【本編完結/番外編追加】真・誓いの指輪〜彼のことは家族として……そして、人生の伴侶として愛することを心に決めました〜

山乃山子

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7、愛情ゆえの心配①

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掃除当番と補習とで、普段より遅い帰宅になってしまった。
普通に考えれば、高校生なら8時だろうが9時だろうが何てことはないのだろう。
しかし、父子家庭で家事を一手に引き受ける楓はそうも言ってられない。
掃除、洗濯物の取り込み、食事の支度……どの手順でこなそうかと頭の中で考える。

(とにかく、急いで帰ろう)

何よりも大事にしたいのは、康介を出迎えることだった。
刑事という職業柄、彼の帰宅時間は一定ではない。
早い時も遅い時も、帰れないことだってある。
どんな時であっても、「お帰りなさい」と言って出迎えられるようにしておきたい。
補習でいつもより遅くなったこの日、楓は急いで自宅に向かった。





「あ……」

マンションの8階にある自宅。
玄関を開けた楓の目に、康介の後ろ姿が映し出された。
どうやら今日は帰宅が早かったらしい。こんな時に限って、だ。

「楓!」

背後に気付いた康介が振り返る。
少し険しい顔をしているように見えた。
出迎えることが出来なかったことに肩を落としつつも、楓は笑顔を作って康介を見上げた。

「お帰りなさい、康介さん」
「あ、ああ。楓もお帰り」

楓の肩に手を置いて、康介は大きく息をつく。
その顔から険しさは消えていて、穏やかな表情になっていた。

「すぐに食事の準備をするから、先にお風呂に入ってもらって良い?」
「ああ、分かった。それじゃあ、頼む」

電気を点けてスタスタと中に入る。
明るい部屋の中でいつも通りに存在している楓を見て、康介は密かにほっと胸を撫で下ろしていた。





「うん、美味い。相変わらず見事だな」
「本当? 良かった。急いで作ったからちょっと不安だったんだ」
「楓の料理に外れは無いぞ。俺が保証するから自信を持て」
「ふふ、ありがとう」

風呂から上がった康介を出迎えたのは、カルボナーラを中心にしたパスタメニューだった。
カラフルな野菜サラダと、温かいトマトスープが食卓に更なる彩りを加えている。

「俺が風呂に入ってる間にこれだけ仕上げちまうんだから、恐れ入るよ」

ガツガツとカルボナーラを食べる。
香ばしく焼けたベーコンが更なる食欲を刺激して、勢いが止まらない。
美味しいものを食べることで、自然と顔に笑みが浮かぶ。

「将来は料理人になるのもありかもな」
「僕が?」
「ああ、もちろん」
「うーん」
「こんなに上手だから料理が好きなのかと思ってたが、違うのか?」
「ううん、好きだよ。でも、康介さんに喜んでもらうことしか考えてなかったから」
「え?」
「他の人にも喜んでもらえるかどうか」
「そりゃあ、もちろん。美味い料理ってのは全ての人間を幸せにするもんだ。
 楓には間違いなくその才能があるぞ」
「そ、そう?」
「あー……でも、今ちょっと俺の中でせめぎ合いが発生してるな」
「せめぎ合い?」
「たくさんの人に楓の料理の美味しさを知って欲しい気持ちと、
 俺だけのものにしておきたい気持ちが喧嘩してる」
「えぇ……」
「まあ、なんだ。ゆっくり考えて、やりたい事を見つければ良いんだ。将来は。
 考える時間はまだまだたっぷりある」
「うん。ありがとう」

親子らしい会話を交わして、穏やかな時を過ごす。
やがて食事が半分ほど過ぎた頃、康介が何気なく切り出した。

「なあ、楓。今日は何かあったか?」
「え?」
「いや、普段なら帰ってる時間に居なかったから。
 まあ、高校生だし。別にめくじら立てるような時間でも無いんだが」

高校生になる息子に干渉して雁字搦めにしたいわけではない。
ただ、先の事件のことがある為、心配だった。

「うん。学校でね、補習を受けてた」
「補習?」
「うん。僕は数学が苦手だから、先生が補習をしてくれることになって」
「ああ……」

康介の心配を察してか、楓は事もなげに答えた。
その内容に、康介は少しばかり拍子抜けする。

「そう言えば、テストが近いんだったか」
「うん。他の科目は何とかなりそうなんだけど、数学だけちょっと……」
「しばらく学校どころじゃなかったもんな。仕方ないさ」
「……うん。先生もその事を考慮してくれて。
 それで、補習の時間を作ってくれたんだ」
「そうか。そうだったのか」
「心配かけてごめんね」
「いや、良いんだ。理由が判って安心した」
「心配してくれてありがとう」
「当たり前だろ。俺はお前の親なんだから」

ほっと息をついて、康介は止まっていた食事の手を再開する。
先ほどまでよりも、美味しさが増したような気がした。

「それにしても、良い先生だな」
「うん。わざわざ僕の為に時間を作ってくれて、本当にありがたいことだと思う」
「数学ってことは担任か」
「うん。中岡先生」
「ああ……」

康介の脳裏にしかめっ面の中年男性の姿が思い起こされる。
直接会ったのはつい最近……楓が巻き込まれた事件について説明しに行った時だ。

「気難しい奴だと思っていたが、生徒思いな一面もあったんだな」
「うん。僕も誤解してた」
「まあ、なんだ。少し大変かもしれないが、頑張れ」
「うん。頑張る」

笑顔で頷く楓を見て、康介もまた笑みをこぼした。
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