145 / 191
Ⅲ、二人の皇子
42、聖剣アリルミナス、空間さえも斬り開く
しおりを挟む
「あっ、さっきの応接間!」
俺は思わず指さした。だが一瞬もとの世界を見せただけで、そのすき間は閉じてしまった。
「だめかーっ!」
レモが頭を抱える。
「術式に間違ったところはないと思うんだけど……私の魔力が足りないのかな!?」
「俺が唱えてみようか?」
「そうね――」
レモが俺に手帳を渡そうとすると、ユリアが戦斧をぶんぶんと振り回しながら、
「じゃあわたしは細い切れ目をぶん殴って広げる役目ね!」
「いや、物理的にぶん殴れるもんじゃないだろ……」
冷静に突っ込む俺。
「――あ」
レモが小さな声を上げた。
「ジュキの精霊力をこめた聖剣アリルミナスなら、あるいは――」
「そうか! 悪しきもののみを斬る聖剣なら、空間をねじまげて作った不自然な境界を断ち切れるかもしれねえ!」
「呪文を書き換えるから待って! 聖剣に空間魔法を乗せられるようにするの」
レモはまた座り込んで、ハンドブック片手に集中しだした。
手持ち無沙汰になった俺は、ユリアを振り返る。
「レモはすごいな。魔術の知識が豊富で」
「そうだよーっ」
ユリアは我がことのように胸を張る。
「レモせんぱいは『現代の賢者の一番弟子』って言われてるんだから!」
「セラフィーニ師匠か。一見、気のいいおっさんにしか見えねえけど、すごいんだよな」
俺はまだ彼の実力を見たことがない。
「俺たちが今倒したスキュラなんかも一発だったり?」
「まさか」
ユリアが真顔で答えた。
「え?」
訊き返した俺に、
「お師匠さまは戦わないもん。安全なところで頭をひねるお仕事」
軍師的ポジションってことか。
「お師匠さまはね、魔力量はレモせんぱいの四分の一、体力はわたしの十分の一、頭いいのだけが取り柄」
「ま、賢者だしな」
そもそもレモの魔力量は人族としては異常値だし、ユリアの力もまったく常識が通じない。比較対象が間違っている気がする。
「今度こそできたわ!」
レモが自信たっぷりな様子で、俺に手帳を見せた。
「分からないところがあったら言って」
魔術は呪文を唱えるだけでは発動しない。その意味を理解し、イメージできることが大切だ。俺はレモ手書きの呪文に視線を走らせながら、
「風の精霊に呼びかけて空間魔法を発動させて、聖剣にまとわせるんだな?」
「その通りよ! ジュキって頭も良くてかっこいい!」
レモが抱きついて来た。興味のないことについては何も理解できないタイプだから、別に頭が良いほうではないと思う。でもレモが褒めてくれるのは、うれしい。
「よし、覚えた!」
俺は手帳をレモに返し、聖剣を抜いた。
目の前に剣を構え、呼吸を整える。精神を集中させ、へその下あたりに熱いエネルギーのかたまりを感じる。それが胸へと上がり、両腕を通して聖剣へ流れ込んでゆくのをイメージする。
「聞け、風の精、空を統べる主よ。聖なる剣へ宿りたまえ」
呪文を唱え始めると、それまで無風だった亜空間の空気が、ゆらりと動いた。
「我ら集いしこの場はかりそめなるもの――」
風の精霊たちが聖剣に宿り始めたのか、刀身が新緑を映し込んだような若草色に輝きだす。
「穢れなき刃にて奇しなる境斬り裂きて、我らが身、現へ転じたまえ!」
まばゆい光を放つ聖剣を、俺は何もない空間に向けた。
「亜空間消滅!」
言葉と同時に聖剣を一閃すると、空間に一筋の裂け目が現れた!
「ユリア、こじ開けまーっす!」
右手を挙げて走り出てきたユリアが、空間の裂け目に両腕を突っ込んだ!
「嘘だろ!?」
「物理的にさわれるわけ――」
レモの言葉が終わらぬうちに、
「ふんぎゃぁぁぁ!」
ユリアがかけ声とともに、空間の切れ目を広げた!
「レモ、飛び出せ!」
「ジュキも!」
現実空間に片足を出して、レモが俺の手を引く。
「ユリア!」
俺はもう片方の手で、ユリアのぷにぷにした身体を抱きしめて外へ連れ出した。
「き、貴様ら――」
さきほどと比べるとずいぶん片付いた応接間。目の前に皇子が立っていた。
─ * ─
亜空間から抜け出すことに成功したジュキたち。しかしそこには先ほどと変わらず第一皇子の姿が。さあ、どうする!?
俺は思わず指さした。だが一瞬もとの世界を見せただけで、そのすき間は閉じてしまった。
「だめかーっ!」
レモが頭を抱える。
「術式に間違ったところはないと思うんだけど……私の魔力が足りないのかな!?」
「俺が唱えてみようか?」
「そうね――」
レモが俺に手帳を渡そうとすると、ユリアが戦斧をぶんぶんと振り回しながら、
「じゃあわたしは細い切れ目をぶん殴って広げる役目ね!」
「いや、物理的にぶん殴れるもんじゃないだろ……」
冷静に突っ込む俺。
「――あ」
レモが小さな声を上げた。
「ジュキの精霊力をこめた聖剣アリルミナスなら、あるいは――」
「そうか! 悪しきもののみを斬る聖剣なら、空間をねじまげて作った不自然な境界を断ち切れるかもしれねえ!」
「呪文を書き換えるから待って! 聖剣に空間魔法を乗せられるようにするの」
レモはまた座り込んで、ハンドブック片手に集中しだした。
手持ち無沙汰になった俺は、ユリアを振り返る。
「レモはすごいな。魔術の知識が豊富で」
「そうだよーっ」
ユリアは我がことのように胸を張る。
「レモせんぱいは『現代の賢者の一番弟子』って言われてるんだから!」
「セラフィーニ師匠か。一見、気のいいおっさんにしか見えねえけど、すごいんだよな」
俺はまだ彼の実力を見たことがない。
「俺たちが今倒したスキュラなんかも一発だったり?」
「まさか」
ユリアが真顔で答えた。
「え?」
訊き返した俺に、
「お師匠さまは戦わないもん。安全なところで頭をひねるお仕事」
軍師的ポジションってことか。
「お師匠さまはね、魔力量はレモせんぱいの四分の一、体力はわたしの十分の一、頭いいのだけが取り柄」
「ま、賢者だしな」
そもそもレモの魔力量は人族としては異常値だし、ユリアの力もまったく常識が通じない。比較対象が間違っている気がする。
「今度こそできたわ!」
レモが自信たっぷりな様子で、俺に手帳を見せた。
「分からないところがあったら言って」
魔術は呪文を唱えるだけでは発動しない。その意味を理解し、イメージできることが大切だ。俺はレモ手書きの呪文に視線を走らせながら、
「風の精霊に呼びかけて空間魔法を発動させて、聖剣にまとわせるんだな?」
「その通りよ! ジュキって頭も良くてかっこいい!」
レモが抱きついて来た。興味のないことについては何も理解できないタイプだから、別に頭が良いほうではないと思う。でもレモが褒めてくれるのは、うれしい。
「よし、覚えた!」
俺は手帳をレモに返し、聖剣を抜いた。
目の前に剣を構え、呼吸を整える。精神を集中させ、へその下あたりに熱いエネルギーのかたまりを感じる。それが胸へと上がり、両腕を通して聖剣へ流れ込んでゆくのをイメージする。
「聞け、風の精、空を統べる主よ。聖なる剣へ宿りたまえ」
呪文を唱え始めると、それまで無風だった亜空間の空気が、ゆらりと動いた。
「我ら集いしこの場はかりそめなるもの――」
風の精霊たちが聖剣に宿り始めたのか、刀身が新緑を映し込んだような若草色に輝きだす。
「穢れなき刃にて奇しなる境斬り裂きて、我らが身、現へ転じたまえ!」
まばゆい光を放つ聖剣を、俺は何もない空間に向けた。
「亜空間消滅!」
言葉と同時に聖剣を一閃すると、空間に一筋の裂け目が現れた!
「ユリア、こじ開けまーっす!」
右手を挙げて走り出てきたユリアが、空間の裂け目に両腕を突っ込んだ!
「嘘だろ!?」
「物理的にさわれるわけ――」
レモの言葉が終わらぬうちに、
「ふんぎゃぁぁぁ!」
ユリアがかけ声とともに、空間の切れ目を広げた!
「レモ、飛び出せ!」
「ジュキも!」
現実空間に片足を出して、レモが俺の手を引く。
「ユリア!」
俺はもう片方の手で、ユリアのぷにぷにした身体を抱きしめて外へ連れ出した。
「き、貴様ら――」
さきほどと比べるとずいぶん片付いた応接間。目の前に皇子が立っていた。
─ * ─
亜空間から抜け出すことに成功したジュキたち。しかしそこには先ほどと変わらず第一皇子の姿が。さあ、どうする!?
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた
夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。
無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。
やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。
【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】
~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~
ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。
学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。
何か実力を隠す特別な理由があるのか。
いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。
そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。
貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。
オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。
世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな!
※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる