか。

「とりあえず下に降りるか。――海水よ、在りし場所に帰りたまえ」

 海は一瞬にして消えた。眼下に残されたのは濡れそぼったスキュラの死体と、海水に濡れて光るユリアの戦斧バトルアックス

 地面でもなんでもない亜空間の底に降り立つと同時に、ユリアが目を覚ました。

「クンクン、なんか磯の香りがする。クラーケンの墨壺まっくろパスタが食べたくなってきたな」

 寝ぼけて食いもんの話をするユリアは無視して、俺はスキュラの死体に向かった。

てつけ」

「これでようやく、アカデミーが危険なモンスターを作っている証拠を持って帰れるわね」

「ここから出られればな」

 不安を払拭できない俺は、つい暗い声を出す。ユリアを振り返り、

「あんたの高性能な亜空間収納バッグに、このモンスター入る?」

「もっちろーん! ルーピ伯爵家ご用達バッグだもん!」

 ユリアは先のことなど何も気にしていない様子。

「ジュキ、心配しないで」

 レモが優しく俺の腕をなでてくれた。

「私のギフトがなんだか覚えているでしょ?」

風魔法アリアと――」

 いつも風魔法ばかり使っているから、こちらは忘れるわけがない。

魔術創作クリエイションよ」

 そうだった。今からここで、亜空間を破る魔術を新たに考え出すってことか。

「でも魔術書もなしにできるのか?」

「ハンドブックだけはいつも持ち歩いてるの」

 レモは亜空間収納になっていると思われる小さなポシェットから、「上級魔術ハンドブック」を取り出した。

「皇子の使った『亜空間展開ハイパースペース』は禁術だけど、亜空間自体は魔道具として身近なものよ」

 レモは俺を安心させるようなほほ笑みを浮かべて、ポシェットを目の前にかかげて見せた。

「禁止されていない術式どうしを組み合わせるんだな?」

 俺が納得すると、

「その通り。しかも空間魔法は風魔法の上位魔術。私の得意分野よ!」

 レモはウインクするとその場に座り込み、貴族令嬢というより魔術研究に人生を捧げる魔法オタクみたいなオーラを放ちながら、ハンドブックのページをめくり始めた。

「ジュキくん、レモせんぱいに任せておけば平気平気。こっちで一緒におやつ食べよう」

 ちょいちょいと俺を手招きするユリア。

「ユリア、食べ物はとっておいたほうがいいんじゃないか?」

 あとどれくらい、ここに閉じ込められているか分からないのだ。

「だいじょぶだよ。いっぱいあるから」

「でもあんた、いっぱい食うじゃん」

「えー、今倒したモンスターはすごく大きかったから、平気だよ?」

 いや、ちょっと待て。

「スキュラ、上半身ヒトガタだったじゃん!? しかもあんた狼人ワーウルフ族なのに、犬っぽい魔物食うの抵抗ないのか!?」

「ジュキくん、果物だって野菜だって命だよ。わたしたちは色んな命をいただいて生きているんだ」

 一見いいこと言って丸め込みにかかってる!?

「できた――かも」

 レモの声に振り返ると、小さな手帳にこまごまと呪文を書き込んでいる。

「マジで!?」

「うまく行くかまだ分からないわ。二人とも私のそばへ」

 俺はもぐもぐしているユリアを引っ張っていく。二人を守るように水の結界を展開しつつ、レモのとなりに立った。もとの空間に戻ったら目の前に皇子がいて、いきなり攻撃してくる可能性だってあるのだ。

聞け、風の精センティ・シルフィードくうべるぬしよ。我らつどいしこの場はかりそめなるもの」

 レモは空間魔法の印を結んで、できたてほやほやの呪文を唱える。

あやしなるさかい破りて我らが身、うつつへ転じたまえ。亜空間消滅リアルリターン!」

 白い光が弧を描いてレモの両手から舞い上がる。原色の絵の具が混ざりあったかのような霧がすぅっと薄くなり、切れ目が生じた。

「あっ、さっきの応接間!」

 俺は思わず指さした。


 ─ * ─


亜空間から抜け出せるのか!?
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